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極道の娘が異世界転生?  作者: みーちぇ
学園編
24/26

第24話

遅くなりました

(これはまた、……すごいわね)


前世で総合体育館に何度か言ったことがあった。よく友人のバスケの試合を見に行っていたのだ。学校の体育館とは比べ物にならないくらいの大きさの総合体育館に初めて訪れた時は驚いたものだ。


そして今私がいるここ、ルフレード学園の食堂はその総合体育館5つ分ほどの広さを有していた。


(ほんとにここが食堂なの? 広すぎじゃない? そして無駄に煌びやか!)


学園の食堂、というよりもどこかの城の舞踏会のようだ。

こんな所で毎日食事など私には気が重い、そう思っていたのを知ってか知らずかロナが笑いながら教えてくれた。


「残念だけどこの大食堂は貴族様専用だよ。私達平民クラスの食堂はあっち」


ロナが指さした方を見ると、煌びやかな食堂の奥にぽつんと小さなスペースがあった。

特に装飾もされず、私が想像していた通りの食堂だ。

私達は大食堂を横切り、平民クラス専用の食堂に向かう。


「良かったわ。安心して食事が出来そう」


私が胸を撫で下ろす様子を見てロナが喉を鳴らして笑う。


「普通貴族クラスとの差に怒り出すものだけどな。現にうちのクラスは殆どの奴が食堂に来ないよ。それに居心地も悪いしね」


「まぁ、確かにこれだと自ら見世物になる様なものだものね」


私は周りから痛いほどの視線を浴びていることに気付いていた。

大食堂で食事をとっている貴族らしき生徒達が此方を見ながらヒソヒソと話ているのが耳に届く。


「あっち側に行くためにはどうしても大食堂を横切らなくちゃいけないようになっているんだよ」


「ほんと悪趣味ね」


「あらあらあら〜? 皆さん。貴族専用の食堂に平民クラスが紛れ込んでましてよ?」


甲高い女の声が私達の会話を遮った。

声の方へ目を向けると数人の女子生徒達が口元に手を当てながら此方にツカツカと向かって来ていた。


(うわ 面倒くさそうなのが来た)


出で立ちを見るに貴族クラスだろう。


「平民クラスがなんの用かしら?」


彼女達には私達がここで食事をとろうとしている様に見えたのだろうか。


「いえ、私達が用があるのはあちらの」


「ちょっと! その態度何なんですか!?」


私の言葉を遮ったのは銀、いや白髪の少女だった。


「エ、エルニスさん?」


エルニスはいつの間にか私達の後ろに立っており顔を真っ赤にして貴族クラスの女子生徒達に詰め寄る。


「エレナーゼさんは侯爵の爵位を持っているんですよ!? 本来なら貴女よりも爵位が上ではないですか?」


「ちょ、ちょっと」


(何のつもりこの子? 私ことを荒立てるつもりはないんだけど!)


「それに私だって爵位持ちなんだから!」


そういうことか、と私はエルニスの行動に腑に落ちた。いきなり現れ大きなお世話ではあるが私を庇ったようにも見えたが、彼女の本意はそこにあるのだろう。


(私を引き合いにして自分が男爵にも関わらず平民クラスの食堂なのが納得いっていないことを訴えてるのね)


ロナが溜息をついた。

エルニスの怒声にただでさえ集まっていた視線が更に集まっていた。


「エルニスさんは誤解なさってますけど、私達はあちらの平民クラスの食堂で食事をとろうとしていましたの」


私は人気が一段と少ないスペースを指さす。

貴族クラスの女子生徒達はたじろぐ様子を見せたが食い下がる。


「な、何を今更?」


「昨日今日来たばかりの私のお話など信用してくださらないでしょうね……。それでも私は自分の身を弁えているつもりですの。目立たず平穏に学園生活を送ることを誓いますわ」


(だから私のことはどうか放っておいて)


私は目に涙を浮かべ懇願する。


「わ、分かりましたわよ! 今回だけは見逃してさしあげます」


女子生徒達はバツが悪そうにその場を後にした。


私はふぅと溜息をつき涙を拭った。


「嘘泣きなんてまるで詐欺師だね」


ロナが感心したように呟く。


「あら、人聞きが悪いわね。……ところで、エルニスさん」


私の嘘泣きの演技に呆気にとられていたエルニスが現実に戻る。


「な、なに? あ、心配しなくても嘘泣きのことを言いふらしたりなんかはしませんよ?」


「いえ、そうではなくて」


「エレナ、先に移動しよう。ここでは人目につく」


「……それもそうね」


私達はやっと目的の場所に向かうことが出来た。


(たかだか食堂に向かうのにこんなに労力を使うなんて。やっぱり明日からはお弁当にしようかしら)


大食堂とは別に厨房が分けられており、中には気の良さそうなおばちゃんが立っていた。

ロナが先に注文を通す。


「日替わりランチAで」


「日替わりランチ? あ、じゃあ私もそれで」


「…………私はいいです」


「はいよ!」


日替わりランチなんて前世の日本の食堂の様だと感動していたが、エルニスは頼まないようだ。

納得いかない、そんな顔をしていた。


私達は空いている席に適当に座った。

私の隣にロナ、私の前にエルニスといった配置だ。


まだ拗ねている様子のエルニスを見る。


「男爵の爵位をもっているのに此方の食堂なのは納得いかない?」


比較的に優しく声をかけたつもりだ。

正直に言うと私はエルニスを好ましく思っていないが、この学園の平民差別に納得がいかないという気持ちが分からないでもない。エルニスのようにプライドが高く爵位持ちなら尚のことだろう。


