敵のアジトに連れて行かれて、友人を助け出しました。
私は22時少し前に部屋を出た。そのまままっすぐに渡り廊下に向かう。
途中で警戒するクラスの面々を見かけはしたが、やり過ごして行った。
せっかく警戒してくれているのに、無視していくのは気が引けたが、テオドラの無事のためだ。絶対にテオドラは助ける。私は再度心に誓ったのだ。
夜の学園は基本的に誰もいない。
しかし、事件があった後すぐで、今は警備が厳しいはずで、本来ならば渡り廊下なんて敵も来れないはずなんだけど、どうするつもりだろう?
しかし、渡り廊下にも周りにも誰も警備の兵士はいなかった。
どういうことだろうか? 単にサボっているだけとは信じられない。
今は非常事態なのだ。
本来厳戒態勢のはずなのだ。
我が国で今これをやったら、中央騎士団長が丸坊主になっても許されないだろう!
それだけの失態だ。
この中でそう言うことをするということは、本来ここの地を警備するはずだった騎士は敵の協力者なのだろう。
おそらく、敵はアルメリア王国だとは思うが、そこはまだ判らない。
王太子は後は任せてほしいと私に言い切ったのに、これは何なのだ!
私は少し切れていた。アドがこれをやったらただでは済まない。まあ、戦闘分野は私の担当なので、私が前線で督促していると思うが・・・・。
渡り廊下には一人の男が立っていた。
「ほう、上等上等、一人で来たのか。姉ちゃん」
男はガタイがデカく筋肉質で、暗闇の中でも日に焼けているのは判った。どう見ても船員風だ。
「テオドラはどこにいるの?」
私が聞くと、
「今から案内してやるよ。ただし、他に尾行しているやつがいれば命の保証はしないぞ」
「あなたがドジやってつけられていない限りは、ついてきている者はいないわ」
私は言い切った。
「ほう、なかなか度胸の座った姉ちゃんだ。手を出しな」
男が私の手を出させた。
握手でもするのか? 私が片手を出すと
「両手ともだ」
男は呆れたように白い目で私を見た。
「女一人なのに、えらく警戒するのね」
「お前が強い剣士だって聞いているからな」
私の両手に手錠をかけると男は手を挙げた。
なるほど、私が魔術師だというのは伝わっていないみたいだ。
まあ、海賊相手にはあまり魔術は使わなかったからだろうか?
どっちかって言うと剣術よりも魔術が得意なんだけど……
小船がゆっくりと近づいてきた。
「乗りな」
私は顔をしかめた。沖合の船に連れて行くつもりなのだろうか? そうなったら結構面倒だ。
船を燃やすとここまで帰ってくるのに泳がないと行けない……
だが、ここで時間を稼いで警戒されるのは愚の骨頂だ。
出来る限り早く、テオドラの無事を確認したい。それとバックに誰がいるかだ。
「どこに行くの?」
「ついてくれば判るさ」
男は私の後に船に飛び乗ると船頭に合図した。
船がゆっくりと動きだした。
そのまま海岸沿いに動いていく。
沖合には出ないみたいだ。私はホッとした。
船は運河に入って、とある屋敷の中に入っていった。
屋敷の中に入るなんて、黒幕が誰だか教えているようなものだ。
こいつらバカなんだろうか?
