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母の一生  作者: 山内 淑
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昭和の時代を生きた母と子供の物語

 

 私は、とある田舎町で生まれた。


 ドシャ降りの雨の中、母は病院に運ばれ、

 生まれた時は、見守ってくれる家族や親戚はおらず

 母ひとりだった。


 母の家族関係は複雑だ。


 母の父親は、義理の父であり、

 母と母の兄は連子で、母の弟、妹は義理の父との子供である。


 私の父親は借金を残して家を出ていったきり、

 帰って来なかった。


 ------


 昭和54年、生を受ける。

 名は『太郎』


 母親は、父が残した借金を返済する為に、

 朝から晩まで、昼夜問わず働いていた。


 太郎は0歳から保育園に預けられ、

 会える時間は少なかった。


 母は口癖のように、

『太郎は賢い子、お母さんとお父さんのようになったらだめ。立派になれる大丈夫、大丈夫』


 と言っていた。


 《入学》


 太郎が小学生になった時、

 片親だったせいか、周りの同級生から

『お前の家には、お父ちゃんがいない、貧乏家族』

 と言われていた。


 何か複雑な気持ちになった。


 言われ続けている中で、

  なぜ知っているのか?太郎は疑問に思った。


 次第に家に多額な借金がある事も知れ渡り、


 授業参観では、

『あの子の家は、父親がいないみたい』

  『あの家は、借金がたくさんあるみたいよ・・』

  『かわいそう・・』


 と、後ろで並ぶ他のお母さん同士の、ひそひそ声が聞こえる。


 太郎は、ずっと下を向き、早く授業が終わるのを待つしかなかった。


 その時、言いふらしているのは、

 大人だと初めて分かった。



 泣きながら家に帰った。

 途中の公園で休憩したり、地面に絵を書いたりして、母が帰ってくるまで時間をつぶした。


 その夜、学校から家に連絡があり、

 先生が今日の出来事を母に話した。


  母は太郎を抱きしめて、

『太郎は悪くない、本当にごめんね、ごめんね』

 と泣きながら何度も何度も謝っていた。


 一緒にご飯を食べ、寝たのを確認すると、


 母はまた深夜のうどん工場の仕事に行った。


 夜に仕事へ行く時は、太郎は起きていた。

 何故なら、当時住んでいた団地のドアの音がすごく大きかったからだ。


布団の中でいつも泣きながら、母の帰りを待った。


 母が仕事から戻るのは、きまって朝の6時。


  太郎が朝起きると、母が朝食を作っている背中が見え、振り返るといつも笑顔だった。



 太郎を学校へ送り出した後、母はまた仕事へ出かける。

 母が寝ていた時間は、1日、2時間ぐらいだったと思う。

 そのくらい、母は働いていた。



 《変化》

 

 ある日の朝、

 目を冷ますと、隣の部屋か騒がしい。


 父がふらっと帰ってきていたのだ。


 様子を見に行くと、

 母が父に馬乗りになり、

 母の手には、『包丁』が握られている。


 今にも刺そうとしている。


 太郎は、無我夢中で母を払い退け、包丁を取った。


 父は無言で家を出て行き、

 母はうなだれ、その場で泣き崩れている。


 そこから、母が変わった。


 今まで、夫が残した借金を母が返済し、

 片親で子供も育てないといけない。


 他方の嫌味も我慢し守り、闘い、

 子供にも心配ない事を言い続け、笑顔を見せる。


 母の中で、

 何十年もの積み重なった出来事が、

 音も立てず、その時を境に一瞬で崩れた。










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