第6話
実際のところ、ひとつだとしても最上級位魔法を扱える、その時点でジギルは優秀すぎるといっても過言ではない。
だが、比べられる相手が悪かった。
(最上級位魔法5つ扱えるアルヴィンと3つ扱えるカーティスねぇ……。そりゃ身近にそんな兄をもって比べられるなんてたまったもんじゃないわね)
私はひとりでにそんな事を考えながら屋敷の庭を散歩していた。ベルと、ではなくジギルとだ。ジギルは私の手をひきニコニコと隣を歩いている。
(完っ全に懐かれたわね)
そう、あの一件以来ジギルに懐かれてしまったようだ。
(これで素直に言うことを聞くようになったのならいいけど……)
「ジギルにいさま?」
「どうした、エレナーゼ」
「ジギルにいさまは、ベルのことどうおもうかしら?」
ひとまず私にとって1番近い距離の使用人(もとい乳母だが)の話を振ってみた。
「エレナーゼの乳母だな、と」
「そういうことじゃなくて! 」
「乳母、以外にか? ……そうだな、少し生意気だし、いつもエレナーゼの近くにいるから懲らしめたい!」
(……あぁ、なんて満面の笑みなことでしょう。これで言っていることがこうじゃなきゃ、ただの美少年の悩殺スマイルなのに…)
どうやら私に対しての好感度は高いようだが、それ以外に対してはあまり変わりがないようだ。
(これ、このままだと、前世で言うアレね……えっと……)
そう、ヤンデレだ。
そのルートは避けたい。
私はジギルに仁義とは何かを教えこみたいだけで、ヤンデレな兄などは求めていない。
(あぁ、どうにもこの体は考えることに向いていないような気がする。前世はそうでもなかったのだけれど)
考えようとすればするほど、頭がごちゃごちゃになったり眠気がきたりする。
まだ齢3歳の幼女だ。それも当たり前かもしれないが。
(今後の私の成長に期待ってところね)
そういえば、とふと思う。
実はずっと気になっていることがあるのだ。
あんな話をされたらやはり気になるだろう。
私はジギルに質問する。
「ねえ、にいさま?わたくしは、まほうはつかえないのかしら」
そう、魔法だ。異世界といえば魔法。魔法といえば異世界だろう。
私はジギルに期待を込めた目線を向ける。
ジギルが気まずそうに頬を搔いた。
「さあ、僕は1歳の頃には魔法が使えていたらしいからな」
私は進めていた歩みを止める。すると当然手を引いていたジギルの足も止まる。ジギルはこちらを同情したような目で見ている。
(まって、ほんとう? 私異世界に転生されておいて魔法すら使えないの?)
そんなのってあんまりだ、と私が落ち込んでいるのが十分伝わったのか、ジギルがひとつの案を私に提示した。
「僕が教えてやろう」
私はジギルの後ろから後光が差しているようにみえた。今まで、人間の屑だなんだと思っていてごめんと心から謝罪する。
だが、
「にいさま、それはうれしいけれど、まほうってそしつによってきまるんでしょう? おしえてもらったからといって、できるようになるものなの?」
ジギルは首を横に振る。
「いいや、もしエレナーゼに全く素質が無いのなら教えても無駄だろうな」
私は一瞬また落ち込みそうになったが、ジギルの言い方に含みがある事に気がついた。
(全くなければ、ということなら、少しでも素質があれば教えて貰えるということ?)
ジギルは薄い唇に弧を描いた。
「僕の妹は案外聡い子のようだ。その通り、少しでも素質があるのなら、指導を受けることによって魔法が開花することがある」
「ほんと!?」
ジギルは私の手を引いて歩みを再開した。
「そうだな、では、明日から。毎日午後3時に基本から教えてやろう」
「にいさま! ありがとう!」
(ジギル、段々いい子になってきてるんじゃない? いい調子なんじゃ……)
私がそんな事を考えていると見通したかのようにジギルは付け加える。
「この僕が直々に教えてやろうと言っているのだ。感謝しろ妹よ!」
前言撤回だ。
まだまだ教育が必要である。