最後の決戦を始める前に婚約者に飛び蹴りしました
「…………」
私は目の前の校舎が全て全壊してしまって、唖然としてしまった。
「ちょっと、フラン、いくら私たちが憎いからって、私達の校舎を壊すことはないんでないの」
遠くからグレースの叫び声がするが、全く無視だ。
私は壊すつもりはなかったのだ。
文句はうちの三代目に言ってほしい!
目の前の校舎が全部潰れたので、邪魔するものが無くなって、目の前にパーティーの衣装を着た、生徒らが見えた。皆精一杯着飾っている。
取り敢えず陛下とアドは無事みたいだ。
でもその傍に、大公と王弟殿下がいた。今のままでは何をするかわからない。
「ちょっと、フランソワーズさん、これはどういう事ですか?」
私はその声を聞いて唖然とした。
そこには怒り狂ったフェリシー先生が怒髪天で立っていたのだ。
ど、どうしよう。
よく見るとその傍にはこれまた怒り狂った王妃様がいる。
こ、これは最悪だ。
私の天敵の二人が立っている。
それだけでやる気が失せてしまったんだけど……
「ちょっと、フラン、何しているのよ。今はそれどこではないでしょ」
「姉上、緊急事態です」
「そうだったわ」
横からメラニーとジェドに言われて私は我に返った。
「ちょっと、フランソワーズさん、何とか答えなさい!」
でも、つぎの瞬間、フェリシー先生の怒り声に私はびくっとする。
私の頭の中では夏休みが無くなり補講三昧になる未来しか見えない。
もう終わりだ……
私は思わず膝をついてしまった。
「ちょっとフラン、しっかりしなさいよ」
「姉上、今はフェリシー先生なんてどうでもいいから」
「だって、私の楽しみにしている夏休みが補講でつぶれるじゃない」
二人の声に私が言うと
「何言っているのよ。先生にはうまいこと言ってあげるからさっさとやりなさい」
「そうだよ、姉上。僕からも言ってあげるから」
二人の言葉に私は一瞬でやる気に戻るが、しかし、こいつら本当に味方してくれるんだろうか? いつもこいつらには騙されているのではないかと思いだしてしまった。
「姉上がちゃんとしないと。ほら、あの女狐の動きが怪しいよ」
ジェドの言葉に王妃様の傍にいて何やら怪しい動きをしている公国のセシール妃をみた。
王妃様に何か呪文を唱えようとしてる。これはやばい。
「フランソワーズさん。あなた自分のやったことが判っているのですか?」
「先生、ちょっと黙っていてください」
私はやむを得ずそう言うと昨年度にガスペルからもらった魔道剣を取り出した。
「だ、黙れですって!」
「いっけーーーーー」
キイキイ声を上げるフェリシー先生を無視して叫ぶと、如意棒の如く魔道剣が伸びて、公国の女狐に向かって……いかなかった。
「ギャッ」
なんと、魔道剣の剣先はギャアギャアわめくフェリシー先生に向かって行ったのだ。
フェリシー先生が、のけぞって避けてくれた。
「良かった。当たらなくて。フェリシー先生がぎゃあぎゃあ言うから思わず手元が狂ってしまったじゃない」
本当に傍で言うのは止めてほしい。
でも私の言葉にジト目でメラニーとジェドが見てくるんだけど……。いや、わざとじゃないって。
「そんなこと言って、本当は日頃の恨みを晴らすためにわざとされた可能性も」
「なんか言った?」
モーリスの声に私がガン飛ばすと、
「ヒエエエエ、嘘です。何も言ってません」
モーリスは土下座して謝っている。
「フラン、いくら日頃からフェリシー先生を恨んでいるからって、何も剣を向ける必要はないだろうが」
会場から、他人事という感じで大きなアドの声が聞こえた。
「な、何ですって!」
私はいかにも他人事という感じののほほんとしたアドの態度に完全に切れてしまった。
そもそも、私が反省房に閉じ込められたのはすべて、クラリスの前で、キスしてきたアドが悪いんじゃない!
それを自分はのほほんとして王宮で美味しいご飯を食べていて、私は腐りかけの食事、いや、違う、最後は食事も与えられなかったのだ。
私が苦労しているのも皆あんたが悪いんじゃない!
「もう許さない!」
私はスカートの制服であるという事実も忘れて、アドに向かって、思いっきり飛び込んで行ったのだ。
「えっ、ちょっと、フラン、いきなり飛んで来るのは良くないぞ、いくらしばらく会えなかったからって」
何か全然わかっていないアドが、いるんだけど。
何故か手を差し出しているんだけど……
さすがに、その能天気さには呆れてしまった。
私がアドに抱きつくだ?
どう転んでそうなる。
ここは私の怒りのキックだ。
「喰らえ!」
私の足はもろにアドの顔面に激突したのだった。
怒りのフランの一撃がまず、アドに炸裂しました…………