閑話 アド視点11 フランの機嫌を取るために新作ケーキを持って行ったら古代竜に横取りされました
「うーん」
俺は悩んでいた。しかし、なかなかいい案が思いつかない。
「ちょっと殿下、仕事してくださいよ」
俺の後ろから側近のジルベールが文句を言ってきた。
しかし、今は仕事よりも、フランとのよりを戻すのが大切だ。
古代竜がフランの近くに出現したとの報に、俺は慌ててフランを助けようと飛び出したのだが、俺が駆けつけるよりも前に、フランはあっさりと古代竜をやっつけて、あろうことかペットにしてしまったのだ。
そして、夜通し駆けつけてきた俺に向かって
「で、この忙しい時に何しに来たの?」
と宣ってくれたのだ。
俺は何も言い返せなかった。
側近たちにはそら見たことかとか、フランが竜なんかに負けるわけがないとか、散々言われたんだけど。フランはどこか抜けたところがあるから心配なのだ。
「フラン様は抜けててもその無敵の魔力で負けるわけは無いのに」とか言ったオーレリアンに罰ゲームとしてトラクレール公爵の所に雑用として残してきたのは言うまでもないのだが。
祖母にまで、直ちにシュタインに戻って、仕事をしなさいと言われる始末だ。
俺は直ちにシュタインに戻って、矢のような速さで懸案事項を片付けると、王都に戻ってきたのだ。
しかし、今度は今までたまっていた第一王子としての仕事が山積みだった。
それも父が母と一緒に北の国に避暑を兼ねて外交に出てしまったので、その両親の分までこちらに回ってきたのだ。
本当にやってられない。
これではフランの所に行ってよりを戻す時間もないではないか!
「いっそ、フランソワーズ様に手伝ってもらえばどうですか? そうすれば教えるついでに仲良くなれるかもしれませんよ」
リシャールが言ってくれたが、
「いや、リシャール。それは流石にまずくないか」
「そうだよな。仕事が却って倍に増えるかもしれないし」
側近たちは好きに言ってくれるが、その事に俺は少しムッとしたが、考えるまもなく、それは十分にありえた。弟のジェドがかつて風邪の時に姉にやってもらって、却って仕事が倍に増えたと愚痴っていたのも聞いているし。
まあ、基本はフランは戦闘に特化しているのだ。
細かい文章作業は苦手だ。
「うーん、それは未来の王妃様としては良くないのでは」
ジルベールがボソリと言うが、
「もし、フランソワーズ様が王妃になられたらメラニーらが付くからその辺りは大丈夫なのでは」
「そうそう。今でもフラン様の傍には優秀な人間が多くいるし、彼女はいてくれるだけで、帝国や周辺可諸国には十二分に抑えになるからな」
リシャールらの言葉には俺はなんとも言えない顔になるが、まあ、事実そうだ。
「まあ、今後のエルグラン王国の安定のためにもぜひとも殿下にはフラン様を捕まえておいてもらわないと」
「という事で俺は出てくる」
俺はそのリシャールの言葉尻を捉えて行動に移すことにした。
「えっ」
「ちょっとアドルフ」
慌てる側近共をほって俺は執務室の外に飛び出したのだ。
やはり、困った時のハッピ堂頼みだ。
フランのために特別なお菓子を作ってもらおう。
俺はハッピ堂カフェに乗り付けると、特製のケーキを作ってもらったのだ。
これで絶対にフランの機嫌は直るはずだ。
俺は自信を持ってケーキの箱とともに王都に帰ってきたフランの公爵家のタウンハウスに駆けつけたのだ。
しかし、タウンハウスに入ろうとした時だ。俺の手からケーキの箱が瞬時に無くなったのだ。
「えっ?」
俺は何が起こったか判らなかった。
頭上を見るとなんと古代竜がケーキの箱を咥えていた。
「おい、こら、ケーキを返せ」
俺は叫んでいた。
しかし、古代竜の野郎はフンッと俺を無視してくれたのだ。
ここでオーレリアンがいれば囮として残してケーキを取り上げたのに。今はトラクレール公爵の下で日々書類仕事に追われている。
こんな事ならば連れてくれば良かった。俺は後悔した。
しかし、いつまでも見ていても仕方がない。
「この野郎!」
俺は魔術をお見舞いして竜からケーキを取り返そうとした時だ。
目の前に巨大な足が出現したのだ。
「えっ?」
俺は次の瞬間、屋敷の外に放り出されていたのだ。
なんと古代竜の前足で弾き飛ば連れたのだ!
そして、
ドボンっと
俺はフランの屋敷の傍のため池に頭から飛び込む形になってしまったのだ。
山の中の清流ではないので、池の水は緑色に濁っていた。
俺の折角の王子としての正装も台無しになってしまった。
「どうかしたのギャオギャオ?」
フランが部屋から顔を出すと、なんと古代竜は俺から取り上げたケーキの箱をフランに差し出してくれたのだ。
「えっ、これはハッピ堂の新作ケーキじゃない」
フランは目を輝かせて箱を開けてくれたのだ。
俺は目の前でフランのその俺に向けられる笑顔が見たかったのに、今は古代竜に横取りされてしまった。
「そうか、オーナーが届けてくれたのね」
フランが勝手に納得してくれるんだけど、違う。届けたのは俺だ!
しかし、古代竜にコケにされたまま、このずぶ濡れの状態で出ていく訳には俺のプライドが許さなかった。
「美味しい!」
フランは美味しそうにケーキを食べている。
そして、あろうことか
「ギャオギャオも食べる?」
「ギャオ!」
喜んで口を開けた古代竜の口の中にケーキの塊をフランは入れてやってくれたのだ。
俺と一緒に食べるはずだったケーキが……
なんと古代竜は俺の方を見下したように見下ろしてうまそうに食べだしたのだ。
この野郎!
絶対に許さん!
俺は歯ぎしりして悔しがるしかなかったのだ。
絶対にこの仇は取ってやる!
俺は心に誓った。
ここまで読んで頂いて有難うございます。
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