アドの歓迎と私の海賊退治の功を祝して夜会が開かれる事になりました。
私への疑いは晴れた。
それは疑いが晴れたのは良いけれど、海賊退治した公爵令嬢として陛下からルートン王国の貴族たちの前で大々的に称賛されたのだ。その後、ルートン王国勲章などというものを授かったのだ。
めったに他国の者には与えられないらしい。
でも私はこんなのいらないんだけど・・・・。
結局また、私は英雄になってしまった。
まあ、クラスでたくさん友達が出来た後で良かったけれど・・・・。
「流石、お転婆な方は違いますわね。私だったら絶対にあんな馬鹿なことは出来ないわ。あのバカみたいな罵声の意味は何かあるのかしら? 一瞬どこの動物園の猿かと思いましたわ」
私に助けられたはずのグレースからは完全にバカにされるし、
「さすが脳筋令嬢は違いますわ。私なんか怖くて絶対にあんこと出来なかったです」
とピンク頭はそう言ってA組の伯爵令息の胸の中で怖がるふりしていたとか・・・・。
ピンク頭はどこが反省しているのよ! また、留学先で問題起こしまくりだと私は庇わないわよ、と密かに思った。
まあ、どのみち、私は帝国教の教皇を殴り倒した令嬢だとか、熊より強い令嬢だとか、ドラゴンでも片手で捻り倒す令嬢とか、エルグランでは噂されているのだ。海賊退治の一つくらい勲章が増えてもどうって事ないが、せっかく見ず知らずの国でおしとやかな令嬢として普通に生活できると思ったのに、これじゃあ絶対に無理じゃない!
そう言ったら、
「あんた何言っているのよ。元々あんたがおしとやかな令嬢なわけないでしょ。騎士団長の息子も一撃で気絶させるくらいなのに」
メラニーに言われてしまったんだけど。うーん、なにか違う!
一時期は王宮から無事に帰れるんだろうかと心配になったくらいだが、陛下からは勲章以外に金一封もらったので、女の子皆で食べに行こうと思ったのは男子には秘密だ。
そして、帰ろうとした時だ。
「また、詳しくは明日の歓迎会の夜会でお会いしよう」
陛下から爆弾発言があったんだけど。
私はそんなの聞いていないし。
「フランは衣装はどうするのよ」
帰る時にメラニーが聞いてきた。
「えっ、夜会なんて出るわけ無いでしょ。アドが1人で行くんじゃないの」
私が言ったら、
「んな訳あるか。俺がエスコートするからそのつもりで」
アドに言われたんだけど。
「いや、でも、衣装はないし」
私は必死に断ろうとしたのだ。基本的に私は夜会とか堅苦しいのが大嫌いなのだ。今までもできる限り避けてきた。本来、学生の間は免除されるはずなのだ。
「フランソワーズさん。今回の夜会は留学生の歓迎の意も兼ねているのです。それにあなたのあの大活躍の海賊退治の功を祝したお祝いでもあるのです。不参加は許されませんよ」
なんかフェリシー先生が怖い。勝手に暴れたので、怒っているのだ、絶対に。あんなはしたない事をして、とか、淑女にあるまじき行いとか王宮から帰ったら散々怒られるのだ。
でも、待てよ。私がしたことを陛下が祝ってくれるのならば、私は怒られないのでは無いか・・・・フェリシー先生のお説教3時間コースと嫌な夜会に参加するのとを天秤にかけてみたけれど、両方とも不参加とかいうのは無いの?
私は結局アドやフェリシー先生の圧力に負けて、夜会に参加する羽目になってしまったのだ。
制服で参加するという私の意見は一瞬で却下された。
仕方がないからイネから服を借りようと思ったら、アドが既に持って来ているとのことだった。アドは元々歓迎の夜会に私を参加させるつもり満々だったのだ。それならそうと言っておいてほしかった。私にも心の準備が必要なのだ。
「そんな事したらフランは逃げるだろう」
アドに言われて私は一言も言い返せなかった。
まあ、仕方がない。エルグランでは学生は免除されていたのに、このルートン王国では16歳前後で貴族は夜会に参加出来るらしいし、実際、皆は参加しているらしい。夏に王宮で盛大な夜会パーティーがあって、貴族の子供の大半がそこでデビューしたそうだ。
「当日はフラン様の凛々しい海賊退治の映像がお披露目されると聞きました。今から楽しみです」
イネに言われたんだけど。
止めて! あんなの皆に見せられたらお嫁に行けないじゃない。
それを間違ってアドの前で言ってしまって、「お前はもう俺の婚約者だろうが。卒業と同時に結婚も決まっているし」
なんかアドが私が聞いた事もない事を宣っているんだけど。
そらあ、アドとはいずれ結婚するとは思っているけれど、卒業してすぐは嫌だ。もう少し遊びたい。
私はそう思った。アド本人にその事を言うとまた煩いから、メラニーらに相談しようと思ったのだ。
アドの持ってきた衣装は濃い青に黒のラインが入っているシンプルな色合いのドレスだった。私の無い胸を強調した衣装とかでなくて良かったと私はホッとした。こういう時は付き合いが長い分、私の考えを言わずとも判ってくれていると思ったのだ。
「単にあんたが目立って、他の男達の視線を集めないように地味なのにしているだけじゃないの? 殿下はあんたに執着しているから」
メラニーの言葉を聞くと身も蓋もないんだけど。私は私の考えをアドが尊重してくれたと考えたい。それに私みたいながさつな女がそもそもモテる訳はないのだ。
「そうかな。フランは黙っていたらとても美人よ」
メラニーがなんか褒めてくれるけれども、私が黙っていられるわけないじゃない!
それに考えたら学園のサマーパーティーもピンク頭の自作自演で無くなったし、ひょっとしなくても私達のデビュタントではないの?
さすがの私も初パーティーだと思うと少し緊張した。でも、聞くとメラニーらは親戚の簡単なパーティーで既にデビューしているんだとか。オーレリアンもそうみたいで、平民のアルマンですら父親とデビューしていた。
ひょっとして初めてなのは私だけ?
私はますます緊張して来た。
そんなところへ颯爽とアドが迎えに来てくれたのだ。
「えっ、どうしたんだ。フラン。顔が少し青いけど気分でも悪いのか?」
アドが驚いて聞いてきた。
「違いますよ。殿下。フランは初パーティーで緊張しているんです」
メラニーが後ろから言ってくれた。余計なことを言わなくてもいいのに。
「えっ、嘘だろ。そうだったか? あれだけ王宮でも俺と踊っていたのに、パーティーは初めてだったのか?」
「もう、声が大きい」
私がムッとして言った。当然私にもいろんな機会があったけれど、全てうまく言い逃れして逃げたのだ。練習ではアドといやほど踊ったけれど、正式な夜会は初めてなのだ。それも他国で、なおかつ私も主賓の一人ってちょっとハードルが高すぎない?
「判りました。我が姫君。姫の初めてのパーティーのエスコートをさせて頂けて光栄です」
アドが綺麗に頭を下げてくれた。
ちょっと、アド、周りの注目を浴びているんだけど。
「では、フラン。行こうか」
そう言うとアドが手を差し出した。
もうやけだ。こうなったらやるしかない。
まあ、何とかなるだろう。
いつも、フェリシー先生からは散々ダメ出し受けているけれど、あれは先生が厳しすぎるからだと思うことにした。
私はアドにニコっと笑って頷くとその手を取ったのだ。
フランにとって人生初の夜会が始まりました。
果たして無事に終わるのか?
今夜更新予定です。