ルートン王太子視点2 海の向こうの王太子にやられたのを知りました
俺はその日も貴族用食堂に入ろうとして、何気なく目に入った画像を見て唖然とした。
フランソワーズ嬢の口の中にアドルフがデザートのアイスクリームをスプーンで放り込むのがデカデカと映っていたのだ。
「な、何なんだ、これは」
俺は思わず声に出していた。
「本当に下品ですわよね」
たまたま後ろを歩いていたロベルタ・ベルナンテ公爵令嬢が頷いてきた。
「そうだな」
俺は頷きつつ、アドルフにしてやられたのを知った。
画面にはデカデカとそのアドルフに嬉しそうに微笑むフランソワーズ嬢が映っていたのだ。
「本当にこんなハレンチな画像を王都中に流して、さすが、新興国の王太子殿下。やることが本当に下品ですわ」
公爵令嬢はそう言って俺に体を寄せてくるんだけど、おいおい、お前もお下劣なんだよ!
俺は思わず令嬢を先に歩いて躱していた。
最近、私がソニアと間を置いていることが知られてからは、クラスのこの令嬢もそうだが、各学年問わずに女共が私に付き纏うようになってきたのだ。
ソニアは控えめで決してそんな事なかったのに。
私がフランソワーズ嬢にアプローチするようになってからだ。
でも、コイツラでは駄目なのだ。強力な魔術師であるフランソワーズ嬢でないと。
それが父である国王陛下はじめ、皆の願いなのだ。
でも、アドルフの野郎が、フランソワーズ嬢との熱々の映像を王都中にばら撒くなんて事をするなんて、思ってもいなかった。
これはもっと根本的に対策を考えないと。
そう思っていた時だ。
「はいっ」
そう言ってクラウディオが本を渡してくれたのだ。
「何だこれは」
クラウディオから本を渡されたことなど初めてだ。
不審に思ってその表紙を見ると
『王太子アドは薔薇の魔術師フランを熱愛する』
とデカデカと書かれていたのだ。それも二人の親しそうに寄り添っている絵が書かれている。
「王都の書店で売られているベストセラー小説だ」
俺は慌ててそれをペラペラとめくると、王太子アドが王立学園に入学してきたフランと熱愛する物語で、その中にはそれを邪魔する隣国からの王太子フェルと聖女ロス、公爵令嬢グレスが出てくるんだけど。
どう考えてもこれは俺だ。
「誰だ、こんな本を出したのは」
「さあ、今や王都で飛ぶように売れていて、演劇にもなっているという噂だぞ」
俺は頭を抱えたくなった。
そうだ。これは全てアドルフの陰謀だ。
あいつ、自分が傍にいられないからって世論を味方に俺の邪魔をするつもりだ。
どうしたんだ? あいつは! 昔、会った時にはフランソワーズ嬢なんて、お転婆なだけで、興味が無いって言っていたのに。
あれは俺に対して嘘を言っていたのか?
慌てる俺を見下すように、クラウディオは見てくるんだけど。元はと言えば、お前と妹の仲を守るためにやってやっているのに、こいつは何を考えているんだ!
俺は思わず言いそうになったが、流石にそれは止めた。
「おい、クラウディオ、フェルは誰のためにやっていると思っているんだ」
しかし、横から側近の公爵の息子のカルロス・バンブローナが言ってくれた。
「はっ、自分のためだろう。こいつはソニア嬢が役に立たないから隣国の強力な後ろ盾を持つフランソワーズ嬢に乗り換えたんだろう」
「はああああ! 何を言っているんだ。フェルはな、お前とシルビア殿下との仲を守るために、涙を飲んでフランソワーズ嬢に乗り換えようとしているんだよ」
「何を言っている! どういう事だよ?」
驚いてクラウディオは聞いてきた。
「どうもこうもないだろう。アルメリア王国からはシルビア殿下の輿入りを強硬に求めてきているんだぞ。親から聞いているだろう?」
「えっ、そんな事は聞いていないぞ!」
カルロスの言葉にクラウディオは驚いていた。
「嘘だよな。フェル?」
俺は聞いてきたクラウティオには頷くことは出来なかった。
「そんな……」
クラウディオは唖然としている。
「だから、そのアルメリア王国の要求を跳ね返すために、フェルは嫌々ながら、ソニア嬢を諦めて、海賊退治の英雄フランソワーズ嬢を嫁に迎えようとしているんだ」
「そ、そんな、俺達のためだなんて」
クラウディオは頭を抱えてしまった。
そうだ。俺は妹のために、そしてこの国のために、何としてもフランソワーズ嬢と婚姻を結ばないといけないのだ。
アルメリア側のコフレンテス伯爵を捕まえたら、アルメリアは諦めるかと思いきや、更に強硬に主張しだしているのだ。アルメリアには外交の常識は通用しないのか?
更には、アルメリアから示唆されたと思われる海賊の襲撃が頻発して襲われる商船が激増したのだ。
我が海軍もがんばっているのだが、いかんせん守る船の数が多すぎたのだ。
その海賊の力を背景にしてアルメリア側は、今度は前王家の血筋のものを差し出せとまで言ってくるようになってきたのだ。
ソニアの身を守るためには、何としてもフランソワーズ嬢と婚約する必要があるのだ。
俺も切羽詰まっていたのだ。