まあ、私を生きて帰すつもりがないのかもしれないが……
でも、その屋敷は静かだった。寂れていたし、使われていない屋敷かもしれない。
敵も黒幕の屋敷に連れて行くほど馬鹿ではないらしい。
「降りるんだ」
男の言う通り私は船を降りた。
そして、建物の中に案内される。
「ふ、フラン、なんで来たの」
テオドラが私を見て慌てて言った。
「あなたを助けるためじゃない」
「こんなところに一人で来てはいけないわ。あなた、コイツラのおもちゃにされるのよ。なんで来たのよ」
そんな事泣き喚かれても困る。
中にはいかつい男たちが10人くらい至た。
真ん中で座っている男は眉間にシワを作っていた。何か疲れ切った顔をしていたが。
「貴様が赤髪のジャックを捕まえた、女か」
「まあ、そう言われているわ」
私は平然と言い返した。
「あなたが、その仲間という事ね」
「赤髪のジャックは俺の命の恩人だ。そして、妻の仇討ちを手伝ってくれた親切な友人だ」
「物は言いようね。あなた方、海賊が海で暴れるから皆迷惑しているのよ。私は皆を助けるために手を差し出しただけだわ。あなたこそ、か弱い女の子をさらって恥ずかしくないの?」
「ふん、貴様ら貴族はいつもそうだ。自分の事を美化して、悪いことをしても悪いとは思わない」
男はそう言うとつばを飛ばした。
「何言っているかわからないけど、私は襲ってきた海賊を返り討ちにしただけよ。嫌なら襲って来なければいいじゃない」
私は当然のことを言ってやった。海賊退治は暴れたいという私の希望は確かにあったが、元はと言えばそんな私の乗っている船を襲った海賊が馬鹿だったのだ。
それはこの男にも言えたが。
私を攫ってくるなんて余程の馬鹿だ。
我が国では私に文句を言ってくるのは同じ公爵家で犬猿の仲にあるグレースか、ピンク頭くらいだ。
それは街のごろつき共も同じで、いや違う。アイツラは私の顔を見た瞬間に逃げ出すのだ。
いや、それ以前に、私の半径1キロ以内に近づいたら何をされるか判らないからと私の気配に気づくと、必死に逃げ出すのだ。
この国の人間はそういった警戒をしてくれないから好きだ。やりがいがある……
「ふんっ、貴族の娘で、小さいときから両親に着包みでくるまれて大切に育ててこられたのに可哀想にな。ここでコイツラに良いようにされて弄ばれるんだから」
男は笑って言った。
周りの男たちが立上って下卑た笑みを浮かべながら寄ってきた。
「はああああ? 何をトチ狂った事を言っているの? 両親が私が小さい時から大切に着包みにくるんで育ててくれただ? そんな親が5歳で魔の森に放り出すと思うの?」
「魔の森?」
「知らないの。エルグランの国境に広がっている森よ」
「あ、聞いたことがあるぜ。エルグランの端にある強い魔物がゴロゴロいる森だろ」
「人間だったら絶対に行ってはいけない森だと聞いたぞ」
「そんな森に5歳の女の子が行けるわけ無いだろう」
「嘘ばっかりついているんじゃねえぞ」
男たちは叫びだした。
「普通はあんたたちみたいな反応なのよ。その時は本当に大変だったわ」
私はニコリと笑った。
「そ、そんな訳ないだろう」
男の1人が叫んだ。
「そう、誰一人信用してくれないのよね。メラニーでさえ、半信半疑なんだから」
私は自虐気味に言った。
「サラマンダーとかゴーレムとか、ドラゴンとか本当にうじゃうじゃいたわ。それに比べたらあんたらなんて本当に可愛いものよ」
私は周りの男どもを見下したのだ。
「何言っていやがる。そのいきがりがいつまでも続くと思うなよ」
一人の男が私に掴みかかろうとしたのだ。本当に馬鹿だ。
バン!
一瞬だった。
火炎魔術で一瞬で真っ黒焦げにしてやったのだ。
男はピクピク震えて倒れ込んだ。
「あーーーーら、ゴメンナサイね。手加減が出来なかったわ」
「う、嘘だ。お前手錠は」
「えっ、手錠? こんなちゃちなもので私を縛れると思うの?」
私は一瞬で手錠を引きちぎっていた。
「野郎ども、やってしまえ」
恐怖に駆られた椅子に座った男が叫んでいた。馬鹿な男だ。これだけ忠告してやったのに。
私は襲ってきた男達を火炎魔術で一瞬で黒焦げにしたのだった。
フランの前に敵なしです。