「……はい。でも仕方ないって割り切ってる面もあるのよ。もうロナさんに聞いたかもしれないけど私の家は正当な方法で男爵の地位を得たわけじゃないから」


エルニスの父親は裏社会で名の通るカリーナの父親の力を借りた、とロナが言っていたことを思い出す。


「でも、それでもあんまりじゃない! エレナーゼさんなら分かるでしょう? 」


「……いえ、申し訳ありませんが私には分かりかねますわ。私は、平民クラスなのもあちらではなく此方の食堂なのも、この()()()()()()()()()()()()から」


「なんで!? 悔しいと思わないの? 自分より下の爵位の令嬢にあんな扱い受けて!」


「悔しい、ですか。いえ、特には」


「……っなんでよ! 貴女は、エレナーゼさんは、私と同じだと思ったのに!」


そう言い残してエルニスは走り去ってしまった。


「……あいつもああ見えて苦労してる所あるんだ。あんまり苛めてやんなよ」


これまで黙って事の成り行きを見守っていたロナが口を開いた。


「あら酷い。私は苛めてなんかないわよ」


「この学園に何も意はない?」


ロナが私の先程の言葉を復唱する。

にやにやと口角を上げながら此方を伺い見る彼女は意地が悪い。


「お見通しね。……ええ、あるわよ。この学園に言いたいことだらけよ」


私が平民クラスなのも扱いが悪いのにも意がないという点は本当である。だが、この学園のやり方に関しては思うところがある。


私の頭によぎるのは先程の体術学での出来事である。鞭をうつ教師に発言力のない生徒達。それを高みの見物を決め込む貴族クラスの生徒。


恐らくこの事は体術学に限った話ではない。この学園生活においてこのような事は日常茶飯事なのだろう。


「それをエルニスにも言ってやりゃあいいのに」


「はーい! お待ちどうさん! Aランチセット2人前だよ。銀髪の彼女は新顔だね。サービスのデザート付けといたから、気張りなよ!」


私達の前にプレートに乗ったランチセットが置かれる。サービスのデザートというのは、可愛らしくデコレーションされたプリンのことだろう。


「まぁ、ありがとう!」


私はおばちゃんににこりと微笑む。

この学園でも珍しい気の良さそうな人だ。仲良くしといて損は無い。


「あらぁ、可愛らしいお嬢さんだこと! ロナちゃんいい子捕まえたねえ!」


おばちゃんがロナの背中をボンボンと叩く。中々の力が入っていたようで頬杖をついていたロナの手から顔がガクッと落ちた。


「お、おばちゃん! 捕まえたって何だよ!」


「おやまぁ、しらばっくれるのは上手いんだからぁ! 隣に座らせておいてよく言うよ!」


「んな! ばか! 違うよ!」


ロナは顔を赤くして素早い動きで私の前に席を移動した。


確かに私達はガラリと空いている席の中隣同士で座っていた。もし男女だったら間違いなく良い中だと勘違いされるだろう。

だが、おばちゃんは先程までもう1人、エルニスが居たことを見ていた筈だ。


要するにロナはおばちゃんに揶揄われているのだ。


私はロナの慌てふためく姿に思わず吹き出してしまった。その様子を見ておばちゃんも大口を開けて笑い飛ばした。


「んふ、ふふ。あはははっ」

「あははは!」


「おばちゃん! エレナ!」


ロナが此方を赤みが残った顔で睨む。おばちゃんはわざとらしく肩を竦め、おお怖い怖いと言い厨房に戻って行った。


「ったく」


ロナが頬杖をつき直し、此方をじろりと睨んだ。


「ふふ、ごめんなさい。もう笑わないわ」


「……いい様に揶揄われた」


「なぁに、今気づいたの?」


「…………」


ロナの睨みがきつくなったので揶揄うのも程々にして少し遅くなった昼食をとり始める。ちらりと食堂にかけられた時計に目を送ると3限目が始まるまで残り15分といったところだった。急がなければ間に合わない。


「……ふん」


ロナも続いて昼食をとり始めた。


「……私ね、ロナやおばちゃんみたいな人好きよ?」


ロナが顔を上げる。表情は少しげんなりとしていた。


「今更ご機嫌取りなんて遅いからな」


「ふふ、そうじゃなくて。……ロナはきっと私のありのままってものを見てくれるのよ」


「……」


私が何を言いたいのか検討がついていない様子のロナは口を挟まず黙って聞くことにしたようだ。


「私に侯爵だ何だとか求めないし、貴族としてとか平民クラスがどうとかそういう面倒臭いこと言わないでしょ?」


「……」


「初めてロナが私に声をかけた時、昨日のあの時はロナに何か思惑があったのかもしれないけど今はないって分かるの。ちゃんと私を大事に思ってくれてる」


「……大した自信だな」


否定しないあたり肯定だと取ってもいいのだろう。ロナはそういう人間だ。


私はそれに、と続ける


「それにね。私を利用したりしないでしょ?」


「…………っお前なぁ…」


ロナは思い当たる節があったのだろう。呆れたように大きく溜息をついた。

ロナの頭に過ぎったのはエルニスの貴族クラスの女子生徒に対しての言動だ。


「エルニスに利用されて引き合いに出されたことを怒ってるなら回りくどく言わないではっきりそう言えよ……」


そう、先程のエルニスの言葉。『私だって爵位持ちなのに』とエレナーゼを立てて自分の思惑を通そうとした。私を利用したのだ。


「だからエルニスに言ってやらなかったのか。……お前案外執念深いんだな」






私達は少し急ぎ足で昼食を済ませ3限目『魔法学』を受けにクラスに戻った。

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