第21話
side アルフルド・ユーシュタリア(1)
アルフルド・ユーシュタリア
この名は僕がこの国の第3王子であることを示す。誇り高きユーシュタリアの名は王家の血筋を持つ者の証である。
▽▽▽▽
僕は生暖かい風を肌に感じながら椅子に座る。もしここに温かい紅茶が有れば言うことは無い程に最高だろう。
「アル!」
僕の名前を呼ぶ声に振り返ると僕と同じ金色の髪の男が此方に手を振っていた。
人の良さそうな整った顔立ちだがどこか軽薄そうな男の名はリルム・ユーシュタリア。
僕の従兄弟にあたる存在である。
「やぁ、リル」
「やぁ……じゃないよ! 何してるんだよ!」
リルムは厳しい剣幕で此方を睨みつける。
女の前では常に微笑みながら甘い言葉を囁く男とは思えない表情を僕に向ける。
「なに、とは?」
「いくらここが学園でも護衛も付けずに1人でブラついてるなんて何考えてるんだ!」
僕が彷徨いて居たここはルフレード学園の中にある植物園である。プロの技により丁寧に管理されたここは僕にとって楽園のような場所だ。
「大丈夫さ。ここは滅多に人が来ない」
リルムは肩まで伸ばした少し長い金髪をガシガシと雑にかいて溜息をつく。
「あーもう! そういうことじゃないだろう! あの強面の護衛の騎士さんはどうしたんだよ! まさか撒いてきたのか?」
「リューのことかい? はは、強面なんて言ってやるなよ。アイツ案外繊細なんだ」
「その繊細なリューク騎士殿は何処に置いてきたんだって言ってるんだ!」
「人の事を繊細だなんだと止めてください」
「わっ!」
僕の後ろからすっと男が現れる。
男の中でも高い身長で無駄のない洗練された筋肉を持つ彼が一体どうやって身を潜めていたのかは謎だが、リルムは一切彼の気配に気付くことはできていなかった。
「僕がリュークを撒けるわけないだろう?」
「それも、そうだったな」
第3王子護衛係リューク・オースティンは公爵家の長男でありながらその剣の腕を買われ王族の専属騎士である。
彼のことを『剣鬼』と呼ぶ者も少なくない。
鬼、と呼ばれるほどに彼の剣技は凄まじいものなのだ。そして彼の迫力を増す要因のひとつが髪色だ。
赤く燃えるような彼の髪は短く整えられてはいるが、目を引く。
そんな彼を殆どの者が怖がるが、人相の悪さを除くと端正な顔立ちをしている為隠れたファンも多いという。
「それで何か用かい?」
「ああ、今日から登校の噂の女子生徒が面白い事をしていてね」
今噂の女子生徒と言えば彼女しかいない。
「エレナーゼ・ハイルウェルツか……」
ボキッ
後ろから何かが折れる音が聞こえる。
目の前にいるリルムが恐ろしいものをみたような顔をしていることと、足元に落ちた木の枝から振り返らなくても分かる。
(きっと今リューは鬼、いや化物みたいな剣幕してるんだろうなぁ)
リューク・オースティンはどうもエレナーゼ・ハイルウェルツの話題になると分かりやすく機嫌が悪くなる。詳しくは知らないが『ハイルウェルツ』に何やら因縁があるとかないとか。
僕は話題を戻す。
「で、そのハイルウェルツが?」
「あ、あぁ。それが面白いんだよ。今市民クラスは体術学であのグランドを走らされてるんだよ」
「いつもの光景じゃないか」
「まぁ聞けよ。彼女、体力が尽きてもう今にも倒れそー! ってな具合の奴らに何をしたと思う?」
「……さぁ?」
「何と一人一人に体力強化をかけていってるんだ! 勿論教師にバレないようにね」
「……ほぅ」
「あ、興味持ったろ? ほらほら見に行こうぜ」
僕は半ば強引に腕をひかれながらエレナーゼ・ハイルウェルツの元へと向かった。




