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ポスト・オフィスに届く、彼らの冒険記  作者: モキュドレイク
読み聞かせ1 『歴史を求める者』
12/13

1ー10 アル大陸の歴史者

 クレーブに着いて2日目。昨日はここ最近の旅の中では、長い1日目だった。そう思いながらハガルは朝の身支度をしていた。『歴史文書』、『守り人』、これらの言葉が一気に聞けるとは考えもしなかった。ムウに起きたこと、自分が下した決断、ブレンの献身。少しだけ実を結ぶのではないかと、淡い期待をしてしまう。

 顔を洗い、鏡を見る。昨日の戦いでついた傷があったのだが、ふさがったようだ。ああ、顔の水滴を拭く布を用意していなかった。辺りをキョロキョロと探していると、目の前に布が突き出された。突き出されたというか、正確には顔を向けた先に差し出されていたのだが。



「布の準備ぐらい、普段はするだろ。ちょっと浮かれているのかい?」

 そう言ってはにかむブレンが居る。

「昨日はいろいろあったから浮かれているかもな。布、ありがとう。」

「どういたしまして。」

 顔を拭くハガルにブレンは話し続ける。

「それで?ムウがバカで、結果特大情報をもってきたところまでは分かったよ。」

 ハガルは顔を拭きながら、拭き布のすきまから顔を見せつつ、

「そうだな。『守り人』が本当にいるって確認……確認というかムウの感覚での決めつけだけど、それができたからな。」と答える。

「確信できる情報ではなくても、ムウがまずいと感じる相手なんて限られる。それでいいよ。……そう自分を思い込ませないとムウに腹が立ってくるからさ。本当にバカがすぎるよ。」

「落ち着けよ、ブレ…」

「ハガル、さすがに今回のムウに対して甘いよ。昔から一緒にいるからと言って、……昔いろいろ起きたことも含めてなのはわかる。だけども、危険すぎるだろ今回のは、だいたいさ…」

「よし!止めよう!先の話をしよう!…俺からまた言っておくよ。」

「言えるようにするならムウを起こそうよ。」

「ん?まだ寝てるのか?」

「熟睡。昨日の疲れは加味する。込み込みいつも通りのお寝ぼうさんだよ。」

「ふー。さすがに起きてくれないと動けないな。行ってくる。」


 ハガルがムウのところへ向かおうとするその背に、「ハガルそれなら。」とブレンが声をかけ、

「昨日のコーカとバルチの2人に話をつけてくる。同じ宿にいるらしいから。」

「ああ、助かるよ。俺たち以外の戦力を確保できるなら、今はそれを結論としよう。あちらさんの目的は俺達の動きを見て何かしら推測したい、だろ。間違いなく別の目的を含んでいるけれどさ、それぐらいならなんとかなりそうだし。」

「了解。じゃあ行ってくるよ。」

「頼む。」

 ハガルはあらためて、ムウを起こしにいく。ブレンはコーカとバルチのところへ駆け足向かった。



 ブレンがコーカの名を宿主に伝えると、すでに話を通していたらしい。「コーカ様に確認をとってきますね。お待ちくださいね。」と若い宿主は言うと、きびきびとコーカ達がいる部屋の方へ向かっていった。

(宿のあっち側って、いい値段がする部屋だよな。)

 金をもっているんだな。やり手の商人なのは間違いないか?お金によく困る僕たちには羨ましいなあ……。

 思いを巡らせていたが、実際は数分とかからずに宿主は戻ってきた。来て早々、笑顔で「部屋まで来てほしいそうですね。」と伝えてくれたので、部屋の場所を聞き、そこへ向かう。


 ここはクレーブでも最大の宿。町長の計らいで泊めさせてもらえている。一応自分達は一般的な宿泊部屋に泊まっているのだろう。……それに比べて、と、宿の廊下を進みながら考える。

(本当に羽振りの良い商人で済ませていいのか?)


