魔法陣に落ちて
月代 仁兎
(つきしろ にと)
性別 男
髪 黒
眼 朱
歳 (外見)17
武器 聖剣1本
魔剣いっぱい
魔力 無限
職業 学生、魔王、魔神、邪神
概要
6歳まで神の供物として育てられたが、両親に助け出され、14の時に最初の勇者召喚された。
ただし魔王側の勇者として。
なんやかんやあって、魔族と人間の友和に漕ぎ着けたが、なんやかんやあって、世界は滅びた。
出身した世界も滅びたが自己消滅の前に師匠に拾われた
その後、魔王や魔神、邪神などいろいろ。
言葉は、魔王の時死ぬほど、特訓した。本来の一人称は、俺だった。
今でも魔王や、魔神の仕事は、書類だけたまにやる。
髪は、長く、ポニーテールにしている。
天鴇 振汰
(あまとき しんた)
性別 男
髪 銀
眼 銀
歳 (外見)17
武器 聖剣5本
魔力 無限に近い有限。なくなってもすぐ回復する。
職業 学生
概要
実家は、呪術師の大家
五歳まで座敷牢育ち。呪い返しの受け皿として育てられる。
なんやかんやあって、師匠に拾われる。
元黒髪黒目
15のときに勇者(実験体)召喚にあい、今でもよく、召喚される。(not実験体yes巻き込まれor捨て駒)
仁兎には、よく馬鹿にされるが、そこまで馬鹿ではない。
勇者業はちゃんと終わらせてから、元の世界に戻っている。
髪は、少しだけ長い。
師匠
性別 男
髪 琥珀色
眼 琥珀色
歳 20歳と本人は言っている。
武器 オールマイティー
魔力 ?
職業 道場主、下宿の大家。他にも、いろいろやっている。
概要
基本的に魔法のない(とされている)普通の世界の住人。
謎の人、最強の男などいろいろ下宿者や、道場に通っているひとはいう。
無造作に世界を渡るし、わけありの子供も拾う
目の前にあったのは、闇と、黒い手に覆われた人型の不気味な物体。
といっても我自体も黒い手に覆われて目の前にある物体と、似たような状態なんだが。
ふむ。しかし、不思議な物だな。黒い手に眼まで覆われているというのに、そこに物があるのはちゃんと分かるのだから、どういう原理なのだろう。
そこまで考えた所で頭に声が響く。
〈ファーwwww俺を犠牲にしたくせに、結局落ちてやんの!!ねぇ、今どんな気持ちwwどんな気持ちww〉
なるほど、負け犬の遠吠え・・・違った、振汰か。
普通に腹立つ笑い声だな。
後で踏み潰そう
〈よし、そうしよう〉
〈何が???〉
それにしても、耳ではなく頭に響くということは、これは念話か。
念話を使うということは、声は出せないし、もう世界を違えたということだ。
そして世界を違えたということは、我が力がそれなりに有効になったという事だが、果たして何処まで使いこなせるものかな。
取り敢えず魔法、魔力については問題無さそうだが、魔神、邪神の力は使えるのか、使えたとして、使うべき事態が起きるのか…………
やれやれ、いつもの事だが考え出したらキリが無い。
コレだから、異世界召喚は面倒なのだ。
〈おっまえ無視すんじゃねえ!?〉
眼の前の物体が、バタバタと動き、頭にキンキンとした声が響きわたる。
端的に言って五月蝿い
〈ええい!?キンキンとやかましいわ、この無能勇者め!我の思考を遮りおってからに!!〉
〈ああん?無視する方が悪いんだろうが!!〉
〈大体、駄犬ごときが我に口答えする事、それ事態がおかしいのだ!!犬は犬らしく、強者に尻尾でも振っていろ!振汰だけにな!!〉
〈駄犬っておまっ!?よーし、わかった。その喧嘩言い値で買ってやる!!〉
〈はっ!ならば、精々高値で売り付けて、我が国の繁栄の一助にしてくれるわ!!〉
〈〈…………………………〉〉
〈〈あ″あ″ん″??〉〉
師匠直伝、渾身のメンチ切り(概念)であった。
多分、体が自由だったら、額をぶつけ合っていたしお互いの胸ぐらを掴んでいた。
しばらく我と、振汰のお互いを罵る声が行き来する。
あくまで闇は静かだが。
だがそれも、やがては止まる。
闇は晴れない。
黒い手も離れずに体の中と、外をはいずりまわる。
体の構造を変えているのだ。
体が召喚された地にあうように、体が召喚された理由と、役割にあうように。
はっきり言って気持ち悪い。
気持ち悪いついでに、大事なものが、ごっそり奪われているのは気のせいだろうか?
