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冒険はすぐには始まらない

 俺が『ダンジョンでいかに稼いでいるか』を語れば、ジョシュア達はあからさまに反応した。


「しかしそうか、ダンジョンか。陛下からもそろそろ修行として一回は行っておけって言われてるしな」

「あ~、それうちも言われてる。そろそろ一回くらいはいかないとまずいよなぁ」

「僕もです。攻撃魔法を習ったのだからと、最近は特にせっつかれてますね」

「君達もか。……となるとこれは、煩いお小言からも逃れられミルキーへの贈り物も買えるというナイスアイディアなのでは?」


この世界では、魔力が高い故に貴族は尊ばれ、だからこそ有事となればその魔力をもって戦うことが求められる。

 なので学院でも戦闘訓練はするし、明文化はされていないが、一度はダンジョンに行って実戦を経験することは貴族子弟の責務。

 しかし、このアホの子三人組はまだ経験していない。

 よくわからんが、ゲームを知ってるはずのミルキーが、全くダンジョン攻略に手を出さないんだよな。

 もしかしたら、恋愛パートにレベルは関係ないのか? 単に面倒なのがいやなのかも知れないが。

 

 そんなわけで未だに一度もダンジョンに行っていないことを煩く言われている三人組は、この話に乗ってくるんじゃないかと思ったんだが、大当たりだった。


「ダンジョンで稼いだ金なら、好き勝手使っても文句は言われないし!」

「ミルキーへの贈り物はもちろん、眼鏡をいくつ壊しても!」

「いや、それは壊れないようにしろよ……」


 ツッコミは入れるけれども、グレイもアレックスも乗り気な様子を見て、俺は内心でしめしめと思う。

 これで横領を防ぎ、週末ミルキーとつるむ時間を減らせる、一石二鳥の策。

 ここまでは順調と言って良いだろう。


「ならば早速次の週末に行ってみようじゃないか!」

「いいねぇ、行こう行こう!」

「そうですね、賛成です」


 即断即決なジョシュアに同調するグレイとアレックス。

 こういう、リーダーっぽいところは王子らしいっちゃらしい。アホの子だけど。まあそこは俺が手綱を取ればいいだけの話だ。


「ロイドはダンジョンに慣れているようだし、案内を頼んでもいいか?」

「もちろん。最初からそのつもりだ」


 じゃないと危ないしな。貴族の責務を果たすための自己鍛錬というお題目だから、護衛騎士達もついてこないし。

 そうそう死にはしないと思うけど。



 王家や高位貴族はもちろん、大体の貴族とその子弟はダンジョンで意識を失ったら自動的に所定の地点に転移する『帰還石』というアイテムを持っている。

 なので、超高レベルなダンジョンにいって一撃でミンチになるような一発をもらわない限りは大丈夫、なはず。

 少なくとも、俺が案内するつもりの初心者向けダンジョンなら全く問題はない。


 この辺りとてもゲームチックでご都合主義的とは思うが、そういう仕組みがあるんだから仕方がない。というか利用しない手はないから俺も利用させてもらっている。

 多分上の方では色々研究されているんだろうが、俺はまだそこに首を突っ込むつもりはないし。


 ともあれ、俺という保護者を確保できたジョシュア達は、目に見えて元気が出てきた。

 なんせ初のダンジョン挑戦なんだ、不安もあることだろう。

 ……俺がついてくとわかった途端に安心したのがあからさまだからって、別に嬉しくなんかないんだからな?


「ならば、早速今週末、ダンジョンに挑戦だ!」

「「おお~~!」」


 音頭に合わせ、勢いよく腕を突き上げる三人。

 いや、俺もついつい上げてしまったから、四人か。

  

 まあ、うん。

 なんだかんだ、俺だってこの三人のことを友人だとは思ってるのだから、これくらいはいいんじゃないかな。

 付き合いきれないと思うことも特に最近は多いんだが。


 しかしそれはそれとして、だ。


「挑戦はいいんだが、その前にお前らの装備だとかを確認するからな?」


 保護者として締めるところは締めないといけないから、俺はちょっと厳めしい強面を作ってみる。

 ジョシュア達は途端にびくっと身を竦めたんだが……おいおい、そんなんでダンジョン攻略とか出来ると思ってるのか?

