一ノ巻
あ
どうでもいい話だが、俺はマヨラーだ。マヨネーズに対する愛の大きさは、ほかに類を見ないほどの大きさだ。その過剰な愛の大きさによって俺は2年前、某大手食品メーカーに就職し、晴れて社会人の一員となったわけだが、入社後の業績はあまりにめぼしいものとは程遠く言えず、いつしか仕事に注ぐ情熱は、真冬の風呂場のように冷めきっていた。それに伴ってこれもまた、いつしかマヨネーズに対する愛の大きさも風船が萎むように減っていった。そうやって自堕落に毎日を過ごしていた時、ソレは起こったのだ。
ある朝、いつものようにやかましく鳴る半永久的電子機器に憎悪に近い怒りを持ちながら、二度寝のために布団から這い上がった時のことだった。
なにかがおかしい。
俺の直感という名のレーダーがビンビン反応した。
あらゆるものがおかしく感じる。温度や湿度、さらには大気中に含まれる成分でさえも。
とりあえず今は、面倒なので俺の乏しい脳を回転させるのは、モーニングルーティンが終わってからということで一旦、保留。
その安堵感は、一瞬で砕け散ることとなった。
俺がこの冴えない顔にキツい刺激を与えてやろうと洗面所に行き、蛇口を捻った瞬間、なんと出るはずのものが出てくることはなかった。ここにきて、この違和感は疑惑へとフォルムチェンジを果たしたのだ。
なんだこれ?今日って水道の工事だっけ?て言ってもそんなこと一つも通達されていないんだが.........
まぁいいか、とその場凌ぎで次は、冷蔵庫へと向かい、開けた瞬間
なんだこりゃ!?電気が切れてやがる?やっべえ、腐っちまう!
俺の頭の上には3匹ひよこが飛びまわっていやがった。とにかく俺は手当たり次第で電気器具のスイッチをオンにした。
お察しの通りどの電化製品も、沈黙を遵守していた。ブレーカーも見たが、以上なし。まさかと思い、ラグビーのタックルのような勢いで外へ飛び出した時、そのまさかだった。
辺り一面、イネ科の植物の畑だった。
はああぁ!?なんで畑に俺ん家があんだよ???
と、ここで余談だが俺はこう見えても一戸建てに住んでいる。親が裕福なおかげで幸い年齢の割に並みの人間よりかは、いい暮らしをしているんだぜ。余談終了。
俺は田舎生まれであったため、都市部にとても憧れていた。そして社会人になって上京してからは、そこを俺の住処としていた。もちろん、外に見えるのは、無駄に高いビルたちが綺麗に整列している景色でどこもかしこも騒がしい音に包まれていた。だからこんなはずないのだ。
外の風景をよく目視すると、小麦色の大地と地平線以外の何も見えることはなかった。
俺、昨日、ボケて異国の地へ飛んだっけ?
そんなはずない。俺は酒は飲まない。だから酔って昨日のことを忘れるなんてもってのほかあり得ないし、これでも記憶容量は、人より多めだと認識している。
俺の脳内では、緊急俺的会議が行われていた。
ここはどこだ?
なんで俺はここに来た?
どうやってここに来た?
誰がここに連れてきた?
そして俺は俺なのか??
などと多種多様なクエスチョンマークが浮かんでいた。
とにかく情報量が多すぎる。俺の貧相な脳味噌では、処理する前にパンクしそうだぜ。
そうやって俺は限りない疑問と混乱の世界へと足を踏み込んでいったのであった。
い