鍋料理を皆でつついてクラスが一致団結しました
ふらふらになったドミンゴが到着して、やっと全員が揃った。
「あれ? 俺の薪は要らなかったの?」
鍋が出来ているのを見て、呆然としてドミンゴが言った。
「あなたが登って来るの遅いから、フラン様が木を切って薪にしてくれたのよ」
イネが先生の前で余計な事を言ってくれるんだけど。私は慌てて、イネの口を押さえた。
「木を切った?」
「いや、何でもないです」
イザベラ先生の声に私は必死に誤魔化した。先生達も疲れきっていたみたいで、それ以上追及してこなかった。
「さあ、皆、鍋料理が出来たわよ。頂きましょう」
私が言うと、
「俺は何故、苦労して薪を持ってきたんだろう!」
ドミンゴがいつまでも煩いんだけど。
「ドミンゴ、フラン様の機嫌が悪くなっているわよ」
「でも、俺は必死に持ってきたのに!」
あくまで言い張るドミンゴに私は少し切れた。
「私も必死に皆と仲良くなろうとしたのに、あんたは私に酷いことをいろいろと言ってくれたわよね。果ては親まで連れてくるし」
「申し訳ありません。フラン様」
ドミンゴが慌てて、私にすがり付こうとするが、
「あんたが遅かったから悪いんだし、薪は地上まで持って降りなさい」
「そんなああああ」
ドミンゴが悲鳴を上げるが私は無視することにした。だって私も鍋持って降りるし、登りと重さは変わらないのだ。でも、下りは楽だろう。
「さあ、皆、熱いうちに食べてしまいましょう! お代わりはいくらでもあるわよ」
「頂きます」
私の言葉に合わせて皆合唱する。
そして我先にと食べ出したのだ。
「嘘っ、めちゃくちゃおいしい」
「凄い」
「これうまい」
皆喜んで食べてくれた。
涙にむせび泣くドミンゴを残して。
本当にもう手ばかりかかる。
私はアルマンに合図した。
アルマンも面倒臭そうな顔を一瞬したが、
「おい、ドミンゴ、早く食べろ」
「でも、俺こんな荷物持って降りられない」
「なに言っているんだ。皆で手分けしたら軽くなるだろ」
「アルマン、本当か?」
嬉々としてドミンゴが聞いてきた。
「ああ、任しとけ。皆も持ってくれるよな」
「任しとけ」
アルマンの声にエドガルドが頷いてくれた。
「皆、有難う」
そうお礼を言うと慌ててドミンゴも食べだした。
「本当だ。美味しい。こんな美味しいもの生まれて初めて食べた」
ドミンゴも感動してくれた。
「でしょう。みんなでつつく鍋は最高なんだから」
私が言った。
「そうよ。フランが味付けしなかったらね」
メラニーがいらないこと言うんだけど。
「メラニー、流石にそれはフランさんに失礼なのでは」
おおおお、私は感動した。イネが様からさん呼びに変えてくれたのだ。鍋の力は偉大だ。
「全然そんな事無いわよ。事実だもの。フランに味付け任したら美味しいものも不味くなってしまうからね」
「そんな事ないと思いますけど」
あくまでもイネは私の味方だ。
「何言っているのよ。フランは原始人なのよ。食べ物なんて食べられたら良いと思っているんだから。
戦場では最強でも、地上で食事を作らせたらだめなのよ」
「そこまで酷くないわよ」
私が言うが、
「だってフランに焼かせると下手したら真っ黒になってしまうし、果ては火が通っていたら良いのよ、って言うのよ。フランの胃は鋼鉄製なんだから大丈夫だけど、私達の胃は繊細なのよ」
「やっぱり、そうだよな」
メラニーの言葉にガスペルが頷くんだけど。
おいガスペル、頷くな!
