創造魔法で異世界無双! レールの敷かれた人生なんてまっぴらごめんだ!
受験ストレスに苛まれ、蒼生は自殺した。敷かれたレールに堪え切れず、湯に浸かる手首を切って、十五の命の幕を閉じた。蒼生は異世界転生に選ばれた。得た力は創造で、思い描いたものを実現する。その力に限りはなく、物や金に、生き物さえも生み出せる。
「僕は友達が欲しい。前の世界ではいなかった、友達が欲しいんだ」
すると現れたのは摩訶不思議、二本足で立つ猫だった。
「こんにちは、蒼生くん。僕は君の願いから生まれた、ケット・シーのソムニアだ」
「本当に、本当に君は僕の友達なの?」
「当然さ、僕は君の力から生まれたのだから」
異世界の荒野を歩く蒼生は、腰下のソムニアに行き場のない想いを語る。
「これから僕はどうすればいいかな。僕は今まで親の敷いたレールを通ってきて、そんな僕は今や自由だ」
「蒼生くんの好きにすればいいさ、思いのまま自由にね。そんなことより前を見なよ、この世界には魔物がいるんだ」
ソムニアの突き出す前足、その先には魔物の定番のゴブリンがいきり立つ。
「ソムニア! どうしたらいいの? 君は魔物と戦えるの?」
「倒したいのは山々だけど、生憎ぼくの手は猫の手だ。大した力は貸せないよ」
「じゃあどうしたら……」
「何を慌てる必要が、蒼生くんは創造の力を使えるじゃないか。君の思い描く召喚獣を、この場に創り出せばいいんだよ」
「そ、そうか! 出でよ、ドラゴン!」
蒼生の呼声に応じて、雲間より竜が舞い降りる。ひと息でゴブリンを焼き尽くすと、次は蒼生に目を向けた。
「あ、あわわわ……まさか僕も焼かれてしまうのか」
「ドラゴンを呼ぶだけならそうだけど、どんな性格にしたんだい」
「それはもちろん、主に忠実なドラゴンだよ」
「だったら大丈夫だよ。蒼生くんを襲いはしない」
地に着くドラゴンは項垂れて、慄く蒼生に忠義を表す。
「え、えぇと……こんにちは、ドラゴンさん」
「我は蒼生殿の望みで生まれたトラオム。この身に代えてお守りしよう」
竜の背に乗り空を渡り、その内に町が見えてくる。何処ぞ当てのない蒼生は、何気なしに町へ寄ろうと思い立った。
「ここで降ろして、トラオム」
「心得た」
石畳に降り立つと、ソムニアと共に町を歩く。そこには数多の人々や、獣人と思わしき種族も交じる。ならばソムニアも目立ちはしないが、過ぎ去る町人には麗しき女性も目に付いた。
「僕には彼女もいなかったな。あんな美しい女の人、彼女になったら素敵だな」
「なにを、蒼生くん。君には創造の力があるじゃないか。もっと美しい女性だって、生み出すことができるんだよ」
「そうか、出でよ彼女!」
蒼生の願いに応じて、目の前には天女というべき美しい女性が姿を現す。
「私は蒼生さまの期待から生まれた、妖精のスエーニョです。我が身は余すところなく、全て蒼生さまのものです。なんなりとご命令を」
「え、えぇと……手を繋いでもいいかな」
「仰せのままに、ご主人様」
そうして蒼生は創造を続け、異世界各地を旅して回る。今や蒼生には沢山の仲間が後に続き、大所帯を連れての賑やかな旅路。皆が蒼生を慕い、そして尽くし、蒼生も同じく愛を注ぐ。
蒼生は各地で活躍を続けており、その内に王国に呼ばれることになった。国には一人の姫がいて、宴の最中に名を呼ばれ、二人きりの密談を。
「蒼生さま、私は姫の立場にあります。ですが冒険に憧れるのです。このような生まれでなければ、旅のお供をしたく思います」
「姫、だったら一緒に旅立とう。姫の好きにすればいいんだ」
「しかし私には父が、王がそれを許しません」
「王といえど父親だよ。親のレールに敷かれる人生、そんなものは偽りだ」
「姫としての人生が……偽り……」
「そうだよ。皆だれしも、好きに生きればいいんだよ。親で決まる人生なんて、まっぴらごめんだ。そして今の僕にはたくさんの仲間がいる。姫も一緒に、僕たちの仲間になろうよ」
すると、いつの間にか蒼生の後ろに、これまでの仲間たちが集っていた。姫は勇気を振り絞り、そして蒼生にこう願った。
「どうか私を、あなたの仲間にしてください!」
「当然だ! 姫は僕の仲間だ。いや、僕たちの仲間だ。なぁ、みんな!」
振り返る蒼生は、両手に余る仲間たちに、姫の同伴の同意を求める。それを聞き、みな一様に笑みを浮かべ、そして蒼生にこう、答えた。
「嫌だね」
「誰が言うことなど」
「聞くもんか」
蒼生の笑みは凍り付き、同時に思考も時を止める。
「行こ行こ」
「じゃあね」
「二度と会うこともないだろうけど」
そして背を向け去る仲間たち。蒼生は淀む思考の中、なんとか言葉を捻り出す。
「ま、待てよ! いきなり何を言ってるんだ! 君たちは僕の仲間だろ? 僕の力から生まれたんだ! 僕のことは友達で主で、ご主人様だって言ってたじゃないか!」
「そうだね」
「間違いないよ」
「でもさ……」
「だったら君も、生みの親の言うことを聞けよ」
「――――え……」