 ダンジョンには俺より怖いモンスターが……モンスターが……。

 ……見た目だけなら俺より怖いモンスターがいるからな!


「装備って、武器と防具だろ? それくらいすぐ用意出来るって!」


 その中でも比較的物おじしないグレイがヘラヘラといつもの調子っぽく言う。

 うん、それでも若干冷や汗出てるの誤魔化せてないからな?


 というか、だ。


「うん、もうその時点でアウトだ。グレイ、お前は、ダンジョンで最も惨めな敗北を喫することだろう!」

「はぁ!? な、なんでいきなりそうなるんだよ!?」


 俺がいつもより若干強めに言い切れば、グレイが言い返してくる。

 が、その声はいつもより上ずっており、動揺しているのは明らかだ。

 それを見ているジョシュアは、え、え、と言わんばかりに俺とグレイを交互に見て慌てふためいているし、アレックスは処理能力をオーバーしてしまったのか眼鏡を抑えたまま硬直している。

 ……うん、やっぱだめだ。俺がいないと、こいつら速攻でダンジョンからたたき出される。


「グレイ。それにジョシュアにアレックス。ダンジョンで最も大事な所持品は何かわかるか?」


 俺が問いかければ、ジョシュア達は黙り込み、一斉に考え出す。

 ……こうやって不意を討てば、昔と同じく俺の言うことを素直に聞いてくれるんだけどなぁ。

 真っ当な反抗期ならそれはそれで受け入れるべきではあるんが、こう、今のこいつらはそれからも外れた状態だしなぁ……。

 などと親目線なことを考えているうちに、ある程度考えがまとまったらしい。


「そりゃもちろん、武器だろ?」

「いや、まずは防具だろう。私の剣の先生がそう言っていた」


 のっけから、グレイとジョシュアがまったく反対な意見を出してきた。

 それに対する俺の答えはもちろんあるんだが、いきなりそれを押し付けることはしない。


「ふむ。じゃあまずグレイ、なんでそう思った?」

「え? そりゃもちろん、敵を倒せなきゃ意味ないじゃん! ばっさばっさと倒していけば、サクサク進むし!」


 俺が聞けば、実に未経験者らしい意見が飛び出てきた。

 まあ、条件さえ揃えば、間違いではないんだが。


「なるほどな。で、グレイ。お前はモンスターを一撃で倒したことあるのか?」

「へ? ……そ、そりゃ、ない、けど……」


 我ながら意地悪な言い方だとは思うが、効果は覿面。グレイは言い返せずに黙り込む。

 そりゃそうだ、なんせこいつら、ダンジョンに挑戦したことがないんだから。


「次にジョシュア。お前はなんで防具が大事だっていう先生の意見に賛同した?」

「そ、それは……え、えっと……先生が、そう言ったから……」


 いきなり矛先を向けられたジョシュアは、もごもごと口ごもる。

 防具が大事ってのは大きくは間違ってないんだが、ちゃんとその理由も理解しとかないとなぁ。

 その、理解という意味においては、ジョシュアもグレイも同じ程度に失格だ。


 それから俺は、黙りこくってるアレックスへと目を向けた。


「で、アレックス。お前は何が大事かわかるか?」


 問いかけながら、若干目に力を籠める。

 ……これだけで足をぷるぷるさせるなよ、何だかいじめてる気分になるじゃないか。

 いや、ある意味パワハラなことをしちゃいるんだが。


「ま、まだそういうことは、先生に習っていないのです……」


 しばらく待って、やっと絞り出してきた答えが、それだった。

 いや、こんだけ圧力掛けられてる中でちゃんと答えられただけ、ましというものだろう。

 ただまあ、ちゃんと教えてやれよ家庭教師、とも思うが。

 とはいえ、三人の答えは、大体俺の想定の範囲内だった。


「よし、よくわかった。とりあえずお前ら、ダンジョン攻略に必要だって思う装備を揃えて、明日ここに集合な!

 わからなかったら、人に聞いて調べてもよしとする!」


 有無を言わさず俺は言い切る。

 

 とても単純に、今このまま、こいつらをダンジョンには連れていけない。

 それと同時に、強制力の影響か、俺の言うことをあまり聞かなくなってきていったこいつらの手綱を取り戻せるかも知れない。

 

 そんな打算を胸に秘めながら、俺はジョシュア達に指示したのだった。

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