奪われた穴を埋めるように、別の何かが無理矢理埋め込まれているような感覚にひどい吐き気がする。
うちに有る魔力が、神力が変質する。
変質しかけのそれらを、なんとか集め、まとめ、元の形に近付けた。
眼を閉じる。
少しでも、抜けて行く力を身に留められるように、形を留められるように眼を閉じて、眠った。
召喚される時は形は違うが、いつもこうだ。
ひどく気持ち悪い。
夢を見た
「ねえ、仁兎」
「なに?姉さん」
最初の召喚の時我は、双子の姉と共に、召喚された。
これは、確か元の世界に帰る方法が分かった、その日。
姉は、我に突然の爆弾発言をしたのだ。
「私ね、魔王様と、結婚します!」
「はあ!?」
あまりの衝撃に声がひっくり返った我だが、姉の中では、既に決定事項だったらしい。
「え?ちょっ、まてよ!!何でよりにもよって、あの生活無能者と!!」
あの世界の魔王は外見と内面がかなりかけ離れていた。
性格は、ドヘタレで外見だけは異様な威厳に満ち溢れ、躓いてうっかり転けないように常に己に姿勢制御の魔術をかけていた。
料理をしようとすれば、なべが包丁で煮え立ち皿でフライパンが焼け焦げる。
洗濯をしようとすれば、犬型の魔物が宙を飛び鶏がミンチになる。
洗濯物は、間違いなく大惨事。
仕舞いに、掃除をすれば魔王城は海の底の海底火山にぶっ刺さった。
あの魔王のお陰で我がどれだけ東奔西走したことか…………うっ!思い出すだけで胃がキリキリと……
「きっと幸せになると思うわ。今から、教育が楽しみね」
そう言って、うふふ、と笑いながら縄をパシィンと鳴らす姉。
調教の間違いでは???
我が、姉ながら中々どうして良い趣味をしている。
というか、姉がこんな仕上がりになったのも、そもそもあの魔王のせいでは???
万死か???
「ちょっ、まてよ!!姉さん、考え直してくれ!!」
慌てて、肩をガクガク揺するも聞いてくれる気配はない。
『…ーい、おーい』
誰かの呼ぶ声が聞こえ、我もガクガク揺れた。
「うるさい!鬱陶しい!!俺は今、生活無能者に捕まりそうな、姉を…あれ?俺?我?…何だっけ?…」
「いい加減に、起きろ!!このニートが!!」
目を開く直前、嫌な予感がしたので咄嗟に首を横に捻る
ドゴスッ
と、何かが頭の横の地面にめり込んだ。
眼を覚ます。眼の前にあったのは、座り込んだ銀髪犬耳、白服の振汰。
それと、地面、いや床か?にめり込んだ彼の右手。
どうやら、我はチョップで起こされかけたらしい。
「チッッ!!」
おもいっきり、舌打ちをされた
なんと最悪な目覚め!!
だから、我は思いきり蔑んだ眼を向けて、言った。
「相変わらず負け犬勇者には、犬耳が良く似合うな。なあ、フリーター?」
振汰はそれに、手をプルプル震わせて、拳を握りしめながら
「うさみみ、生やしているやつに・・・言われたくねーよ!!このくそニート!!」
そう言って蹴りを放って来る。
ふむ、今聞き捨てならない言葉を聞いたような…
うさみみ?誰が?我がか??