思わず私は叫びそうになった。
私は思わず睨みつけてやったけれど、イネ以外の大半のものは信じたみたいなんだけど・・・・。
「まあ確かに食料は食べられたら良いとは思っていたけれど、それは魔の森仕込みだから仕方がないじゃない。文句は母親に言ってよ。五歳で食べ物もなしに魔の森に放り出されたんだから仕方がないでしょ。本当に大変だったんだから・・・・」
よく見ると私の必死の言い訳を、皆食べるのに忙しくて誰も聞いていないんだけど・・・・
メラニーなんて、必死に具をさらえているし。
「お代わり」
「俺も」
「私も」
皆次々にお代わりをしていく。
まずい、このままではお代わりが無くなる。
私も負けじと食べだした。
鍋は大成功だったみたいだ。
私達のクラスの横で、羨ましそうにシルビアが見ていた。
「シルビア様。どうされたのです。お食事が進まれておりませんが」
「Eクラスの面々は何か下品な料理を食べておりますわね」
ピンク頭が言ってくれるんだけど。本当にムカつく。それに相変わらず横に男を侍らせているし。
「あれはエルグランで流行っている料理ですの?」
「そんな訳ありませんわ。あのように皆で食べるなんて、ルブラン家の野蛮な風習ですのよ」
他の貴族に聞かれてグレースが飛んでもない事を言ってくれるし。
言い返そうとした私の前で
「でも、何か楽しそう」
私達を見ながらボソリとシルビアが漏らしたのだ。
「そうそう、皆で食べる鍋は最高よね」
私は羨ましそうにするシルビアを横目にみんなに言ったのだ。
「でも、ここまで持ってくるのが大変だったけれど」
「それもいい経験じゃないか」
「そうそう、皆で働いた後に食べる料理って美味しいよな」
ドミンゴの言葉にガスペルとかが言ってくれた。
「なんか、めちゃくちゃ羨ましいんですけど」
何故かシルビアがハンカチを噛んでいるんだけど。
そして、いつの間にか横に来て食べたそうに鍋の中を覗き込んできた。
「シルビアの分はないわよ」
私が冷たく言い切ってやったのだ。
「なんでよ。フラン、私にも分けてくれてもいいじゃない」
「クラス分しかないから無理」
「ケチ」
「ケチでも何でも仕方がないでしょ」
「何よ。公共の杉の木を一本、無断で薪にしたくせに」
「だって全員分無いからあなたにだけあげる訳にはいかないでしょ」
「それはそうかもしれないけれど・・・・」
「ちょっと待ちなさい!」
私とシルビアの言い合いに何故か疲れ切って座っていたはずのイザベラ先生とフエリシー先生が立ち上って来たんだけど。
「フランソワーズさん。公共の杉の木を薪に変えたってどういう意味ですか」
フェリシー先生が私を問い詰めてきた。
「えっ、いや、その」
私はまずいと思った。これはどうやって誤魔化せば良いんだ。
本当にシルビアの奴、碌でもない事を言ってくれた。
「あちらを見れば判りますわ」
「バラスな」
食べさせてもらえなかったことを逆恨みして二本杉の方を見てシルビアがバラしてくれたのだ。
「二本の杉が何か」
フェリシー先生は判らなかったみたいだが、
「えっ、二本杉ですって。そこは確か三本杉だったはずでは」
イザベラ先生が反応した。メガネを掛け直して見直す。
これは完全にバレてしまった。
私は青くなった。
「フランソワーズさん。あなた、隣国にまで来て貴重な自然を破壊するなんてなんてことなのです」
怒ったフェリシー先生のお小言が始まった。
そら見たことかと優越感に浸っていた、シルビアだが、
「殿下。あなた、フランソワーズさんがその木を切り倒すのを黙ってみていたのですか?」
「えっ、いえ、先生。私が来たときはもうすでに切り倒された後で・・・・」
「でも、直ちに私に言うなりなんなり方法があったはずです。それを他人事のように今頃になって報告するなんてどういうことなのです。あなたはそんな事でこの国の王女殿下としてやっていけると思っているのですか・・・・」
結局、私とシルビアは延々と1時間位怒られることになったのだった・・・・
最後はいつものように怒られたフランでした。