旅人
「あんたぁ、さっきから言うてるやんか。俺もそこの上半身も生まれたときから今までずぅーとこの姿なんやぁ」
分からない。この世界がわからない。生まれたときから大人だと、そしてそのまま容姿が変化しないのか・・・。
彼にたくさんのことを聞いた。年齢や今までの記憶、そしてこの世界について。
聞けば聞くほどこの世界の異様さがわかってくる。まず、この世界には老いが存在しない。いいや、体が成長というものをしていない。そのためか年齢という概念がなく、現に彼も見た目と同じぐらい生きているのかすらわからない。そして、一番疑問に思っていたことを尋ねる。
「サードとはなんだ。セカンズとは」
彼はこう答えた
「この世界にはなぁ、大きく分けて3種類の在り方があるんや。セカンズは見ての通り半身で生まれたものだ。知能もほぼないに等しい。」
そして彼は自分の右腕で あるべき左腕 の空間を指しながら、
「サードというのはな、何か一部分がかけている者たちのことだ。あったことはないけれどぉ、五感のうちの一つがかけてしまったやつもいるみたいやなぁ。」
まて、あと一つはなんだ。
「そしてバケモンのオリジンだ。まだ見たことはないがぁ、見たやつは口を揃えて言うんやぁ。まぁ正直なところこの情報は旅人のサードの一人から教えてもらったんだが、まぁバケモン言うのは本当やろなぁ」
ん?旅人の一人から聞いた情報だったのか?信憑性を疑ってしまう。
「そのバケモンてのは本当にいるのか?」
すると疑いの目を向けられた彼は続けて、
「なんせ、そいつは下半身丸ごと無くなっていたからなぁ」
???。なんだそれは。普通の人間なら下半身を失って生きていけるはずがない。
痛覚を失っていた…?いや出血で死んでしまう。それなのに旅人だと?嫌な予感が頭に浮かんだ。
「この世界には死がない...」
そりゃあそうだと彼は当たり前のように肯定する。
じゃあバケモノは何者だ。しかし彼はそれ以上の情報を持っていなかった。
いろいろな情報が頭の中でごちゃ混ぜで、随分と疲れた。これ以上質問できる体力も思考力もない、もう寝たい。あぁ、瞼が重い…そのままテーブルに突っ伏せて寝てしまった。
外はすっかり暗くなっていた。
朝が来た。どうやら夢は覚めてくれなかったらしい。
「あんたぁ、お目覚めかい?」
あぁ…と返答する。腹が減った。そういえば昨日から何も口にしてなかったな。
「なにか食べるものはあるかい?」
食べ物なんかあったかな…彼が部屋を探している。
「食べ物なんてもうしばらく食べてないから、あるかなぁ…」
しばらく食べてない?それほどういう…。驚いて聞き返してしまった。
「そりゃぁ、あんたみたいにこの世界に来たばかりのころは何か食べたい気持ちはあったんだがなぁ。何日も食べ物が見つからないまま、空腹感を忘れてしまったみたいなんや。」
ようやく彼が持ってきたものはリンゴのような果物だった。どうやら旅人からの貰い物らしい。
久しぶりの食事だ。みずみずしさはないが、腹が満たされていく感覚はあった。
「そういえば他に動物を見かけなかったが、ここら辺にはいないのか?」
「動物?そいつが何なのか分からないが、この世界には俺たち人間しかいないぞ。いや、見たことがないだけかもしれんなぁ」
まさか、人間だけなわけ…食事を必要としないのであればあり得るのか?。
「あんたぁ、そんなにこの世界が気になるならここから真っ直ぐ行ったとこに町があるから、そこでいろんな人に話を聞くのがいいだろうなぁ」
貰った果物を食べ終わり、席を立つ。
「あなたは町には行かないのか?」
何気ない提案をした。
「いかないさぁ。いやもう行ったことがあるんだ、ただ飽きたんだ。その生活に」
そういえば彼は普段何をしているのだろうか。
「不思議なもんでなぁ、あんたを見つけたときは生きた心地がしたんだ。毎日何もせず、散歩したり、日向にあたったり、食べることもなければやることもない。そこにある上半身だって同じ理由で拾ってきたんだ。これからも何もないただの生活を続けるだろうが、そこに死を望むようなことも気持ちもなくなってしまった。あんたぁ、その感情を忘れるなよ。」
バケモノに気を付けてと一言、彼は俺を見送った。
この世界は何かがおかしい。
町に行けば何かがわかるはず。その希望を持って俺はまた歩き出した。