振汰の攻撃をいなしながら、鏡を出して自分の姿をたしかめる。
そこにあったのは、黒い垂れうさみみに、黒服を着た自分だった。
なにげに、振汰と色違いの服だった。
こいつとお揃いとか、誰得だ???
いや、でも服のデザインは嫌いではないな……
「ふむ、なかなか、似合っているな…それよりも」
軽く髪と服装を整えて、鏡をぽいっと投げながら辺りを見渡す。
鏡は、床にあたらず、どこかに消えた。
「おい、フリーター、ここはどこで何故、貴様と我の右手と左手が鎖でつながっているのだ。」
我々が居るのは、どこか塔のような所で、はるか頭上に天井が見える。
そして、一番気になるのは、我と振汰の、手が同一の鎖に繋がれている事だ。
鎖の中央には、水晶がくくりつけてある。何かのマジックアイテムか?
「知るかよ。そんなこと・・・俺が起きた時は、もうここだったし、なっ」
振汰は未だ、攻撃を続けながら答える。
「ちっ役ただずめ。良い、自分で調べる。」
「なんか言ったか!?ごらあああ」
全く、うるさい。
こいつの言葉使いの悪さは、師匠譲りだな。
そんなこと師匠に言ったら、瞬殺されるが今はいないので大丈夫だ。(多分)
眼に魔力を流して、鎖を視る。
これは、身体強化の応用で、眼に魔力を流す事で魔力の流れや、魔法の構造がおおざっぱに分かるようになるんだが、まあ平たく言えば、解析眼のような物だ。
あくまでも身体強化の延長線ではあるが、中々便利に使っている。
下手に魔法、魔術、魔眼を使って変な影響が出たら目も当てられないからな。
まず鎖を視る。続けて、はるか頭上にある天井を。
それと、その間にある物も…
眼を細める。そして、大きなため息を吐いた。
「はあ」
「お、なんか分かった?」
未だに攻撃を続ける振汰が話しかけてきたので、それをよけながら、
「ああ・・・とりあえず、そのうざったい攻撃を止めろ」
そう言って振汰の顔にドロップキックをお見舞いして自分から遠ざけた。
「あぎゃああ!!」
振汰は叫びながら遠くに飛んで行って壁にぶつかったが……ふむ、成る程。この鎖、伸縮自在らしいな。
鎖を観察していたら振汰はあっさり戻って来た。
「ニート、てめえいつかゼッタイ殺す。」
「はっ!出来るものならな」
大体そんなこと言いながらも、顔に傷ひとつないどころか、さっきからずっと、我に攻撃していたのに、全く息も上がっていないではないか。
まあ、我も上がっていないから、お互い様だが
そして、振汰は盛大に息を吐き床に座ってから、切り出した。
「んで?何が分かったんだ?」
このあたりの切り替えは、なかなか早いな。
やはり、今までの経験則というものだろうか。
故に我は、馬鹿にも分かりやすいように、ちゃんと説明をする。
「まずは、この鎖だが・・・。」
この鎖、かなり厄介なものだ。
我らの魔力は、無くならないからいいものの、普通の人間ならば、3日もしないうちに枯渇して死んでしまうような勢いで、二人分の魔力を吸い上げている。
そうして吸い上げられた魔力は、一度中央の水晶に集められ、その後特殊な魔法陣でどこかに転送されているように見受けられる。
「フリーター、天井を身体強化した眼で、視ろ」
「ん?分かった」
振汰は眼に魔力を流し、天井を見上げた。
「あれは、逆展開の召喚陣…それに、その間にあるのは、結界か?」
逆展開の召喚陣とは、まず、魔法を練り込んだ特殊なインクを使い、召喚陣を普通とは逆に階下があるような床に描き、そして裏側、つまり階下のものにとって天井に展開するものの、事をいう。
つまり我らは、はるか頭上のあの天井から落ちてきたということになるが、意識の無い状態で、無傷だったのは、我らの体が頑丈だからだろうか。
主に、扱いの難しい者や、ドラゴンなど急に暴れやすい者などの、召喚の時に使われる。
次に、間にある結界、あれが一番厄介だ。
「おい、あれ俺らの魔力で出来てないか?」
未だ、召喚陣と間の結界を見上げていた振汰が目をすがめて言う。
そう、あれは術の行使者はどこか別の所に居るのだろうが、紛れも無く我らの魔力で出来ている。
これが、意味する事。
それすなわち、ここを抜けだそうと思い、無理やり結界を破った場合、術は行使者ではなく魔力源である我らに跳ね返ってくるという事だ。
術が失敗すれば、跳ね返るというのは、この世の常である。
人を呪わば穴二つとはよく言うだろう?
