いつかの自由
台風が過ぎていって、
今日は涼しいねって言った。
うん、そうみたいって聞いて、
仕事に戻ってきた。
締め切りに間に合わせた。
ほっとしたところで、
電話の向こうを思った。
うん、大丈夫だからって、
強がりに感じた。
仕事はもう片付いた。
二度目の電話をかける。
理由を探そうとしている。
でも見つからないでいる。
理由なんていらない。
そんなことは、何度も思った。
何ができるわけじゃなくて、
ご飯は食べたのかと尋ねた。
うん、食べたよって聞いて、
そうか、そうかって、
詳しくは聞かないでいた。
これからどうするのと、
話してみたかった。
誰にも話さなくなっても、
やっぱり、話してみたかった。
仕事はもう終わっていた。
自由になりたいと、
よく、願っていた。
日がな一日、境遇を恨み、
ここじゃないどこかを
求めていた。
欲しいものや、
信じたいものがわからず、
夏が終わる度に、雲と光を見てきた。
あれから、出逢うべきものを
探していた。
苦しいことにぶつからず、
楽しいことだけにぶら下がりたい。
それを自由と名付けながら、
これは、自由ではないと知っていた。
仕事ばかりに追われていた。
知ることは、それぐらいだった。
そして、自由は、今じゃないいつかに、
あることにしてきた。
自由は、今じゃない過去に、
ずっとあったことを忘れて。
また夜が濃くなる。
家に帰ったら、
部屋のカネタタキが
鳴いているだろう。
こんな人生とやらに、
ちょうどいい鳴き声で。