プロローグ お話聞かせて
「お気に入りのお話を聞きたい。聞きたいのよ。」
彼女、ポストは言った。
「突然どうしたんだ?」
彼、オフィスが聞いた。
「あなたのお気に入りのお話を聞いたら、面白いかなって。思いつきよ、思いつき。」
本に記録しながら、ポストが答えた。
ポストとオフィス。
2人は生まれたときからここにいた。
ここは「ポスト・オフィス」という場所。ただの木造家。2人で住むには十分な広さ。変なところは、この家に世界で起きた出来事や話が届くところ。そして、世界の歴史が残されていく場所でもあった。
ポストはここで世界について綴っている。世界で何が起きたかを、歴史として記録する。無限のページの本へ、ひたすらに書き込んでいく。淡々と、自分の役割としてポストは働く。
ポストは話を続けた。
「大きな流れは、私、分かるの。だから本を書く役割を引き受けた。でも、本音は面白くないのよ。だから息抜きがほしいのよ、息抜きが。」
「疲れたから、わがまま聞いてほしいんだろ。」
「あなたの何倍も大変なことしてるんだからね。」
「否定できんな。……お気に入りのお話かあ。」
オフィスは悩む。なぜならオフィスにお気に入りのお話とかそんなものはなかったからだ。正確にはそれを知る時間がほぼなかったのだが。
オフィスのここでの役割は料理、洗濯、掃除……ポストがしないこと全部だ。
オフィスは、「ポストの役割だから、出来事や話を自分が知る必要はない」と思っていた。そして今回、それが裏目に出たのだった。
「作り話でも……」「認めない、認めないよ」
オフィスの言葉をポストがさえぎる。今回のわがままはポストが興味を惹かないと認めないそうだ。
(このままだと本、書かなくなるよな……そっちの方が認められないんだけど……困ったなあ……)
さて、どうしたものかと考え、ふと思い出す。
「なあポスト。」
「何?何?」
「『歴史を求める者』って話が届いていたよな。」
「あ、届いていたわね。本に書くまでもないから、その辺に置いたはずだけど。」
「ここに届いたことを雑に扱うなよ……」
「だってたまに届く、書かなくてよしと判断した一つだもの。」
「そうか……この紙山だな。」
「かなりの枚数の手紙が冒険記封筒に入ってた物と思う、思うわ。」
「分かった。少し待っていろよ。」
2、3分で探し物は見つかった。
ポストはじっとその様子を見つめており、手紙に興味を示した。オフィスはそんなポストを見て笑みがこぼれる。
(よし!思いつきが大当たりだな!)
オフィスはポストがこの手紙を見ていた時のことを思い出したのだった。その時ポストは「『歴史を求める者』?変な者だわ、変な者。」と、珍しく反応していた。
(そんなことあったし、興味惹くんじゃないか)
そう安易に考え、見事にはまったのだった。
「俺が興味あるんだ、一緒に読んでみないか。」
そうやってオフィスが切り出す。
「オフィスが一緒に読んでくれるならいいよ、いい。絶対にいい。間違いない。間違いないよ。」
ポストが食い気味かつ嬉しそうに言ってきた。
「決まりだな。」
オフィスは安堵してそう言う。
「読み終わったら評価するから、評価。」
ポストがいたずら笑顔で伝えてくる。
オフィスは苦笑いを返した。
ポストがオフィスの横に来て勢いよく座る。読む前に、オフィスは思ったことを口にする。
「それにしても、『歴史を求める者』……なぜこの程度の話が届いたんだ?ポストの本にのるほどじゃないことは俺でも分かるぞ。」
「そうね。そう。大きな流れにはない。私が書き残すまでもないと断言できる。……けれど、見過ごせないと感じたのも事実。そう言う意味でも私が知っておかないといけないと思う、思うのよ。」
「それは息抜きにならないんじゃないか?」
「うん?私の中では今、息抜き中よ、息抜き中。」
「そうなのか。」
読み始めてなにか言われても困る。
そこで確認してみたが大丈夫らしい。
「じゃあ読み始めるぞ。」
「うん。うん。」
こうしてオフィスは手紙を読み始めた。
今、この瞬間、歴史を求めて生きる彼らの物語
2人の運命に届く、彼らの冒険記