 お金持ちが泊まる部屋はある。あるが、空いた部屋をちらりと見ると部屋の家具が立派だったり、広かったりする部屋だった。どの町にもある、いい部屋だ。値段もその分いい部屋。そして宿には大体数室、最上級の部屋がある。コーカ達はそこに連泊しているようだ。待っている間に宿主の帳簿が見えたので、何気なく興味がわいてちらりと見た。そこにコーカ達が連泊、もっと言えば長期にわたり部屋をおさえていたことを知った。……ちなみにだが新しい季節を迎えられるくらいおさえていた。


(……本当に商人か?羽振りの良い、気前のいい商人ってことでいいのか?お金つかいすぎだろう。)

 ムウとは別方向のバカの可能性を見据えながら、コーカ達の部屋の扉をノックする。すぐにバルチが出迎えてくれた。

「ブレン様、昨晩はどうも。コーカ様は奥の部屋にいらっしゃいます。こちらへ。」

「どうも。」



 バルチについていき奥に進むと、ブレン達の部屋と比べて倍以上の広さがある部屋があった。飾りつけも家具も一級品。そんな素敵極まる部屋に、コーカはだらしなーく、本当にだらしなーくソファに寝座っていた。みるみるバルチの顔が曇り、怒りの筋が顔に浮かぶ。これは、とブレンが思う間もなく、バルチが口火を切った。


「コーカ様。客人がいらしているのです。いらしたと言いました。な、ぜ、だらしなく待っていたのですか?」

「バルチ、いらしたんだろう?どう待てとは言われていないぞー。」

「言われなければ分からないタイプのお子様ですか?あなたは?」

「もう大人だぞ私はー、バルチ―。見れば分かるだろーう。というか、長い付き合いだろーう?知っているくせに。な!」、そう言って体を起こすコーカ。

「論点をずらさない。言葉尻をとるのも、言い訳するのも、未熟者のすることと考えます。」

「オイ!主君を未熟者呼ばわりはないだろう!」

「ふぬけ、愚か、バカ者と呼ばないだけ良いでしょう。」

「呼ばないってことは思っているだろう!」

「いいえ、まさか、主君にそんな。」

「嘘をつくな!このカタブツ従者!」

「私は誠実です。カタブツかもしれませんが。」

「いや、お前も同じように言葉尻とっている……」


「ねえ!やっぱり戻っていい!?昨晩と同じ気持ちなんだよ!」

 ハガルの叫びツッコミに、コーカが笑う。

「あっちゃー!はははは、バルチ、お前のせいだぞ、これはきっと。」

「コーカ様でしょう。どう考えても。」


(いや、お前らのやり取りのせいだよ!)

 原因はコーカだが、口火はバルチ。どっちもどっちという結論までもっていったブレン。……ハガルがもしいたら、この様子を見て、(ブレンとムウも似たようなものだろ。)と内心思われていただろうが。



「さて!戻られる前に!昨日の話を受ける、ということでいいな!」

 さっきまでのだらつきはどこへやら、コーカはさっさと本題に入る。

「……不安なんだけど?ドン王国軍を本当に動かせるのか?お金はあるみたいだけれど、時間が……。」

「ああ!心配だよな!うっし!隣の部屋行くぞ!」


 そう言うと、ブレンを置きざりにする勢いで部屋を出ていく。部屋の扉ぎりぎりで「ういうい、はやーく!」と顔と手招きのセットで呼びかけるコーカと、「言葉遣いが……、本当にあの方は……」と、なんだかぶつぶつ言ってるバルチがすたすた行くので、慌ててブレンは追っていく。

 

 隣の部屋の扉はすでにコーカが開けており、バルチに続き部屋に入っていくとドン王国軍の兵がいた。装備にドン王国の三つ編み線が添えられている。たしか上級兵の証だったはずだ。


「……というわけだ。招集と増援要請を頼むぞ、チロ大軍団長。」

「承知いたしました。クレーブ近郊の兵の招集完了については、日が最も高くなるころには済むでしょう。増援は日が暮れ始める頃の完了かと……。増援の兵力、さらにここからは加えて招集兵への方針、目的、方法まで教えていただけるとスムーズなのですが。いかがでしょうか。」