「うげぇ…てことは、俺たちここに幽閉されたってこと?」
「そういうことだ…ああ、そうだ言い忘れてたが、師匠が…」
そう言いかけてざっと、音を立てて青ざめた。
そうだ!!我は、夕飯前には、帰るように言われていたのだ!
まずい!約束を破れば師匠に確実に殺されるぞ!?
「おい、フリーター、今すぐ家に帰るぞ」
「は?何いきなり」
何一つ分かっていないこいつが、心底羨ましい。
「ていうか、どうやって帰るんだ?逃げようにもここと、天井の間には、結界があるぞ?」
こいつが、言う事は、最もだがかまっている暇はないし、わざわざあの結界を破壊しなくてもまあ、やりようはある。
裏技というか禁じ手というか。
後から思えばこの時我は、相当混乱状態だったのだろう。
大体良く考えれば、夕飯前に帰るのは無理な話しだと思う。
おそらくだが、体が作り変わっている時にはすでに、夕飯時は過ぎているだろう…
おまけに、役割も召喚理由もなにも確認していない。
完全に任務放棄だ。
それでも、我は止まらない。
かつて、契約した次元を渡る者を呼ぶ。
【我は、汝と契約せし者、汝、我が声と制約に応え出でよ。次元龍王、リーン】
廚ニ病全開の呪文を唱えた。
羞恥心?
そんなものなど、とっくの昔に宇宙の彼方に捨ててしまったな。
目の前の空間が歪み、光りだした。
この暗い場所では、かなりまぶしい。目に染みる
「おお、すげー」
振汰が感嘆の声を上げるが、なんだこいつ次元系の使い魔は持っていないのか。
光が収束して何かが出てきた。
「はーい、あなたの使い魔リーンでーす。
さあ、どうぞ罵ってください、なじってください、殴ってください!!!!僕は貴方の下僕です!!!ハアハアハアハアハアハア」
…変態発言をする、鼻息の荒い残念な龍が現れた…。
「おい、ニート。もっとまともな奴は、いないのか?」
先程の感嘆はどこへやら、今度はどん引きしながら、振汰が小声で聞いてきた。
確かにこいつの言う通りだが、
「いや、だって、こいつ以外書類以外の仕事もしろってうるさいし」
む?少し地が出たか?
まあ、良い。ちなみにリーンは体をくねくねさせながら、
「ああ、放置プレイですか?放置プレイですね?」
とか、言っている。
うむ。普通に気持ち悪いし変態極まりないな…
「いや、書類以外の仕事もしろよ。仮にも王様なんだろ?」
振汰がまともなことを言ったが我は、鼻で笑って堂々と言ってやった。胸を張ることも忘れない
「働いたら、負けだと思っている!」
後、基本的に我は中継ぎ魔王だ!!
次代の魔王が育ったら、お払い箱だ!!
「完全に、ニートの発言じゃねぇか!?」
何を言うか、学生やっている時点で、ニートではないだろう?
さて、我らが馬鹿げた話しに興じている間に正気に戻っているかと思った、使い魔変態次元龍は、
「ああ、魔王様もっと…」
…まだ身悶えていた。
いや、さっきよりもひどくなっているような気がする。
気持ち悪い。の一言に尽きる。
盛大にため息をついた我、悪くない。
こいつ、どうしてくれようか
頭痛を堪えながら変態次元龍の頭をグワシと掴んだ。
もちろん万力のような力を加えることは、忘れない。
「おい、この変態ドM次元龍、さっさと我の話しを聞け」
身体強化を施して有るのでギチギチと龍の頭がなる。
あははは、このままいくと、こいつの頭はあと、いくらもしないうちに破裂するな。
さぞかし、焦っている事だろうと思って顔を見ると、龍面なので、分かりにくいが、顔を赤らめながら、恍惚としていた。
しまった!!この行為は、こいつにとって、褒美でしかないぞ!?
