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どうしてもかぼちゃが食べたかったので、神の業を発動しちゃいました

前回より少し前のお話。

 この世界には魔法が存在する。

 厳密にいえば,付近にいる精霊の助力を借りて発動するので,精霊魔法が正式名称らしい。精霊がいて、その精霊の属性と相性が合えば,火を起こすことも,竜巻を起こすことも,怪我を治すことも可能だ。非常に便利な力である。

 ただ,魔法使いの数は非常に少ない。昔はたくさんいたというが,現在では希少な職種となっている。

 その魔法使いの中には,ごく稀に規格外のものが現れた。

 その者たちは精霊の力を借りずとも魔法を発動することができる。しかも魔法の規模は精霊魔法の比ではない。その気になれば,国を動かし支配できるとまでいわれている。

 精霊無くして魔法を扱う,原動力は何なのか。未だ解明されていない。生命力を力に変えているという説もあるが,その者たちはもれなく長生きしているので,可能性は低い。

 未知の力を持つ魔法使い。その計り知れない神に近い業を持つ者たちは,男女問わず、聖女と呼ばれた。


 ※ ※ ※


 この私,ローラが聖女と呼ばれたきっかけは,ずばり、かぼちゃが食べたかったからだ。

 孤児院では,食費を少しでも浮かせるために畑を耕している。そこに植えるのは定番野菜数種なのだが、カボチャは入っていなかった。土地が合わないという理由で,昔からこの町の農家は誰はかぼちゃを栽培していないのだ。


 でも、私はかぼちゃが食べたかった。

 前世からの大好物だったから。


 前世の記憶がある者,いわゆる前世持ちはこの世界ではよくある話だった。

 遠い国に住んでいた。隣町に住んでいた。異世界に住んでいた。

 そういうのはよくある話だ。驚いたことにね!

 私は異世界の前世持ちだった。日本と呼ばれる国でのほほんと生きていた会社員だった。

 最後は覚えていないが,寿命を全うしていないのでいい最後ではないだろう。深く考えないようにしている。家族や友達のことは覚えているが,それも深くは考えない。取り戻すことはできないのだから。

 ま、いま生きることの方が大事よね!とポジティブ思考で今日に至る。

 それでも時々、懐かしくなることはある。たとえば食事だ。

 かぼちゃ。私の大好物だった野菜。

 幸運なことに,この世界の野菜はほぼ同じなので食べれないわけではない。

 ただ,日本のように物流の良い豊かな世界ではないので簡単には食べれないのだ。

 かぼちゃの美味さを知っていながら食べることができない苦痛。

 神様,どうしてこんな試練を私に与えたの!



「このじゃがいも,全部かぼちゃだったらいいのになぁ」

「あら。じゃがいもの方が料理の応用が効くから,私は良いと思いますが」

「でも,かぼちゃの方が美味しいよ!デザートも応用効くし!あとじゃがいもより高く売れる!」

「たしかにこの町で売れば,良い商売にはなりますね」

 シエナは味より売り上げの方に興味を持った。

「競争相手もいませんし,少しくらい味や形が悪くてもいい値で売ることができますね」

 私は畑を這うじゃがいもの葉っぱを摘んで溜息をついた。

「おや、ローラちゃん。溜息ついたら幸せが逃げるぞ」

 通りかかった近所のおっちゃんが,声をかけてくる。

「逃げるほど幸せ持ってないもん。でもさ,このじゃがいもが,かぼちゃになったらいいと思わない?」

「ガハハ。そりゃあ、魔法使いでも出来はせんよ。聖女様の神の業でも使えんとなぁ」

「ああ、私が聖女だったら,この畑全部かぼちゃに変えるのに!」

 おっちゃんは笑いながら家に帰っていった。



「な、な、なんじゃこりゃぁああああ」

 腰を抜かしたおっちゃんの前には、孤児院の変わり果てたじゃがいも畑が広がっていた。

 隣に立ちすくんでいた私も震えが止まらない。思わず自分の体を抱き締めた。

 普段冷静なシエナも若干顔色が悪い。

「私は夢を見ているのでしょうか…」

「違う、私にも見えるもん。かぼちゃ…」

 昨日まで順調に育っていた孤児院のじゃがいもが、すべてかぼちゃになっていたのだ。

 しかも土に埋まっていたじゃがいもが全てかぼちゃに変わったらしく、畑の上は、かぼちゃの蔦と山盛りのかぼちゃで小山のようになっている。いい育ち具合のかぼちゃだ。

 おっちゃんの声が思いのほか響いていたのか、近所や孤児院に来ていた大人たちも集まって来て騒ぎはじめた。

「怪奇現象だ。かぼちゃの怪奇?…いや、怪奇かなぁ」

「呪いだ。えーとかぼちゃの、呪い?」

「ドッキリじゃないのか?」

「えーじゃがいも食べたかったのにぃ。この下に残ってないのかなぁ」

 周囲が騒つく中、シエナはハッとして私に顔を向けた

「これ、もしかして…」


 私は震える体を抱きしめていた両手を、天に突き上げ叫んだ。

「やったぁぁ!!今日はかぼちゃパーティーだぁぁ!!」

 その場にいたみんなが私に振り返った。

「「お前の仕業かぁぁぁ!」」

「やっぱり」

 シエナの声だけは心なしか冷ややかだった。


 かぼちゃ、美味しいと思うけどなぁ。


かぼちゃ美味しいですよね。


次は王子が登場、の予定。

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