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極道の娘が異世界転生?  作者: みーちぇ
異世界転生そして兄との関係
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第5話

私が部屋につき一息ついていたところ、予想通り大きな音と共にジギルがやって来た。

ジギルは騒々しい足音を鳴らさなければ、歩けないらしい。だが、今日の足音はいつもよりも荒々しいように聞こえた。


「妹よ、僕がきてやったぞ!」


「にいさま、いらっしゃいませ」


私はお行儀よくドレスの裾をつかみ一礼する。


「良い心がけだな! さぁ、今日は何して遊んでやろうか!」


まるでジギルは妹の面倒をよく見る妹思いの兄のような振る舞いをする。私の記憶が正しければ、この兄に遊んでもらった覚えなどないはずだ。


「にいさま、にいさまのはあそびではありません。しようにんを、たたいたりわるくちいったりするのは、いけないことですわ」


私は根気強くジギルに言い聞かせる。どっちが年上なのか分からなくなってくる。


(まぁ精神年齢は私の方がずっと上なんだけど)


私はこの世界にきて3年経つ。死んだのが17の時だから、ちょうど20歳だ。

それに比べてジギルはまだ13歳。私からしてみれば弟のようなものだ。生意気で世間知らずで傲慢で人を人とも思っていない弟だが。


それでもそんな弟のような兄に説教ができるのは、まさしく私のこの2年の努力の賜物だ。私はあなたを虐めないし敵ではない、ということを2年間ひたすらに伝え続け、ようやく信頼を勝ち取り始めている。

だから、多少説教じみたことを言っても、あの時のベルのように吹き飛ばされることは無い。


だが、だからといって、ジギルが私の言うことを素直に聞き入れるとも限らない。



「使用人を虐げて何が悪い?」



そう純粋に不思議そうにジギルは私に尋ねるのだ。

私は思わず溜息を零す。まだまだ先は長いらしい。

だが、ジギルが提案する遊びに乗るわけにはいかない。私はいつもの手口でジギルを誘導する。


「それよりもにいさま。わたくし、にいさまのまほうについて、しりたいですわ!」


目に憧れと尊敬の色をのせジギルを見つめる。家族に認められないジギルにはこれが何とも心地よいらしい。


(ジギルの純粋な心を利用する、という所はやっぱり私にも極道の血が流れていると実感するわ)


そして、これはジギルに使用人苛めをさせない為の口実だけではなく、ジギルから魔法について教えてもらうことで、この世界の魔法の概念を大分学ぶことができる、という利点が含まれている。


「仕方の無い妹だ! 僕の自慢の魔法について今日も教えてやる!」


ジギルは胸を張り意気込む。

その様子をベルは微笑みながら見つめている。

いつもの光景だ。

ベルはジギルにあんな仕打ちをされても、なぜがジギルに対して一種の愛情を持っているように感じる。

そんな事を考えていると、ジギルの魔法の講座が始まった。


「よいか、魔法とはこの世界の選ばれし者達が使える技だ。魔法を使える人間は生まれて間もなくに使うことができる。逆に年老いてから魔法を使えることは少ない。」


ここまではいつもの復習だ。

ジギルの話をまとめると、魔法は生まれ持っての素質に左右されるらしく、10歳を過ぎても使えない人間は恐らく、一生魔法を扱うことはできないと言われている。一部の人間を除いてだが。

また、ジギルの言う『選ばれし者達』というのは、ただ魔法を扱える人間を指すのではない。そもそも、10歳を過ぎても魔法を全く扱えない人間は少ない。

ここで指す『選ばれし者達』とは、最上級位魔法を使える人間の事だ。

何故、ジギルが、大多数いるはずの魔法を扱える人間のことを『選ばれし者達』と一括りにしているかと言うと、最上級位魔法を扱えない人間のことを魔法を扱えている、と認めていないからだ。

だから、ジギルの頭の中では、魔法を扱えているイコール最上級位魔法を扱えるイコール選ばれし者達という方程式が成り立っているらしく、


(こういう所も教育していかなくちゃなぁ。自分が出来ることは他人も出来ると思っている節がある。)


もしかしたら、兄達が優秀すぎるが故に自己評価が意外と低いのかもしれない。

自分なんかができるんだから、ほかの人も出来るでしょ、という具合に。だからできない人間はおかしい、才能がない、駄目人間だ、と思うのだろう。



「先週も話したが、僕の扱う最上級位魔法はファイアーメテオ(火の隕石)このひとつだ」


ジギルは先程までのキラキラとした自信に満ちた目を陰らせ肩を落とす。


「アルヴィン兄様は5つ、カーティス兄様は3つの最上級位魔法を扱える。僕は、出来損ないだ」


ジギルは言葉を詰まらせた。

アルヴィンやカーティスの話になると顔を影らせるのはいつもの事なのだが、こうあからさまに落ち込んでいる様子を見せるのは珍しい。


(何かあったのかしら)


私はチャンスだ、と思った。


私はジギルの手をそっと握る。ジギルの体がビクリと揺れる。


「ジギルにいさまは、できそこないなんかじゃありませんわ」


私は父の言葉を思い出す。


『いいか、愛奈。人の心を掌握する時は相手の目を見ろ』


私はジキルの目を真っ直ぐにじっと見る。


『目線の高さは相手よりも上に。自分が上の存在であることを直感的に感じさせろ』


(この身長差じゃ難しいわね。仕方ない一か八か)

私はジギルの膝の上に乗る。ジギルは何も言わずただ私をぼーっと見つめている。

いつもなら 無礼だ何だと怒り出しただろう。


『声はいつもよりも低く落ち着かせゆっくりと』

私は先の言葉を繰り返す。

だが、同じなようで同じではない。幼女から出たものだとは思えないような、諭す声で言い聞かせる。


「ジギルにいさまは、できそこない、なんかじゃない」


ジギルのエメラルドの瞳から宝石のように大粒の涙が零れ落ちた。

ジギルは声もあげず静かに泣いている。


(お父さん、最後のひと押しよ)


『最後は、まるで恋人のように初々しく、まるで愛人のように艶っぽく』


私はジギルに向かい手を伸ばす。


『頬に手をあて』


ジギルの陶器のような頬に手を添える。涙が私の手にあたり、指先から手首へとつたっていく。


『顎先へ指を滑らせ』


頬を撫でるようにジギルの顎先に手を下ろし、手の先で弄ぶように持ち上げる。ジギルの顎がクイッと上を向き、更に涙が零れ落ちた。


『最後に自分の瞳に最大級の色をのせて相手を口説け』



「ジギルにいさま、わたくしは、にいさまがすきよ?」



ジギルの喉から嗚咽が聞こえ始める。1度零れだしたものはそう簡単にはおさまらない。

ジギルはしばらくの間、痛いほど私の体を抱き締めていた。













後から思ったが、あの父の教えは『人の心の掌握の仕方』ではなく『女の口説き方』だったのではないだろうか。


父は一体娘に何を教えてるんだ。

落ちた……!(北川〇子)

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