第2話
私は状況が未だ掴めないままでいた。
(ちょっと……どういうこと?私は死んだはずじゃ……まさか奇跡的に回復!?)
(お父さんはどうなったの? というかここはどこ?)
(一体何がどうなって、)
目の前に一人の女性が現れた。金髪の髪を腰元まで伸ばし、メイド服を着ている綺麗な女性だ。
彼女は私に向かって手を伸ばし、体を持ち上げた。
(この人明らかに日本人じゃない。ま、まさかロシアンマフィア!?)
金髪の女は、私を抱き抱えて移動する。
(ちょ、ちょっとどこに連れて行くのよ)
ちゃぷん
服を脱がされ、どうやら湯につけられたようだ。体をごしごしと優しく洗われる。
(なに、どういうこと? なんで私体洗われてるの? さっきから声出そうとしても出ないし……)
ふと、私は自分の手が視界に入った。
とても小さくふっくらまん丸として、まるで紅葉のような手だ。
(あれ……?私の手、何でこんなに小さいの……?まるであかちゃ……ん…)
私はその紅葉のような手で自分の体をペタペタと触る。
金髪の女性がクスクスと笑いながら、どうしましたか~? と優しく声をかけてきたが、今はそんな事どうでもいい。
(私、もしかして……赤ちゃんになっちゃった!?)
私がさっきお湯につけられたのは、どうやら沐浴のようだった。
そして、金髪の女性は母親かと思ったが違うらしい。
何故そう思ったかと言うと、理由はひとつ。私の事を『お嬢様』と呼んでいるからだ。
彼女の格好からして、おそらく乳母か何かだろうか。
(私は死んでまた生まれ変わって赤ちゃんになっちゃった、ってことなのかな。そんなことって有り得るのかしら)
そして気になったのは、先程私の体を見た時に目に入った、腹にあった痣。
まるで弾痕のような痣だった。
私は思考を巡らせる。だが、だんだんと睡魔がやってきた。
どうにも赤ん坊の体は効率が悪く、あまり考え事ができない。
そして、何故だろうか睡魔がくると恐怖感が沸きあがる。
「ふ……ん、ふぇ、」
私は自分でも耳が痛くなるほど大きな声で泣き出してしまった。私が泣き出すと、金髪の女性が慌てて近寄ってくる。
「お嬢様~。どうされましたかぁ。ミルクですか、おトイレですか~。どうか泣き止んでください~」
金髪の女性は穏やかな声色で私をあやす。
(申し訳ないわ。ただ眠いだけなのに、こんなにぐずって……。でも眠くなるとどうしてか怖いのよね。今なら直ぐに泣いちゃう子供の気持ちも、子供を育てる親の気持ちも少し分かるわ)
私は大声でしばらく泣き叫んだ後、疲れて意識を手放した。
▽▽▽▽
目が覚めると、最初に目に映ったのは煌びやかな天井だ。周りを見ると、部屋の所々に装飾が施されている。私が寝ている子供用ベッドもふかふかだ。
どうやらここの家はお金持ちらしい。
(金髪の女の人も私の事『お嬢様』なんて呼んでいたし、私はこの家の娘ってことなのかな)
そんな事を考えていると、ドン!とけたたましい音をたてて、一人の少年が部屋に入ってきた。
金髪の女性は、はっと頭を下げスカートの裾を持ち上げ挨拶をした。
「これはジギル様。ご機嫌麗しゅう」
「よい、面をあげよ」
金髪の女性はジギルと呼ばれた少年の許可を貰い姿勢を戻す。
(何だかちっこくて偉そうな男の子が来ちゃった)
ジギルは、偉そうな態度が気になるものの驚くほど端正な顔の持ち主であった。
銀色に光り輝く髪にエメラルド色の瞳、薄い唇、小さい顔、どこをとっても美しい少年である。年は10歳前後だろうか。
ジギルはその薄い唇を歪にまげ、私に向かいこう告げた。
「これが僕の妹だと?」
(妹? もしかしてこの子私のお兄ちゃんなの?)
「醜い。まるで猿ではないか」
(んな!?)
「お、恐れながらジギル様、赤子は皆最初はそうなのですよ~。ですが直ぐに、天使と見間違える程可愛い女の子になるでしょう」
(き、金髪の女の人! なんていい人なの!)
私が金髪の女性の言葉に感動した瞬間、破裂音のような大きい音と共に彼女が後ろに吹き飛ぶ姿が目に入る。
(え……?)
「誰が僕に教えを説いても良いと言った?」
ジギルは冷たい目で彼女を見下ろしている。
(一体、何が起きたの?ジギルって子は彼女に触れてもいなかった。急に彼女の体が後ろに飛んで、まるで魔法みたいな……)
いや、待てよ と私は考え直す。
(今は方法なんかどうでもいい。あの子たったあれだけのことで、こんなことを?)
「おい、いつまで地に伏せている。誰が寝て良いと言った?」
ジギルは、指先をクイッと動かした。その動きと連動したかのように、金髪の女性の体が浮き上がる。
「も……申し訳ござ、いません……でした。どう………か、……!」
金髪の女性は空中でもがきながらも、必死に謝る。
(あいつ、なんて事を……。男として、人として、あいつがやっていることは許されることじゃない)
私は自分の中にふつふつと怒りの感情が沸いていることに気付く。そうなると赤ん坊がする行動はひとつ。
「うううう!おぎゃああああああ」
泣くしかない。
金髪の女性のCVは能〇麻美子を想像してください