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公爵令息は制御できない

 そんなこんなで入念に準備をしたジョシュア達は、今ダンジョンの入り口に立っていた。

 ちなみに俺は、身体の要所に板金を配したプレートアーマーに片手でも両手でも扱えるバスタードソードと呼ばれる剣を装備。

 色が黒なのは、グロスヴァーグ家の伝統色らしい。……厨二病とかそういうのじゃないとは思うんだが。


「よし、『帰還石』の起動と同調も確認、っと。これで、万が一の時にはこの管理棟に転移されるからな。

 最初に決めておくが、誰か一人でも転移されたら残りの全員は退却すること。これは鉄則な」

「え~、最初から戻されること考えてるのって微妙じゃね?」


 ダンジョンの入り口にある建物で挑戦する際の注意事項を説明していると、グレイがちょこちょこと不満を口にする。

 確かにこいつの性格からしたら、面倒な約束事が多くて面倒に感じるんだろうが。


「そんな文句は、ここを一人で踏破出来るようになってから言え。お前等三人のうち、誰か一人でも欠けたら戦力は一気に低下する。そんな状態で、パニックに陥らない自信があるか?」

「う……それは、確かにないけどさぁ」


 特に気分屋なグレイは、精神の浮き沈みが激しい。そして、精神状態が戦闘力に直結する。

 何しろ防御が回避メインだから、動揺して相手の動きを見切ることが出来なくなれば一気に被弾が増えるのは間違いない。

 だからって、盾を構えて相手の攻撃に耐え続けるなんて出来るわけがないから、回避メインでやらせるしかないんだが。

 もうちょい落ち着きってものを覚えてくれたらなぁ、とも思うが、座学じゃちょっとどうにもならんみたいだし、こうして実践で色々わからせるしかないかなぁ。若干投げやりになってる自覚はある。


「うむ、私達は初心者なのだから、最悪の事態は常に想定しておくべきだ」

「想定しすぎもどうかとは思うがな」


 そう言いながら俺はジョシュアの方を見る。

 流石に鎧は俺が指示した通り動きやすさと防御力のバランスが取れたものになってるんだが、その代わり、タワーシールドと呼ばれるごつい盾を持ってきていた。

 まあ、ちゃんと持って移動は出来てるから、置いていけとは言わないが……最後までもつかどうか。

 

「それにしても、初心者用ダンジョンと聞いていましたが、外見からはそうは見えませんね。

 入り口を飾る紋様など、オーレリオ期に良く見られた彫刻技法が使われているようですし……どうやって作られたのか興味深いです」


 と、感心したように呟くアレックス。

 なんでも、かなり昔の王朝文化を彩った技法らしく、現存しているものはかなり希少なんだとか。


「ってことは、このダンジョンはその頃からあるのか?

 残念ながら俺は興味がなかったから、ダンジョンがいつ作られたのかとか調べたことがなかったんだよな」

「いえ、このダンジョンはもっと前から存在していたようです」

「……どういうことなんだ?」

「わかりません」


 だよな。色々学説もあるんだろうが、そこまで調べてないのは仕方ない。若干納得のいかないものはあるが。

 実はこのダンジョンを見てインスピレーションを受けた彫刻家が、とか仮説は立てられるんだが……史料が見つからんことにはわからんだろうしなぁ。


「わからんことを考えていても仕方ないし、そろそろ行くか」


 俺が言えば、流石に三人とも表情が変わり、真剣味を帯びた顔で頷いてくる。

 うん、変な緊張はしてないんじゃないかな、多分。

 

「よし、行こう!」


 一応リーダーってことになっているジョシュアが号令をかけると、俺達はダンジョンの入り口へと足を踏み入れた。

 

 このダンジョンは魔力による明かりが点いていて、たいまつだランタンだといった照明器具は必要ない。

 ともかく、そういう意味でも初心者向き、というか至れり尽くせりすぎるくらいだ。

 これが中級者向きとかになってくると、照明の確保が必須かつ生命線になってくるんだが、今のこいつらにそこまでさせようとしたらえらいことになるだろう。

 色々『なんでだ』と思うことはあるが、考えてもわからないんだから、有り難く恩恵にあずかっておく小市民な俺。


 ただ、今日に限っては良いことばっかじゃなかったらしい。


「うっわ、すっげ~! ほんとに明かりついてんじゃん、どうなってんだこれ」

「何故か魔力が供給されている、としかわからんのだよなぁ」


 うんうん、俺も最初に来た時は不思議でしょうがなかったよ。

 この魔力がまた、ダンジョンからのものらしく、延々湧いてくるんで利用してるんだとか。

 ちなみに、『帰還石』の転移もこの魔力を利用したものらしく、だからダンジョン以外の場所だと滅多に使えないそうだ。

 と、初々しい反応に色々考えてしまったのが拙かった。


「へ~、すっげすっげ! うわ、向こうまで続いてんじゃん!」

「えっ、ちょ、おい!?」

 

 グレイが、好奇心の赴くまま駆け出した。全速力で。

 油断しなければとっ捕まえることが出来たはずなんだが、逆に言うと俺ですら油断してたらとっ捕まえられない。

 それくらいにグレイはすばしっこい。この辺りはメインヒーロー補正なんだろうか。……いや、そんな補正もどうなんだ?


