1-8 語れ 答えよ 私のために
頭の後ろで手を組み、ムウはハガルの少し前をゆらゆらと歩いていく。ハガルが小刻みに2歩進む間に、ムウはちょうど大また一歩。歩く速さは同じ。だからムウには追いつかない。
いつもなら、「ブレンもう寝ちゃったよねー。」とか、「ハルどうしてるかなー。」なんて、とりとめのない会話を絶やさず、隣で一緒に歩く。今そうでないのは、町長の依頼をハガルから聞いたからだ。
ハルの願いとは噛み合わぬ依頼。そうであるのに、自分たちの目的に大きく迫る依頼。それを理解できぬムウではない。「そーかー」の一言後、少し駆け出し隣を歩かなくなった。
(思いを伝えたい言葉が出てきてないんだよな。)
ハガルは思う。ハルの気持ちに応えたいのだ。そのために町長の依頼を受けたハガル、そしてブレンが納得する言葉を考えているのだろう。
一人離れて遠くを見る時のムウは、いつも言葉を探している。待ってあげるしかない。
ハルとアキの家から森を通り、町長の家が見えてこようとしていた。月明かりが森の道を照らす。夜行動物の目がチラチラと光っていた。これから、獲物を探し、行動する小さな動物たち。不規則に見取れる眼の光がうごめき始めていた。
いくつかの光の中で、人間の高さをもつ目線。ただ一対が二人をのぞき込んでいた。
ムウを見る。ムウは頭の後ろの手をおろし、ハガルとの距離を自然に合わせていく。
木々の隙間から除く一対の目は、人の歩みをもって近づいてくる。
歩みを止めた二人はその相手を待つ。木々に風が吸い込まれ唸りをあげる。月明かりでその者の顔が見えていく。
細身の男。白衣の裾が腰で破れ、よれた長袖とカーゴパンツを身に着けている。
初めて見た時の奇天烈な動きを見せず、軽やかに一歩一歩近づいてくる。
ユニット幹部、「ドクター」。
「誰なのさ」
ムウは構えてハガルに聞く。
「ユニットの『ドクター』と呼ばれる、幹部だよ。」
「んんん、通称だのだな。名乗ろうか、名としてロオ・アココ。こんな名と趣味ゆえ『ドクター』で通ったようだ。」
「へえー、よろしくねえー。」
そのやり取りの間、ドクターはかかとでトントンと地面をこずく。と、思うと次は手でももをリズムよくたたく。そうすると首をゆらゆらゆらす。…見ていると落ち着かない男だ。
そんなドクターは立ちふさがっている。どく気がない。
ふと見ると、機械の装具が右腕についていることが分かった。その機械から伸びる管が右手の甲に三本刺さっていた。管を通して何かを得ているのだろうか。
顔を右指でかきながら、ドクターはおもむろに話し始める。
「サフメカ達は戻ったよ。これは私の散歩なのだよな。聞くこと聞いて、やることやるため帰らなければならんのだよさ。だってことで問いかける。」
「長ったらしいなー。」とムウがぼそり。
「んんん、サフメカも言っていたな、まあまままあ、いいのかいと、そうだからな。問いかけるのだ。忘れそうだからだな。」
「堂々と探りを入れてくるんだな。」
ハガルの返しにドクターは口の下だけおろし、目が笑わぬ笑顔をつくる。
「探り探り!?そんなくされたこと聞くかな、聞かない!私の実験!ただそのためのキーーピース!そうなるかを確かめたいのだよな。『力』についてさあな!」
「それ探りいれてるのとかわらないじゃーん。」
「期待を確信に。仮定を結論に。それだけだのだな。サフメカに使った『力』、『借り物』、『3人組の冒険者』と知りえた。…んんん、ここは探りか、負けた心持だあああああ!!認めて探ろう!『力』の持ち主は女、借りた男で確かかなのだな!?」
「長いし、意味わかんないなー。…でも」
ムウが伝える。
「…『力』についてなんか知ってんの」
ドクターのふりきった言葉が、行動が、元の温度に戻っていく。そうして一息にこういった。
「異界の『力』、『竜の叫び』、転じ伝わり『呪い』とされじ。」
「…あっ、そうー。伝承を知っちゃてるのねー。」ムウが顔をしかめる。
「眉唾の伝説なのだな。『呪い』とするなら無慈悲かな。…私が探し求めても、そんなことを信じる者はいなかった。誰も、そうだな。あの時から、求めた時から。」ドクターは空を見上げて言葉をつなぐ。
