第一話「疑心暗鬼」
初オリジナル小説、連載はじめました!
暗闇の中、人間から血を吸い上げる怪物。
『吸血鬼』
それはとても恐ろしく、そしてとてもおぞましい。
人間の数十倍の力を持ち長生きするソレは、人類では到底叶わない。そう思われていた。
それはもう、100年も前の話。
「吸血鬼なんて、今じゃ弱っちいやつばっかなんだよなあ……」
この100年で、明らかに太陽が昇る時間が長くなっていた。
理由は、太陽系の乱れがなんちゃらとか……
まあ、高校のテストで万年最下位だった俺が、そのくらい思い出せただけでも偉いと思う。
なんやかんやで、今の吸血鬼は種族としての完全な敗者に成り果てていた。
そして、この俺『中条いつき』は今もなお生き残り人間を襲う吸血鬼を駆除する、民間組織…
『吸血鬼から人類を守る会:血守会』の二番隊・隊長をしている。
2522年11月5日 16時04分
俺は吸血鬼の駆除のために奴の住処である路地裏に来ていた。
「う”ぅ…あ”…」
「なんだ、君……まだ息してんの?生命力だけは一丁前だねえ」
俺はそう言って四肢をもいだソレの頭部を、踏み潰した。
びしゃり…
飛び散る紅い液体は人間に流れているものと、とても似ていた。
「ほんっとおに、君達はどっから湧いてくんのさ」
ポケットからスマホを取りだし、会長へと電話をかける。
あ……ここフリーWi-Fiだ。
「あーもしもしい、イツキでーす…………目標のやつ始末しましたよー、
しっかし…俺みたいな隊長クラスが来るほどでもなかったすよ!
え?いやあ…それは、そうですけどお……はい、はあい」
まったく、あのパワハラジジイ…いつか労働基準法とかなんかで取り締まられろ…
あと組織の名前ダサすぎんだよ……
「君!そこで何をしているんだ!!」
「ん?あー!おまわりさーん、ただの『血守会員』ですよお」
駆除のときはよく殺人現場だと勘違いされるが、こっちは何も悪いことはしていないんだ。
堂々としてればいい。
「あっ…これは失礼しました、ご苦労さまです!」
腕章を見て、顔色が変わる警察官。
まあ、俺たちの中にはたまにガチのヤバいやつとか紛れ込んでるからな。
俺じゃないけど。
こいつもそれを知ってるから、警察官としてのプライドより身の安全を優先したんだな。
「あ、あの!近頃この辺りで、人間によるものと思われる暴行事件が多発しておりますので!お気をつけください!」
「あ、そお?でも俺は大丈夫だよ、会員だからね」
「し、しかし!会員の方でも、人間相手じゃあ……」
「大丈夫だって……んじゃあお仕事頑張ってねー」
俺は後ろの警官に手を振りながら路地裏を去った。
同日 16時55分 市立公園にて…
「いやあ……まいったなあ、
まじで人間に襲われるとはねえ」
俺に跨り、ギリギリと歯を鳴らすのは10代後半と思われる少女だった。
「君、どこから来たの?もしかして青森出身じゃない?なんか青森出身っぽいしー」
「ぐぅぅヴヴヴぅヴ……」
気さくな感じで世間話を試みたが、失敗に終わった。
「やっぱ、意識ないね……吸血鬼にでも噛まれたのかな?」
どうやら彼女は正気を失っているみたいだった。
俺は、細い割には力が強すぎる腕に押さえられていた自分の手首を力づくで引き抜き、手刀
「ヴがっ!?」
「こめんねー、1週間くらい痛いかも」
ぐったりとした彼女を近くのベンチに横たえ、
周りを見渡す。
「ねえ、なんで自分じゃなくて、こんな子を使ってくるのさ」
あたりは暗く静かだった。
「君は不思議だね、人間か吸血鬼か分からないなあ」
俺は瞬きをした。
次に目を開ければそこには、襲って来た少女と変わらないくらいの少女が立っていた。
「あなたは、血守会のひと?」
「そうだよ、君は吸血鬼かな?だったらお兄さんが倒さなきゃな」
「私は吸血鬼じゃない」
少女は俺の言葉を否定した。
「そうなのお?でもさあ、躁術使えるってことは…………人間でもないよねえ?」
「そうだね」
少女は俺の言葉を肯定した。
「じゃあさ、聞いていいかな?
なんで、ここら辺で人間を襲ってたの?しかも、無関係な子を操ってさあ」
「その子が私にお願いしてきたから、誰でもいいから殴りたいって」
少女は抑揚のない声で言った。
「うーん、多分それって、お願いじゃあなくて愚痴ってやつじゃない?」
「愚痴ってなに?」
「俺もよく知らないけどさあ、多分その子はほんとに人を殴りたい訳じゃなくて、そのくらいムカついてるって言いたかっただけなんじゃないかな……」
少女は何かを考える素振りをして、再び俺に視線を向けた。
「じゃあ、もういいや……おじさん、その子お願いね」
「ちょっと、おじさんじゃないしまだ28だし、それに君の正体が分かってないから、行かせる訳にはいかない」
少女の白く細い腕を掴み、引き寄せた。
「……おじさん、しつこい男は嫌われるよ」
「そんなことないし、俺はモテモテだしー」
「私をどうする気」
そう言って彼女は、可愛らしい殺気を放つ。
「んー?とりあえず、本部に連れてこうかなー?」
「いや、私はそんなところに行かない」
「そんなの知らないよ」
俺は少女を肩に担ぎ、その上でじたばたとする少女を無視し本部へと向かった。
そして少女はベンチに放置されたのであった。
※次の日無事保護されました