後輩誘拐の犯人は判りませんでした。
「ヴァネッサ!」
私は馬を飛び降りると慌ててヴァネッサに駆け寄った。
「フラン先輩!」
ヴァネッサの縄をほどくと彼女は私に抱きついてきた。
「大丈夫だった?」
私が聞くと
「はい、でも怖かったです」
ヴァネッサが少し震えている。
前世も含めて初めて私を「先輩」って、呼んでくれた後輩を拐うなんて許さない。
「この女!」
まだ残っていた荒くれ者たちは、私達を襲って来ようとした。
ピキッ
切れた私は一瞬で男たちを弾き飛ばす。
「ギャっ」
男たちは壁に叩きつけられていた。
「もう許さない。可愛い後輩に酷いことしてくれて」
私は残りの立っている奴らを睨みつけたのだ。
「やべー」
「逃げろ」
荒くれ者たちは慌てて外に飛び出して逃げようとした。
私が逃がすまいと魔術を発動しようとした時だ。
ダンッ
アドが馬で飛び込んできて逃げようとしていた荒くれ者どもを弾き飛ばす。
「ギャッ」
男達は地面に投げ出された。
「動くな!」
そこに遅れて騎士たちが次々に駆け込んで来た。
残りの奴らを一網打尽に捕まえてくれた。
「で、誰に頼まれて、このようなことをしでかしたの?」
私は手近にいた男の胸ぐらを捕まえて聞いた。
「俺達が話すと思うのか」
男はいきがって言ってくれた。
「ふうーん。見慣れない顔ね。あなた私を知らないの?」
私はニコっと笑ってやった。
「は、破壊女……」
捕まった一人の男がボソリと呟いた。
「な、何だと、お頭は破壊女に手を出そうとしたのか」
「嘘だ……」
捕まっている一部の男たちは蒼白になっている。
「何だそれは」
私に胸ぐらを捕まえられている男は知らないみたいだ。
「ば、馬鹿、すぐに謝れ」
「お前燃やされるぞ」
「や、止めてくれ。屋敷ごと俺達を燃やすのは。燃やすのはその男だけにしてくれ」
男たちは必死に命乞いを始めるのだけれど。
何よ! それは!
私が化け物みたいじゃない!
私を知らない奴には少し頭にきたが、化け物扱いされるのも嫌だ。
「あんたたち、何か言った」
私はその男達を睨みつけると
「い、いえ、」
「お頭がフラン様に逆らっているなど、知りませんでした」
「その男は公国の人間で、フラン様のことをよく知らないんでさ」
下っ端の一部の男たちは必死に言い募ってきた。
「ふんっ、貴様なんぞ、俺達の大親分がやっつけてくれるさ」
男はなおも粋がってくれた。
「ふうん、このまま燃やそうか」
私はそう言うと男の前に火の玉を出したのだ。
「えっ」
男はぎょっとしていた。
「いや、フラン様。燃やすならその男だけで」
「俺達は関係ありません」
「何卒お許しを」
周りの男達が必死に言うが、私の腕の中の男はなおも屈しなかった。
「大親分って誰なの? さっさと言わないと燃やすわよ」
私は火の玉を男に近づけた。
「いや、ちょっと待て」
流石に男は慌て出した。
「お、俺らは聞いていない。お頭に命令されたんだ」
男が慌てて言い訳するが、本当かどうかは判らない。
そのうちに男が暴れて、火の玉が男の髪の毛に燃え広がった。
「ギャーーーー」
男が悲鳴を上げたので、頭の上から水をぶっかける。
「助けてくれ、まだ死にたくない」
男は空元気も無く濡れ鼠になって震えていた。
「フラン、それくらいでいいだろう。後は騎士団とシルヴァンに任せよう」
後ろからアドが言ってくれたけれど、大切な後輩を拐われた私としては許せなかった。
「お頭は何処にいるのよ」
「あ、あれだ。お前が馬で蹴り倒したんだ」
壁に突っ込んで気を失っている男を指さして男が言っていた。
これでは聞き出せない。
仕方なしに、私は後は騎士たちに任せることにした。
結局だれの指示かは判らなかった。大親分が牢屋に入れて翌朝尋問しようとしたところ、ならず者の頭はこと切れていたそうだ。
服毒したらしい。どこかに隠し持っていたのか、それとも誰かが差し入れしたのか、あるいは毒殺されたのか判らなかった。
「どういう事? 証人が殺されるなんて」
「面目ない」
私の前に教えに来てくれたアドが頭を下げてくれた。
「騎士団にもどこかの手の者が潜入しているということ?」
「それは考えたくはないが」
アドはそう言うが、いるということだろう。
まあ、私を恨んでいる奴らは一杯いるみたいだし、今回のは結構大きな組織だということだろう。
「でも、ヴァネッサは単なる後輩で、図書館で少し話しただけなのに、何故私と親しいって判ったんだろう?」
私が不思議に思って聞くと、
「学内にも奴らの手の者がいるのではないか? そう考えるのが妥当だろう」
アドが額に手を当てて呟いた。
「うちのクラスには居ないわよ」
私がはっきりといいきった。
「それは判っている。新たに入ってきた一年生が怪しいんじゃないか?」
「ということは公国?」
「うーん、しかしあいつらがそこまで頭が回るか」
「確かに」
あの兄妹はもっと単純だ。やるなら私にやってくるだろう。人質取ってやるなどまどろっこしい事はしないだろう。
「じゃあ、帝国?」
「今は中のゴタゴタで忙しくて、そこまでてが回るまい」
「じゃあ、どこが」
「詳しくは判らない。公国も他の奴らが動いているかも知れないし、王弟かも知れないし」
「王弟殿下って、私何もしていないわよ。お会いしたことも殆どないし」
私が慌てて言うが、
「フランの事だ。気付いていないだけで恨みを買っているのかも知れないし、邪魔だと思われているのかもしれないぞ」
アドが言ってくれた。
「アド、それ酷くない? 私がいるだけで邪魔だなんて」
私が膨れると、
「いや、フラン、どういう理由かは判らないが、狙われているのは間違いない。十分に注意してくれよ」
アドは心配して私を見るが……
「ふん、売られた喧嘩は買うわよ」
私はやる気満々だった。
絶対に私の後輩に手を出した奴は許さない!
私は心に誓ったのだ。
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
そろそろ最後の山場に向けて動き出します。
この土日は出来たら1日二回更新したいです。