我はやり方を変えた。
「冗談だよ。リーン、我は、いつもお前の力を頼りにしているぞ?
なんといっても、お前は全ての次元龍を治める王だ。その王が我ごときに従うと決めたとき、とても驚き、嬉しく思い、そして少し申し訳なく思った物だ。
何故なら、初めて会ったお前は雄々しくも神々しかったから」
まあ、中身はコレだったがな。
中身を知ったときのガッカリ感半端なかったぞ?
とりあえず、誉めて見たが自分で言っておいてなんだが、キモイな…
「ぶはっっ、あははははははは…ゴホッゲホッ」
…後ろで振汰が笑い転げて仕舞いには噎せているが、後で、死ぬほど恐ろしい目に合わせてやるから覚悟しろ?
…まあ、それよりも変態次元龍だ。
さっきまでくねくねしていたのに今は、心なしか青ざめている。
ふむ、体温が少し落ちたか?
次元龍は、ぷるぷる震えながら、
「ま、魔王様が、私を、ほ、誉め…イィヤアアア!!!!、や、やめてください気持ち悪い!!」
くびり殺してやろうか???
「あははははははははは…ひー、苦しい!!」
さらに、笑い転げる振汰……よし、後でフルボッコだドン。
そんなことを思いながら、我は続ける。
「どうした?何故我がこんなにも、お前を信頼しているのに、わかってくれない?」
次元龍はさらに、青ざめながら、
「い、言うこと聞きます。だから、やめて下さいお願いします。」
ふむ、我は龍種の土下座を初めて見るが、なかなかシュールな光景だ。
我は思いきり良い笑顔で言ってやった。
「そうか、やってくれるか。だが無理はするなよ。お前は、我の大事な使い魔で家族なのだからな」
「ゴフッ」
吐血しやがった。
吐血した変態次元龍に、我は少し冷めた目を向けて後ろを振り返り、笑い転げる振汰の腹に蹴りを突き刺してから、椅子を出して腰掛けた。
「ゲフッ」
振汰が、蛙が潰れたような声で身悶え始めたがそれを無視して
「では、我が話を聞いてもらおうか?」
我は今までの経緯を最初から話した。
振汰は我の説明を、師匠の話しの件を聞いて、青ざめ、ぷるぷる震えだした。
「こ、殺される…」
うむ、ようやく事の重大さが分かったようで何より。
「で?リーン、ここから抜け出す方法、または、もとの世界に戻る方法があるだろう。すぐ教えろ」
「無理です。」
変態次元龍は、あっさりきっぱり、しっかりと言った。
「「は?」」
二人で、間抜けな声を上げた。
多分、顔も間抜けだっただろう。
「いや、だから無理です。無理やり次元を渡ろうとしたらミンチになりますよ。」
そして変態次元龍は、説明を始める。
つまり、こういうことらしい。
我らは、この世界の人間だけでなく、世界そのものにも呼ばれたということ。
そして、世界の力の方が我らを拘束する力が強く、世界に呼ばれた理由を達成しなければ、次元を渡る力は使えないというのだ。
無理矢理押し通ろうとすれば、我と振汰の挽き肉が出来上がる。
それと、この空間から抜け出すには、術者を待つしかないということだった。
その話を聞いて、我は諦めた。
もう、怒られるなら素直に謝ろうと。
多分、我らが生き残るには、その道しかない
悲痛な覚悟を固めた。
「はあ、分かったリーン、ご苦労だった。帰っていいぞ」
盛大にため息をついて、癖でいつものように次元空間を開く。
ふむ、なんだ。
どうやら自分自身に使わなければ、自由に次元魔法は、使えるらしいな
そして、変態次元龍の方を見るとあからさまに残念な顔をしながら、
「え~もっと罵ってくださいよ~。この役立たずが!とか、言って~」
などと、言ってきたので我は無表情で、変態次元龍の尻尾をガシッと掴み、ブンブン振り回して次元空間に投げ入れた。
