エルグラン国王視点 アドの居場所を聞こうとしても破壊の魔女は教えてくれませんでした
「一体全体どうなっているのだ?」
私は中央騎士団長相手に怒鳴り散らしていた。
でも、怒鳴られた騎士団長にしても、たまったものではなかっただろう。
しかし、怒鳴らないと本当にもうやってられなかった。
元々、フランソワーズ嬢が王宮の補講に現れないと王妃のアデライドらが騒ぎ出したのが最初だった。
その時は補講のあまりの多さに、フランソワーズ嬢がサボタージュを起こしたのだろうと、私は大して気にもとめなかったのだ。
確かにフランソワーズ嬢は大雑把でがさつな面はあるし、礼儀作法を苦手としている面もあったが、最低限の礼儀作法は出来ている。友人関係も良好で、学園では優秀な平民や下級貴族の子らを組織建てしていろいろとやってくれる優秀な令嬢なのだ。
平民受けも圧倒的に良いし、軍の受けも良い。
多少礼儀作法が出来なくても我が国に文句言えるような国はないのだ。
恐れていた古のルートン王国への留学でも、ちゃんと成果を残してくれた。友人もたくさん出来たと聞く。
多少暴走してアルメリア王国を転覆させたのはどうかとは思うが、アルメリアの海賊が制圧されて商人はとても喜んでいた。南の大陸の諸国からも我が国に好を結びたいという申し出が増えたのだ。
全てはフランソワーズ嬢の功績だ。
多少の無作法に目くじらなど建てなくても良いと元々私は思っていたのだ。
しかしだ!
それが公爵家のタウンハウスが崩壊しただの、フランソワーズ嬢が行方不明になっただの大変な情報が王家の影からもたらされたのだ。
それからてんやわんやの騒ぎになった。
たかだか一公爵令嬢の失跡だったが、相手は第一王子の婚約者で未来の王妃なのだ。
それに武のルブランの後継者でもある。
直ちに情報収集したのだが、良くわからない。
シルヴァンらも色々動き出したようだが、中々、行方が掴めていないようだった。
アドルフがフランの行方を聞くためにルブラン領に行くと言われて不吉な予感がしたのだが、息子の必死の形相に許さざるを得なかった。
だが、案の定、今度はそのアドルフが行方不明になった。
なんと、フランの母の公爵夫人はアドルフらを側近もろとも魔の森の試練を課したと言うのだ。
もうめちゃくちゃだった。
魔の森の試練にフランソワーズ嬢は5歳で乗りきったというのは聞いていたが、それはフランソワーズ嬢だからだ。
一般人は普通は無理だ。
まして、いくらアドルフが剣術に秀ているとはいえ、普通未来の国王にそんな試練は課すまい!
「あなた、アドルフが行方不明って本当ですの」
そこへ、更にややこしいことに半狂乱になった王妃がやってきたのだ。
これにそんな事を言った日には気絶するで済むかどうか。
王妃には秘密の任務を与えて行かせたのだと適当に言って追い返したのだ。
そんな時だ。
アドルフの側近の一人のジルベールから通信が入ったのだ。
「陛下申し訳ありません」
「ジルベール、大丈夫か?」
画面のジルベールは見た目は傷だらけ、服はボロボロの半死半生の体だった。
「何とか生きております」
息も絶え絶えにジルベールは答えてくれた。
「フランソワーズ嬢がこれを5歳の時にされたというのがいまだに信じられません」
ジルベールは呆然としていた。
「アドルフはどうしたのだ?」
「殿下は私よりも先に魔の試練は突破されたそうです」
「そうか。で、今はどこにいるのだ?」
「それは私では判りかねますが、公爵夫人に聞かれるのが確実かと」
「その公爵夫人が捕まらんからこうして貴様に聞いているのだ」
私はついかっとして言ってしまった。
「夫人はこちらにいらっしゃいますよ」
ジルベールが画面を横に向けると
なんとそこには散々探して見つからなかった夫人がいたのだ。公爵夫人は周りに次々と指示していた。
「アンナ! 此度のことはどういう事だ!」
私は思わず大声で叫んでいた。
「陛下、私は今忙しいのです」
むっとしてアンナが言ってくれた。
「忙しいも何も息子のアドルフはどこにいるのだ?」
「殿下ですか? 本当にエルグラン王家を継がれる方があの体たらく、どうしようもありませんわ。始祖が見られたらどれだけ嘆き悲しまれるか」
私の問いには答えずに夫人は愚痴ってくれたが、
「始祖も魔の森の試練は受けておらんだろうが!」
私は大声で怒鳴っていた。
「ふんっ、王家はいつも我がルブラン公爵家におんぶにだっこですものね。嘆かわしい」
嫌味ったらしくアンナが言ってくれるのだが。
「陛下。フランはこの魔の試練を5歳の時にやり遂げたのです」
「それは知っている」
「その横に立とうとしている殿下が弱すぎては様にならないでしょう。側近の方々もです。だから私が珍しく、特訓させてあげたのです。私としては陛下に感謝していただきたいくらいですわ。この私自らが稽古をつけることなど、めったにないことなのですよ」
恩着せがましく言ってくれるが、それはおかしいだろう!
「しかし、彼らには彼らの役割が」
「確かにそうでしょう。でも、いつもフランが守れるとは限らないのです。現に侯爵の反逆のときも殿下を守れませんでしたでしょう。そちらの影は役立たずにも全く兆候も掴めていなかったようですが」
破壊の魔女は嫌なことを思い出させてくれた。
あの時は本当にフランソワーズ嬢が良くやってくれたのだ。
「だから殿下らも少しでも、強くなっていただくことに越したことはないのです」
「それはそうだが、いきなり魔の森の試練は」
「たしかに厳しいでしょう。だから私は2匹の古代竜とフェンリルに護衛をさせたのです。だからこうして弱いジルベールも生きているではないですか」
恩に着せたようにアンナは言うのだが、それは何かが違うのではないだろうか!
「で、アドルフはどこにいるのだ」
「殿下ですか? フランのところに行きたいと泣いて頼むものだから、仕方無しに送って差し上げました」
「で、それはどこなのだ」
「さあ」
「さあだと!」
私は思わず怒鳴っていた。
「少しはご自分で調べられたらどうですか。では……」
「おい、アンナ! どこなのだ」
「…………」
魔導通信はいきなり切られたのだった。