ハガルはドクターの言葉通り、信じぬ者として返す。
「なぜ、眉唾の伝説を信じて探していた。現実としてあり得ない話とされるから、伝説なのだろう。探し求めるバカなことはしなければよかったじゃないか。」
それを聞いてドクターは笑いだした。知っているだろうと。なぜそう返すのかと。天に向けて大笑いする。そして2人に顔をグリンと向けてこう言った。
「『ユウ』がいる。私は『守り人』と共にある。伝説の存在など、確信できるに決まっているだろう!」
(…ああ、その通りだ。)
ハガルとムウはそのユウの存在を確認している。そして、伝説が現在することは当たり前であると考えているのが目の前の男だ。ドクターは伝説を探し求める者なのだ。
つまり、こいつは、俺たちより先に、望むものを見つけたのだ。
丸く見開いた目、広げた腕は翼のようで、夜の鳥。ドクターは問う。
「語れ。答えよ。私のために、目的のために。その『力』、本物か。」
「そうだ。『竜の力』をもつ者と、『呪い』をもつ者さ。」
「…そうか、だのだな。たどりついたのだな。」
ドクターは求め得た。…うらやましいことだ。
「…感謝しよう。そうだな。……戻り、考えよう。」
ドクターは森の木々の間に消えようとする。
「知ってどうすんのさ。」
ムウの問いに、ドクターはもうふりかえらずに答える。
「腹が決まった。感謝を形にしようさ。…ユニットを動かす。すぐに。そうだ。目的のために。実験成功のために。君たちには伝えておこう。そうだな、だのだな。」
ドクターが強く踏み込む、信じられぬ速さで森の中へと消えていった。
姿は見えなくなった。だが、最後に2人へ言葉を残していった。
「備えるとよいさ。私にサフメカ…そしてユウが動く。クレーブなどもたないさ。備えるか、挑むのだな。」
「いいだけ話してさー。帰っちゃったよねー。」
「そうだな。俺たちのことを知ってどうするんだか。」
「なんか利用するんじゃないのー。…ブレン聞いてたら、とっても怒ってたろうねー。」
「そのブレンがいる宿に急ぐぞ。明日は早く動き出さなければだめだ。少しでも早く戻って休まないとな。」
「…そうなっちゃったみたいだねー。まだ依頼に対しての言葉出てきてないのになー。」
備えろとドクターは伝えてきた。目的のため、すぐにユニットを動かすとも言った。
「俺たちが依頼受けない方がよかったな。」
「『守り人』がいる依頼だよー。…めぐりめぐってたどりつく依頼だよ、きっと。」
「…伝説上の存在という自覚はなかったな。」
「それだって、遅かれ早かれだったでしょー。『世界は広く、歴史は長く』、だったっけ?」
「そうだな。」
「急ごうよ。さっさと寝て、ブレンと相談して、ご飯食べて…」
「山積みの課題に明日から向き合うために、まずは休もうか。」
2人はうなずき合い、宿に向けて駆けて行った。
「ああ、もう少しか。命をとして、叶えよう。私の目的…そう、願い。」
ドクターは2人よりも速い。城へと戻る。決意をもって。
「全力で暴れろと言えば、サフメカと部隊にとっては願ったりなのだろうかな?いやあ、俗な部隊にはならぬように、そのようにかなあ。そうだろうなあ。」
ひとり呟き、駆けていくドクター。しかし突然止まる。おもむろに大笑いしたときに目に残った、一番きらめく星をドクターは見た。一等輝く、知りえぬ異界の星。今はその星にもたどり着ける心持ち。ドクターの半開きの口から、言葉がもれた。
「…シア。私は願いを叶えるよ。『歴史者』を超えてみせよう。」
オフィス「歴史者を超えるねえ…無茶苦茶だな。」
ポスト「私より強いから危ない、危ないのよ!」
オフィス「ポストをねらってるわけじゃないと思うけど?」
ポスト「私は弱い、弱いのだのだなのよ、だのよ。」
オフィス「話し方、混ざっちゃってるよ!なおしてポスト!」
ポスト「大丈夫だのだなのだよなだの、だのなよ。」
オフィス「一回、寝て!そして忘れまーす!」
ポスト「!!!!記憶力は!!!!!実はあるのだよのだのよ、のよのよ!!!!」
オフィス「すごいから!分かったから!だからその話し方が染みつく前に、寝て忘れてくれえ!」