「兵力は呼べるだけ、方針は町の防衛、目的は『ゴウコク』の冒険者達の協力のため、方法は……まあ師団ごとに満遍なくクレーブの町に配置か?細かいとこは任せるぞー。」

「……承知いたしました。」


(呼べるだけって……)というチロ大軍団長の心の声が漏れ聞こえてくるような表情が一瞬見えたが、ブレンは見逃すことにした。それよりも急いでコーカに聞かなればいけないことができた。


「君は大軍団長を呼べるっていうのか。」

「うん?ああ、造作もないぞ。私が呼べば一発オーライだ!」

「そうか、そうなのか。」


 大軍団長はドン王国の兵序列で上から2番目だ。その上には総軍団長がいるが、それはドン王国で軍の管理をしている立場だ。大軍団長もそれに準ずる立場のはず。前線に出ていることがあるとは聞くが、呼びつけられる存在かと言われるとそうではない。特に、商人がおいそれと呼べる立場ではない。クレーブ町長でも気軽に呼ぶのは難しいのではないだろうか。


(コーカはバカだとしても、どんな立場にいる人物なんだろうか。)

 ブレンの疑惑。商人ではないという、十中八九当たっているであろう推測。その疑惑には答えないが、コーカは考える表情を見せたブレンに伝える。

「チロのやつがいたのは、たまたまだ。なんか隣町で今まで起きたことがない規模の被害があったらしいからな。やりすぎかもしれないが大軍団長様まで遣わされたそうだ。」


(あー、やっばい。)、そう、ブレン達には心当たりしかない。加害側のブレンは知らんぷりを決め込んだ。……まあ、コーカつながりで大軍団長を呼べて結果オーライということにしよう。そうしないと、追求されたときにまずい。うん、そうしよう。

 そんなことを考えていたブレンだったが、もう1つの聞きたいことをコーカに問う。


「それと、これは、そうだな。……『ゴウコク』を知っているのか?」

「ああ、バルチに調べさせた。一応冒険者でチームなら何かしら登録しているだろう?そしたら『ゴウコク』ってチーム名が出てきたからな。覚えといたんだよ。」

「そういうことか。」

「別に不思議なことでもないだろう。取引するなら相手のことは調べるさ。商人だからな、私は!」

「ああ、じゃあ変なことを聞いたな。」

「……聞かれすぎたり、知りすぎたりすると不都合があったりするのかい?」


 にやにやしてくるコーカ。ブレンは生意気に、「いいや、別に?お好きにどうぞ。」と返す。実際問題、確信には迫れないはずだ。登録してある情報以外のことは、世に広まっていることではない。仮にコーカに知られても、……大軍団長を呼びつけることができるコーカに知られても、大丈夫だろう。



「……よし!話は終わりだ!君たちは君たちで動きたまえ!私はちょっと外すよ!話があるなら、もう一刻後に宿に来てくれれば、まーなんとかなるようにしよう!では、さらば!」

 そう言うなり、コーカは歩き出し、バルチが付き添うように後ろについていく。チロ大軍団長もブレンに一礼し、部屋を出る。



 嵐のようにさっていったコーカ達。だが、サフメカ部隊が行えるであろう、分散戦力によるクレーブ襲撃。自分たちの手に余るそれには対抗できるようになった。……しかし、それを踏まえてなお最後にブレンは一つ、どうでもいいけれど言いたかった。


「部屋の戸締り、どうすんの?」

 入り放題の部屋の処理をなぜか投げられたブレンは、あきれつつ、自分の部屋に戻っていった。




「ハガル。戻ったよ。ほぼ話通りだった。」

「おっ!それはよかった。」

 外に出かける支度をしているハガル。それを見たブレンはムウの姿を探す。

「今日の行動開始だ。……ムウは?姿が見えないってことは起きたんだろうけど。」

 ハガルが苦笑いの顔になる。……ムウのやつまさか。

「……ムウさ、『ハルの匂いだ!』って跳ね起きて、さっさと準備して宿出ていったよ。」

 ハガルが「宿出……」ぐらいから、ブレンの「あ、い、つ、さあ!!!!」という咆哮が響きわたっていた。




「ねえ、ムウさ。仲間の人達、放っておいていいの?」

 ハルからの当然の質問に、「えー全然平気ー。」と、ブレンが聞けば怒りつくすことを平然と述べる。幼いハルでも、(大丈夫じゃないんだろうな。)と思える返事をしてくるムウ。どっちが大人だか分からないやり取りをしている2人。そんな2人は花屋で花を買っていた。