 とか現実逃避したくなるくらいに、あっという間にグレイは奥へと駆けていく。


「ああもう、くっそ! 『ディボーション』! ジョシュア、アレックス、追いかけるぞ!」

「え、あ、ああ……??」

「い、一体何が……あ、ちょ、ちょっと待ってください!?」


 あまりの予想外な展開に、ジョシュアもアレックスも混乱している。

 が、まさか二人を置いていくわけにもいかないし、俺は二人を振り切らない程度の速度でグレイの後を追う。

 俺が動いたら、1秒ほど遅れてジョシュアとアレックスも走り出した。

 頭がまだ動いてないだろうから、置いて行かれまいという反射的なものなんだろう。

 だったら、ここでいきなり戦闘にでもなれば、二人ともまともに動けない可能性が高い。

 ああもう、のっけからぐだぐだだ!


 と、俺が内心で悪態を吐いていたら。


「た、助けてぇぇぇぇ!!」


 とか情けない悲鳴を上げながら、グレイが駆け戻ってきた。

 その後ろに、大量のゴブリンを引き連れながら。

 身長150cmあるかないかの小型で緑色の肌をした人型モンスターであるゴブリンは、決して強いモンスターではないんだが……あれだけ数がいれば慌てもするか。

 

「ちょ、えええええ!?」


 ただでさえ混乱していたところにこれだ、ジョシュアが悲鳴を上げてしまうのも仕方が無い。

 アレックスに至っては、絶句して硬直している。これもまた、仕方が無い。


 ああもう、このアホグレイ!!


「そのまま走れ、俺とすれ違え!」

「わ、わかったぁ!!」


 泣きそうな顔で必死に走るグレイ。……いや、そこまで必死にならんでもゴブリンどもをぐんぐん引き離してんだが、奴は全く気付いていないらしい。

 まあいいや、今はその方が好都合。

 

 走りながら俺はグレイとの距離を測り……『ディボーション』の射程圏内に入った瞬間、かけ直した。


「た、助かったぁ!?」

「足を止めるな、そのまま走れ!」


 俺が怒鳴れば、グレイは慌ててまた全速力を出す。……あっという間にまた『ディボーション』の範囲外にまで出やがった……。

 ったく、こいつは後で説教だ!!


 心の中で愚痴りながら、俺は腰に佩いていた長剣を抜く。

 使い慣れたそれに力を込めれば、刀身が光を放った。……本当に込められるのだ、魔力という力が。

 ただし、今回は最小限。出来るだけ弱く、ゴブリン達を殺さないように。


「吹っ飛べ! 『ブレイク・ショット』!」

 

 気合の声と共に、俺は剣を地面に打ち付けるように振るった。

 途端、地面にぶつかった俺の魔力が爆発したように広がり、その威力範囲内に入っていたゴブリン達が文字通り吹き飛ぶ。

 ……あ、壁にぶつかった奴が二体ばかり、打ち所が悪かったのか動かなくなった。仕方ないか、今回ばかりは。


 残るゴブリンは7体。入り口付近に9体も溜まってるなんて珍しい。……こりゃ、さっき誰か逃げ戻ってきたな……。

 逃げる冒険者を追ってゴブリン達が次々とやってきて、って感じだろう。

 そういやさっき、管理棟にボロボロの奴がいたような……あいつらか。

 ま、それはそれとして、だ。


 ゴブリン達は逃げていたグレイから、連中を吹き飛ばした俺にターゲットを変更して攻撃してきたんだが、俺はその場に留まってそれらを全て捌いていく。

 正直、ゴブリンの攻撃だったらわざと食らっても問題無いくらいなんだが、あいつらが要らん心配しそうだしな。


「アレックス、ゴブリンの属性はなんだ!」

「えっ、ち、地属性です!」

「ってことは、お前が使える魔術の中で有効なのは!」

「水属性です!」


 ゴブリン達を引きつけながら呼びかけた俺に、アレックスから答えが返ってくる。

 ……返ってくる、だけ。

 ああそうか、何が言いたいか伝わってないのか、まだ動転してんな、こりゃ。……いや、アレックスだと普段でも伝わらんかも知れん。


「じゃあ、水属性の攻撃魔術でゴブリンを右端の奴から攻撃!」

「わ、わかりました!」


 ここまで指示を出さないと伝わらないんだな、覚えておこう。

 等と考えている間に、アレックスが魔術の詠唱を終えたらしく。


「『ウォーターバレット』!」


 その声と共に水の弾丸が一体のゴブリンを直撃、その一発でさっきのブレイク・ショットで弱っていたゴブリンは倒れた。

 この調子なら、とどめを刺させていけばとりあえずはいいか。


「ジョシュア、お前は左の端から斬りつけろ! お前の攻撃でも多分一撃で落ちる!」

「え、え、ええ……わ、わかった……」


 攻撃された怒りに任せて俺に群がっているゴブリン達の姿は、ジョシュアから見ればまだまだ元気に見えるのかも知れない。

 よく見れば、とっくに足はふらふら、今にも倒れそうなのが見て取れるんだが……こればっかりは経験しないと落ち着いて見れないかも知れん。


「お、俺は!?」

「グレイはまず呼吸を落ち着かせろ、それからジョシュアのフォロー!」


 グレイに指示を出しながら、『ディボーション』をかけ直す。これで、グレイのダメージも肩代わり出来るようになった、と。

 状況は、何とか落ち着かせられそうだ。


「落ち着いて、一体ずつ落としていけ!」

「わ、わかった!」

「わかりました!」


 ジョシュアとアレックスの声が返って来る。

 まだまだぎこちなさはあるが、それでも、一体一体、二人、いやグレイも後から加わって三人は、ゴブリンを確実に仕留めていったのだった。

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