アド視点2 フランとなんとか仲直りしました。
俺は直ちに自分の執務室に帰って、早速王弟の事を調べることにした。
側近たちも王弟については何も掴んでいなかった。
王弟の母は今の王太后ではなくて、父を王太后が妊娠中に祖父が侍女に手をつけて生まれたのが、王弟だ。
それを知った王太后は烈火のごとく怒って1年間離宮から帰ってこなかったとか。
侍女は男爵家の娘で、王太后の怒りを怖れ、実家に帰って出産、肥立ちが悪くそのまま亡くなったとか、王太后に殺されたとかいろんな噂があるいわくつきだ。
「本当に祖父も父も女に手は早いよな」
俺が言うと
「王族なら普通だろう。やはり王家の存続を考えると息子は最低二人はいるでしょう」
側近のジルベール・テルナンが言うが、
「まあ、殿下の場合、それやると命の保証は無いけれど」
リシャール・ヴィコントが笑って言ってくれた。
「リシャールさん、笑い事じゃないですよ。殿下がそんな事してくれたら、国家の非常事態になるんですから」
「いや、オーレリアン。俺はフラン一筋だからな。そんな事は絶対にしないから」
「そんなのわかりませんよ。侍女が夜這いに来たりしたらガードの甘い殿下はあっさりと既成事実を作られるんじゃないですか」
リシャールが言ってくれる。
「お前らな。そんな事になってみろ。怒り狂ったルブラン公爵が乗り込んでくるぞ」
「あのギャオちゃんとかいう帝国第二師団を壊滅させた古代竜に乗ってですか?」
オーレリアンの言葉に俺は固まってしまった。
それはそれで最悪だ。
王都が火の海になるかもしれない。
「と言うか、俺はフラン以外を抱くつもりはないからな」
俺が言うと
「それにはまずは、許してもらったほうが良いんじゃないですか」
オーレリアンの言葉に俺はそのとおりだと思った。
流石に母の前で抱きついたのはまずかった。
しかしだ。
「ええええ! それ言うなら、一番悪いのは義姉上を見捨てた兄上だと思うし」
「本当だよね。自分の実の母親なんだから、唯一対抗できるのが殿下なんだし」
仕事を終えてフランの所に向かった俺はヴァンとジェドの言葉を聞いたのだ。
「ちょっと、殿下とジェド様。余計なことをフラン様に言わないでくださいよ。それでなくても怒っているのに」
オーレリアンが必死に庇ってくれたが。
「フラン大丈夫だったか?」
扉を開けて飛び込んで、フランの所に駆け寄ったが、俺の目の前には鉄のトレイがあった。
ガツン
俺はフランが差し出した鉄のトレイ弾き飛ばされたのだ。
「フラン、いきなりトレイを突きつけるなんて酷いじゃないか」
俺が文句を言ったが、
「何言っているのよ。王妃様の前において行ったのはあんたじゃない!」
フランが切れている。
「いや、フラン、俺も母は苦手で」
俺は言い訳したが、これはとてもまずい。
「私はもっと苦手よ。王妃様はあんたの実の母でしょ。普通は婚約者を守るのが男の努めじゃない!」
とまで言われてしまったのだ。
俺はその後、弟たちに外に追い出されてしまった。
でも、ここでくじけていてはだめだ。
俺は次の日もフランのところに行こうとすると王宮から母の呼び出しが掛かったのだ。それもフランにだ。
おいおい、これ以上俺とフランの仲を邪魔するなよ。どのみち、フランのクラスのやつがまた子爵令嬢に絡んだのだ。その報告はオーレリアンから受けていた。
いくら母が権威好きでも、ここは俺が間に入るしかあるまい。
と言うか、入って絶対に仲直りするのだ。
食堂に行くと
「そうよ、巷ではフランの人気は鰻登りよ」
「そうそう、私のクラスメートだって自慢したらみんなにとても驚かれたわ」
「サインもらってきてくれなんて頼まれてるんだから」
フランのクラスの子達がフランを褒めている。
これはいい雰囲気では……
俺は喜んでフランの側に行こうとした。
「えっ、そんなに人気あるの?」
フランが喜んでいる。
「そらあ、そうよ。近衛騎士団長の反乱を防いだのもフランだし、海賊を退治したのもフラン、海賊の親玉のアルメリア国王を退治したのもフランだもの」
ここまでは良かったのだ。ここまでは。
「ターザンフランとか破壊女とか言われてもいるけれどな」
アルマンが余計なことを言ってくれた。
そんな事、事実でもこのタイミングで言うなよ!
「ああああ、あんな映像広まったら私お嫁に行けないじゃない」
俺はフランの言葉に切れてしまった。どういう意味だ!
「な、何言っているんだ。フランは俺の婚約者だろうが、俺の所に嫁に来るに決まっているだろう!」
俺は叫んでいた。
「フンっ、あんた誰?」
しかし、フランは無視してくれたのだ。
本当にフランは怒り出すとキリがない。
でも、母が呼んでいるというと途端にトーンダウンした。
フランの苦手が母と言う事はこれから怒らせたら、母からアプローチさせて、それを防げば仲直りできるのか?
俺は下らないことを考えてしまった。
それを見越したようにメラニーらが俺に「フランをちゃんと守らないと知りませんよ」
とか言ってくれたが、俺もやる時はやるのだ。
「絶対にフランは守るから」
俺はそう言うとフランを母の所に連れて行った。
王宮の入り口では母の女官長が俺を見て驚いていた。フラン一人のつもりでいたのだ。
そんな事を俺がするわけ無いだろう。
ここはフランに許してもらうための試金石なのだ。
母も俺がフランと一緒に来たと知って口調が弱くなる。
その勢いで、フェリシー先生の補講が理不尽だと母を説得して無くさせたのだ。
その瞬間フランの顔が満面の笑みになったのだ。
その笑顔を向けられて俺は喜んだ。
俺としても別にフランにそんな礼儀作法など求めていない。
フェリシーにしても母にしてもフランに求め過ぎなのだ。
別にフランは貴族としての最低限の礼儀作法は出来ている。他国もフランをその点では責めないだろう。
そして、その返す刀で、子爵令嬢に下らないことに現を抜かしていずに勉強しないと落第するぞとはっきり言ってやったのだ。
最初は否定していたが、入試の歴代最低点を取っている実績を突きつけてやるとやっと静かになった。
さすがの子爵夫人も怒りに震えながらも何も言えなかったみたいだった。
しかし、俺は子爵家が分不相応な企みをしているなんてこれっぽっちも思っていなかったのだ。
ここまで読んでいただいて有難うございます。