あ?なにこれam1:16ねむい
私は赤く染まった左頬を隠す素振りもなく、手ぶらで夜の街を彷徨い歩いていた。夜といっても午後6時頃だが建物や街灯の少ない田舎ではこの時間から暗くなり始めるのだ。
テストで母の望む点数に達さなかった為だけに私は殴られた。いつもなら平謝りしてお母さんの機嫌を伺っていたが、なんだかお母さんの期待に応えることがどうでも良くなってしまって家から飛び出した。
彷徨い歩いていると田んぼ沿いにある青いベンチに座っている人影が見えた。近付いて寄ってみると見慣れた顔がそこにはあった。パパだった。でもおかしい妙に顔色が悪いしずっと俯いている。「パパ」と私は声をかける。するとパパは一瞬鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして私を見たあと、静かに微笑んで私の頭を撫でてくれた。パバの優しさに堪えていた涙が溢れだした。どうして家に帰らずベンチに座っているかなんて疑問なんかはすっかり消え、私はパパに愚痴を聞いてもらって沢山慰めてもらった。パパは「期待に応える必要はないんだよ。でもねお母さんもミカの事が嫌いで殴ったわけじゃないんだよ。それだけは分かっていてあげてね。」そう言った。
私は感情的になって家を飛び出してきたことを申し訳なく感じてきてパパと一緒にお母さんの待つ家に帰った。帰り道パパの大きくて冷たい手を強く握りながら2人で歩いた。
家に帰ると、私は「お母さん、ただいま。さっきはゴメンなさい。道でお父さんに会ったから2人で帰ってきたの」と少し大きな声で言った。だが、お母さんの返事は帰って来なかった。不思議に思いパパに顔を向けたけどパパはベンチに座っていた時のように俯いていた。
俯いたままのパパの手を離し、私は玄関からリビングへと向かった。「お母さん!」そう声を上げた私の目には、私が映った。何かに反射して見えた私ではない。床に倒れている私。
あぁ、全部思い出してしまった。パパは2年前に他界しているし、私はさっき母親に殴られたはずみで床に倒れ込みその時に運悪く頭を打ったんだ。