怒る狂った国王に両親のいる部屋に呼び出されました
王宮のご飯は美味しい。
まあそれは当然、王宮だからであるが、ここ王宮のシェフは王国最高の腕なのだ。
そして、ここのロブスターは絶品で、まさに、私の大好物だった。
それが一匹まるごと出てきたのだ。
私は午前中、王宮の魔道士達を相手に訓練をして、というか、特訓をしたのだ。
王宮の魔術師達の腕はまだまだだった。あの腕では、この前出てきた帝国最強の魔術師にも到底勝てまい。だから、夏休みの間は週に2回、私が頼まれて、特訓することにしたのだった。
そのご褒美がこのランチだった。我が家の食卓は貧しく、私は週に2回のこのご褒美のランチが何よりも楽しみだった。
「頂きます」
そして、そのロブスターにナイフを突き刺そうとした時だ。
「フラン。父上が呼んでいるぞ」
いきなり、アドが後ろから声をかけてきたのだ。
私はピキッと来た。いつもいつもだ。陛下は何故私が食べようとする時に呼ぶのだ?
流石にムッとしてアドを見ると
「フランの所の両親も呼ばれているそうだぞ」
「えっ、両親も?」
なんか碌でもないことのようだ。
「私も必要なの?」
両親と陛下だけでやってほしい。私が嫌そうに言うと
「さっ、行くぞ」
「え、エビが・・・・」
「ロブスターくらいまたごちそうするから」
「ほ、本当に」
私はアドに念押しした。
「ああ判っているから」
アドに呆れられて私はアドに引っ張られて、未練タラタラロブスターの前を離れたのだった。
「でも、一体何の用なの?」
私は仕方なしに、アドに聞いた。陛下の用よりロブスターのほうが絶対に良いんだけど・・・・。
「うーん、判らないけれど、またフラン所の両親が何かやらかしたらしい」
「そんなのいつものことじゃない。何で私まで呼ばれているのよ」
そう、我が両親が陛下を怒らすように事をするのは日常茶飯事なのだ。そんなので私の食事時を邪魔してほしくない!
「フラン所の両親を静かにさせるためじゃないか」
「ええええ! そんな事のために私のエビが・・・・」
「わかったから。これ終わったらもう一度温めてもらうから」
「本当に?」
「任せておけ」
私はアドを信じた・・・・でもそれは間違いだった。このあとはフェリシー先生の礼儀作法マナーの時間だったのをすっかり忘れていたのだ・・・・。フェリシー先生がもう一度食事するのを許してくれるはずはなかったのだ・・・・
「どういう事だ。こんな事をしおって」
私達が入ろうとした時だ。陛下の罵声が聞こえた。
えっ、あの温厚な陛下が怒鳴るなんて余程のことだ。
私は逆を向いて逃げ出そうとしたが、アドは手を離してくれなかった。
「いや、アド、私、用事を思い出したから」
「諦めような」
アドはそのまま扉を開けさせて私を部屋に連れ込んだのだ。
アドの鬼!
立上って怒り狂っている陛下とその横で驚いてその陛下を見ている王妃様、陛下の後ろで諦め顔の中央騎士団長が見えた。
「お呼びと伺い参りました」
アドが言う。私も言おうとして
「フラン。久しぶりね」
「元気だったか」
陛下の罵声をびくともせずに聞いていた両親に私は囲まれてしまった。
唖然としているアドとの手を二人によって引き離されて、
「さ、フランちゃんは私達の所に」
あっさりと父と母の間に座らされ・・・・ええええ! 怒り狂っている陛下の真ん前じゃん。嫌だ、逃げようとした私はあっさりと二人に止められてしまった。アドに助けを求めるもアドは首を振って横の二人席に一人で腰掛けた。
何故だ? ラクロワ公爵の時は2人席じゃないと話を聞かないって言ってくれたのに・・・・まあ破壊の魔女相手に逆らいたくないのは判るけど・・・・
でも、怒り狂った陛下の正面は止めてほしいんだけど。
「今度は何やらかしたのよ」
私が母に小声で聞くと
「たいしたことないわよ。私のフランちゃんに寸胴が酷いことしたからお仕置きに行ったのよ」
平然と母が答えた。
「そうだ。あの寸胴め。あのまま成敗してやればよかった」
父までなんか不穏なこと言っているんだけど。
「寸胴って、人なの?」
私は一応聞いた。母の言うことはよくわからないのだ。
「帝国の皇帝だ」
両親の代わりに陛下が答えてくれた。
「そうですか。帝国の・・・・皇帝ですって!」
私は思わず飛び上がった。
帝国って、史上最大版図をもつ、世界最強国じゃない。この前私にちょっかいを出してきた。
「何してきたのよ」
「だからお仕置きよ」
「だからアンナは甘いと。あのままぶった切ってやれば良かったのだ」
「流石にそれは寸胴が可愛そうじゃない」
父がなんか不穏なことを言っているんだけど。
首を振って陛下が水晶の画像を見せてくれた。
な、なんとあの皇帝を母が土下座させて謝らせているのだ。
私もアドも目が点になった。
挙句の果ては皇帝は頭に残っていた髪の毛を燃やされて、巨大龍に湖にポイされたんだけど・・・・
私たちは絶句した。
「お主らなんてことしてくれたのだ」
陛下が叫んでいた。
陛下が言うこともよく判る。帝国は領土だけでこのエルグラン王国の10倍の広さはあるのだ。
軍事力も5倍以上。まともに戦っても勝てないのは必定だ。
「やはり止めは刺すべきでしたか」
父が頓珍漢なことを言う。
「そんな事したら全面戦争になっておるわ」
「ふんっ、あのようなへなちょこ軍、我がルブランの精鋭で一撃で粉砕してみせますが」
父は平然と言い切る。まあ、確かにルブラン軍は天下無敵だけど、帝国全軍相手には流石に厳しいんじゃないかな・・・・。
「何を申す。奴らは傍若無人の大量殺戮部隊の第二師団もいるのだぞ」
「ああ、あのへなちょこ師団ですか」
「そのへなちょこ師団に皆殺しにされた小国が片手では収まらないのは知っておろう」
「その小国の怨念ならば、ギャオちゃんが晴らしてくれましたわ。陛下」
母が平然として言い切った。
「ギャオちゃん?」
皆が母を見ると
「ギャオちゃん」
母が呼ぶ
「ギャオ!」
窓から巨大龍が覗いたのだ。
「げっ」
ぎょっとした中央騎士団長が思わず抜刀しそうになった。
「ええええ! ギャオちゃんて、このまえ捕まえてペットにしたっていう巨大龍がこれ?」
私が指さして聞くと
「ギャオっ」
と可愛い声で巨大龍が泣く。
「そうよ。帝国の王宮まで連れて行ったのよ。ついでに暴れていいわよって言ったら第二師団を殲滅してくれたのよね」
母は笑って言ったのだった。
「まあ、これで当分、帝国もお悪戯は出来なくてよ」
母の声を残った一同は呆然と聞くしか無かった。