「さっさと消え失せろ、この変態ドM次元龍が!!」
「そこが大好き魔王様ああああぁ」
奴の声が尾を引きながら、消えていく。
「はあ、あいつ嫌いだ…」
心労が半端ない…
思わず両手で顔を覆った。
「あーその、なんだ…ガンバレ」
顔を両手で覆っていると、振汰がいい笑顔でポンと、肩をたたきサムズアップしてきた。
イラッときたので、顔面に裏拳をくれてやる。
「痛ぇじゃねぇか!!」
鼻を押さえながら、叫ぶ振汰…。
うむ、なんかすこしだけすっきりした。
「で?どうすんだ?」
ひとしきり、痛がってから、振汰が聞いてくる。
「なにがだ」
そんなこと聞かなくても分かるのに、聞き返す。
「なにがって、これからのことだよ」
そうだ、我らはこれからのことを考えなければ、ならない。
だが、結論はもう出たようなものだ
「そんなこと決まっているだろう。帰ったら、即、土下座だ。そうすれば、師匠も許して……………くれるのか?」
「イヤイヤイヤイヤ、俺に聞くなよ。
まあ、高確率でボロ雑巾になる未来しか見えねぇけど。命有るだけましじゃね?多分」
思わず、疑問文になってしまった。
しばらく、二人でその時の恐怖を想像して子犬と子兎のように震えていた。
「んじゃ、次に、この鎖と、あの結界のことだけど……あれ?」
気を取り直して、振汰が次の質問をしようとしたが、途中で結界を見上げて首を傾げた。
「どうした?」
「いや、あの結界、形変わってねぇか?」
「なに?」
そう言って、振汰が指差した天井と我らの間にある、結界を見上げる。
確かに、結界の魔法陣の構成が変わっている。
我は眼に流す魔力の質を変えた。
そして、眼の色が変わる。
自分では分からないが、確実に今、我の眼の色は、青色になっているだろう。
この眼は、先ほどの身体強化とはちがう。
本物の魔眼だ。解析眼、魔法をより深く理解するための眼。
先程は使わなかったが、この世界で役目を果たさなければ帰れないのなら、出し惜しみする必要も理由も無い。
少々眼がチカチカする程度で、たいした影響も無いようで安心した。
この眼は魔法を知るためだけの、眼なので魔法を破壊する事はできない。
その眼で、魔法を見る。
そして、理解した。
「ちっ!?」
その、舌打ちに反応するように、床が光りだす。
「うわっ!?なんだ?いきなり」
振汰が、床に驚いて辺りを見渡しているがそれどころではない。
「ちっ!!おい、フリーター今から、空間を四角く切り取る。我から余り離れるな」
「は?なんで?」
ああ、もう面倒臭い。これだから、パワータイプの勇者はいやなんだ。
「あの、上の作り変わった魔法陣も、我らの魔力で出来ているのは分かっているな?。」
「ああ。」
上を指してから、次は、下を指して、説明を続ける。
もちろんこの間も、作業の手はゆるめない。
「次に、床が光り始めた理由も、我らの魔力で出来ている魔法陣だ。この二つの魔法陣は、その間にいる者を強制的に眠らせる力がある」
「眠らせる?」
「そうだ。空間を四角に切り取る理由は、魔法陣は円だからな。
それにこの空間も円になっている。
四角にしてしまえば魔法陣は角までこれない、展開仕切れない。
これは時間との勝負だ。
魔法陣が展開仕切ってしまえば、終わ…」
我が長い説明をしていたその時、そいつは現れた。
眼の前の壁に穴が開く。
殺気ではないが、ひどく嫌な気を放っている。
なんと言うか、魔力が臭い。
そいつは、我に向かって、何かをなげた。
魔眼がまだ発動していたので、それを見る。理解する。
(我らの魔力入りのマジックアイテムか!!短時間でまた、面倒なものを!!)
