第9話
side ジギル
僕の名前は、ジギル・ハイルウェルツ。
ハイルウェルツ侯爵家の三男で火の最上級位魔法を扱うことができる。
どうやら僕に妹ができたらしい。
妹も優秀なのだろうか、と僕は内心焦っていた。だがその不安はすぐになくなることになる。
使用人達が話していたことを耳にしたのだが、妹には腹に変な痣があるらしく、母と父はそれを醜く思ったという。
屋敷の離れに妹を軟禁し乳母を1人つかせたらしい。
僕はひどく安心した。
あぁ、これでこの家で可哀想な人間は僕一人ではなくなった、と。むしろ妹の方が可哀想かもしれない。生まれて間もなくに、痣ひとつを理由に母と父に捨てらるなんて。
もし妹が大きくなった時、僕を頼ったら助けてあげないこともないな、と僕は思っていた。
だがその目論見は外れることとなる。
妹はまだ赤ん坊なのに此方の言葉を理解来ているようだったし、何やら赤ん坊とは思えない雰囲気を感じた。
僕の本能が告げている。あぁ、彼女もいずれ僕を追い抜き天才と呼ばれるその1人になるだろう、と。
だが今なら間に合う、と思った。今のうちに僕の偉大さを叩き込ませ将来逆らえないようにしてやる、と計画を立てる。
幸い妹が軟禁されている離れは、僕の部屋から近かったのだ。
妹が産まれて1年たったある日のこと。
僕は久しぶりに父に会った。中々ないチャンスだ。僕は自分のことをまるで商品のように父売り込んだ。僕はこんなことができる、こんな魔法がつかえると思いつく限り話したが、父はチラリとも此方を見なかった。
一言だけ「出来損ないが」と呟いていた。
気分が悪い。頭が痛くて吐きそうだ。
そんな重い足取りでも妹の部屋には行った。
何故だが行かなくてはならないと思った。
部屋に入ると妹がドレスの裾をちょこっと持ち、まだまだ不慣れそうな礼を見せ出迎えてくれた。
不思議な事にその姿を見た途端さっきまでの嫌な気持ちが嘘のように引いていった。
だが、妹に魔法のことを聞かれ、つい先程の父の言葉を思い出してしまう。
『出来損ない』
そんな僕を妹は否定してくれた。
『にいさまは、できそこない、なんかじゃない』
僕の目を見て僕に触れて言ってくれた。
『わたくしは、にいさまがすきよ?』
僕は頭は悪くない。妹が何か思惑があって言っているのだということは分かっていた。
それでも、その言葉がどれ程僕を救ったのか、彼女にはきっと分からないだろう。
生まれて初めて認めてもらい、好きだと好意を向けてくれたのだ。
僕はエレナーゼ・ハイルウェルツを一生かけて守ろうとその時誓った。
▽▽▽▽
僕は自分より優れていない使用人を見ると苛立ちを感じていた。両親や兄からは自分がこう見えているのではないかと考えてしまい、使用人達と自分を重ねてしまう。
使用人が僕に逆らうような態度をとる時、何か失敗をしでかした時、酷い時は目に入っただけで使用人を嬲る。
そんな僕を大切な妹は呆れたような蔑むような目で見ているのが分かった。
このままじゃいけない、そう分かっているのに悪態をつくのが癖になってしまっているようだ。
妹の為にも僕の為にもこの癖は直さないと。
まずは、使用人達に挨拶をすることから始めてみよう。
この話を読んだ後にぜひもう一度6話を読んでほしいです。ジギルの愛情に反してエレナーゼの他人に対してのそこはかとない冷たさを描写したつもりです。極道の娘が普通のいい子なわけないと思います。