 花屋を昔から営んでいるおばあちゃん。ハルが花おばばと呼ぶ人。花おばばはやわらかな物腰でハルが買った花を束ねてくれていた。ハルは花束をもらうと、花おばばに「まったねー!」と元気に伝えて家の方へ戻っていく。ムウはハルを追おうとする。そのとき花おばばが呼び止めて少しだけ話かける。


「ハルちゃんと仲良くしてあげてね。ムウさん。」

「えー。仲良いですよー。もうとーっくにー。」

 にっこりと笑う花おばばは、「あら、嬉しいわねえ。ムウさんはハルちゃんのお姉さんみたいだもの。そうよねえ。」と言う。「お姉さん」と呼ばれたことにとても気をよくしたムウはニコニコし始める。花おばばは続けてこう言った。

「ハルちゃんはお母さんがいないしねえ……、姉のように慕っていた人も今は姿を見なくなっちゃたしねえ……。厚かましいけれどね、よろしくねえ。」



 自分以外にハルの姉と呼ばれた人へのちょっとした嫉妬も混じっていたが、(ハルのお姉ちゃんみたいな人?誰のことだろう?)とムウは思った。そういえば、城に行く前に何かそんなこと言ってた気がするなあー、と思い出し、あらためてハルに追いついた後に聞いてみた。


「ねー、ねー。前になんちゃら姉って言ってた人って誰ー?花おばばが言ってたんだけどー。」


 ハルは教えてくれた。ハルがもっと幼い時に会っていた女性のこと。それはこの話で大切な人のこと。



「あ、シア姉のこと!?シアターお姉ちゃんはね、クレーブの町の人でね、昔遊んでくれてね……」

 まとまらない話を、うんうんと聞くムウ。


 その名は、ユニットのシアと呼ばれる者と同じ。













―――――――――――――――――――――――――――――――――――――






















「ねえ、オフィス。少し読むのを止めてほしい、ほしいのよ。」


 ポストがオフィスに言う。


「どうしたの?ご飯?もう寝る?」


 オフィスがポストを気遣って言う。


「いいえ、少し待ってほしい。考えるの、考えているのよ。」


 ポストは答える。真剣な表情。


「わかったよ。ポストが言うなら。」


 オフィスは真剣なポストを待つ。




「ああ、思い出したのよ。シアターという者。」

 

 ポストがオフィスを見る。


「誰なんだい?」


 ポストが望むように、オフィスは問いかける。


「シアター。アル大陸の歴史者。」


 オフィスに向けて、ポストは伝える。

 そして言葉をつなぐ。


「6人の歴史者。その中で、今、私に所在を明かしていない歴史者の1人。」

 

 オフィスはそれを聞いて、ポストに聞いた。


「隠れていたの?でも、このお話にはちょこちょこ出てきていたじゃないか。」


 ポストは答える。


「私が歴史者達を観測できるのは、ポスト・オフィス・ブックでのみ。」


 ポストは続ける。


「歴史者でありながら、彼女は歴史書を綴っていないのよ。」


 オフィスが問う。


「問題はないだろう?」


 ポストが答える。


「ええ、そうよ。でもね、私が大変にはなる、なるのよ。」


 オフィスは言う。


「だから、この話が届いたのかな?」


 ポストは、誰に向けたものでなく言う。


「それは、読み終わってから分かるものよ。」


 


 読み終えた私が、届いた意味を感じ取るのだから。


 


 世界の歴史者ポストはゆらがない。





 


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