ボシュッ
弾ける音がして、鎖が飛び出し我の体を拘束した。
「ニート!?」
振汰の声が響く。
どうやら腕の鎖とは、違う物らしいが迂闊に手を出せない。
「余り、余計な事をしてもらうのは、困りますな。」
下卑た声、というのは、こういう物か。
と思う程、絡み付くような気持ち悪い声だった。
思わず、鼻の頭に皺が寄る。
やっぱり、こいつの魔力腐臭がする。
酷い悪臭だ。
「貴様何者だ!!何の目的で、こんなことをする!!」
このタイプの悪人はこう聞けば大抵、己の身分を声高々に宣言する。
また、自分の目的もあっさり、ペラペラ喋るのだ。
ある意味、一番扱いやすいタイプの敵だが、さて。
「我が名は、偉大なる魔術師、イグルス。以後お見知りおきを、我ら帝国の贄たる、二柱の神よ」
はい、喋った!!
というか、動きが気持ち悪いんだが?
それに…
「おい、このおっさん自分で偉大なるっつったぞ。良い歳こいて厨二病拗らせすぎでは??痛々しいな」
全く、その通りだ。振汰は小声で、そう言いながら我に巻きついた鎖をカチャカチャ、外そうと触っていた。
「ああ、こら、あんまり無理やり引っ張ったら、新しい術が発動するかもしれん。
それに、もしその術が破れても、跳ね返しは、我らの方にくる。もう少し慎重にだな」
マッチポンプは嫌だぞ我は
その言葉に、振汰はイライラしながら、さらにカチャカチャと、鎖を外そうとする。
ちなみにこの間自己陶酔している、偉大なる(笑)魔術師、イグルスはスルーだ。
だってこのタイプ関わると面倒だし。
「ああん?うっせぇんだよ、このニートが。お前は大人しくほどけるの待っていろっての………うしっはずれたぞ」
ふむ、どうやら新しい術は発動しなかったらしいな。
恐らく、魔力、魔法を使えば、また違っていたかもしれんが、振汰は物理で取ったからだろう。
イグルスが手出ししなかったのは、単に時間稼ぎか別の何かが有るのか
「すまなかったな、フリー……………」
助けられたら、どんなにいがみ合っていても、ちゃんとお礼を言う。
我らの師匠の教えだ。
しかし、さっきまで後ろが見れなかったので気づかなかったが、振汰がものすごい形相になっていた。
例えるのならば、阿修羅だな。
おまけに我を縛っていた筈の鎖をヒュンヒュン回している。
ヒュガッという音を立てて、鎖が床を抉る。
抉った先から、自己修復を始める床に、そう言えば先程、振汰が床にめり込ませたはずのチョップ跡も直っていたな。
と、少しばかり現実逃避をした。
「あー、あの、振汰君?怒ってる?」
何気に、こいつの名前をちゃんと呼んだのは、初めてだな。
「当然…」
振汰は静かに答える。
なんというか、人間、本気でキレると逆に冷静になるというのは、本当なのだな。
「ニート。」
「う、うむ。なんだ?」
鎖が、風をきる音だけがひどく、響く。
「俺、あいつ本気で潰すから、空間切り取るのたのむわ」
そう言って振汰は、イグルスに向かって鎖をとばした。
「ひょっ!」
イグルスがびょんと跳ねて、それを避ける。
なんだあの無駄に俊敏な動き、気持ち悪っ!!
しかしあんなに、怒っている振汰は中々お目にかかれないんだが。
稀には有るが、後始末が非常に面倒な事になった記憶しかない。
だから我は、急いで空間を切り取る術式を編んだ。
「お前さあ、何、ニート縛ってんだよ。」
ぶつぶつと、術式を作り最後の仕上げをしようとしていたら、イグルスに向かって喋っている振汰の声が聞こえてきた。
「だってさあ、あいつドSだぜ?そんなやつ縛っても面白くないだろ?解釈違いが過ぎるんだよ!!」
「は?」
は???????である。
無表情に、なった我は無言でクラウチングスタートの姿勢をとる。
ダダダダスパコォォン
思いっきり、殴ってやったわ!!
全く、シリアスが台無しではないか!!!!
(最初から、そんなもの有ったかとは聞いてはいけない)
「いってええ!!なにしやがる、この糞ニート」
頭を抱えてぎゃあぎゃあ騒ぐ振汰にもう一発、蹴りをかました。
「なにしやがるだ?てめえが何してんだよ。ああん?てめえのせいで時間が、減ったぞコラッ」
師匠直伝のメンチ切りセカンドである
「ちょっまて、ゴフッゲフッつニート、うしっ」
ガスガス腹に蹴りをめり込ませていると、パリンとガラスが割れるような音が響きドスリと、腹に何か刺さる。
「ガフッ」
ただの劍だった。
いつの間にか、気配を消したイグルスが側に居た。
「ひょっひひ」
笑い声キッも!!!
魔法も魔力も込められていない。
だが、それだけで十分だった。
何せ、我自身を守る結界は穴だらけだからな。
ちょっと魔眼を通せば、直ぐ分かるし剣を差し込み、捻りあげれば、即破壊されてしまう。
「おい、ニート大丈夫か!!いくら、何でも結界軟弱過ぎるだろ!?」
素早く立ち上がった振汰が聞いてくるのを片手で制す。
一歩よろめくが、それだけ。
イグルスに回し蹴りを叩き込もうとしたが、避けられた。
あやつ、我と振汰の魔力で身体強化してやがるな?
体には直ぐに治癒魔法を
かけた。
「大丈夫だ…。
ごほっ大体、我の自身にかける結界の軟弱さは、貴様も知るところだろ。
しかしああ、茶番に時間を掛けすぎた。
貴様のせいだぞフリーター?
時間切れだ。」
魔法陣が、展開仕切ってしまっている。
眠気が襲ってくる。ガクリとひざが折れる感覚があった。
「なあ、ニートあのおっさんも円の中にいるんだが…このまま行くと俺らあのおっさんと一緒に添い寝ってことに」
なんだそのゾッとしない話しは
こちらを眠そうな眼で見ながら、振汰が聞いてくる。
「ああ、この魔法は、術者には効かん」
「マジかよ………それはそれでなんか、腹立………………」
完全に眼を閉じて、しまったらしい。
我も、激しい眠気に逆らいながら、イグルスを睨む。
「ヒヒッ、お休みなさいませ神様」
糞、寝る……………寝てしまう。
イグルスが壁の中に戻って行き、眼の前が真っ暗に染まって行く。
〈おい、ニート。〉
頭の中に振汰の声が響いた。これは念話だ。
なるほど、体は動かないが意識は、まだ残っているらしい。
〈何だ?〉
〈この魔法さ、どうやったら解けるんだ?〉
それが、寝る前に聞く最後の質問か………。
ならば、その質問に答えるしかないだろう。
〈この魔法は、魔力供給が止まれば消えるが〉
そこで何かに気づいたように振汰が我の言葉を続けた。
〈ああ、つまりこの魔法は俺達の魔力で出来ているからそれはあり得ないってことか〉
〈そういうことだな。こうなったら、魔法陣が劣化するのを待つしかない。〉
それは、本来最後の手段の筈だ。
だが、今はそれしかない。
〈あー、それって具体的にどれくらいかかる?〉
〈早くて300年、長くて500年ほどだな。〉
500年もこの冷たくて固い床に横たわっているなんてごめん被る。
何とか、腕を動かし魔法を展開した。
【メリノ・エルアリ・ベティア】
この魔法は、どこぞの世界の魔王が作り上げた物で、いつでも、何処でも戦場でも、安心、安全、安眠をもたらしてくれるベッドを召喚する魔法だ。
そんなもの作っている暇があったら、人間との和睦できる道筋を模索しろと思ったが中々どうして、結構重宝しているのだ。
なんて考えていると、振汰がさっきよりも眠そうな声で、
〈悪い。ニート、俺、寝……〉
振汰の声が途切れる。我もそろそろ限界のようだ。
視界が急速に、闇に染まって行く。
暗い、暗い闇に落ちて行く。
夢は、見なかった……