第16話
ロナとは家が近いらしく屋敷までの帰り道であのクラスのことを色々と教えてくれた。
「うちのクラスを纏めてるのはカリーナだよ。爵位こそ持ってないけど、父親が裏社会で名の通る人らしくてな」
「成程。皆怖がって彼女に逆らえない、と」
「あぁ。カリーナもそれをいいことに女王様気取りさ。対してエルニスはこのクラスで唯一の爵位持ちだ。言っても平民と殆ど変わらない生活らしいけどな」
「男爵でしたっけ?」
「あぁ。その男爵という地位を得られたのは何か根回しがあったらしくてね。噂ではエルニスの父親はバックに裏社会の人間がいるってさ」
成程。話が読めてきた。
大方そのエルニスの父親と流通しているのがカリーナの父親という訳だ。
エルニスの父親はカリーナの父親に借りがあると。
「まぁお察しの通りだよ。だからエルニスはカリーナには逆らえないし、カリーナもエルニスを下に見てるようでな。あることないこと噂してるよ」
私はどうやらとても運が悪いらしい。
この状況、この勢力図の中に私というイレギュラーな存在が入ってしまった。
「……話が早いようで助かるよ。そう、そんな時にお前が来た。ハイルウェルツ侯爵家の娘がな」
「エルニスは侯爵家の地位を持つ私を仲間に引き入れて自分の今の立ち位置から脱却しようとしているのね」
「その通りだ」
私は深く息を吐く。
(面倒臭い。面倒くさすぎるわ)
「だけど彼女も馬鹿ね。私を取り入れても何の力にもならないのに」
そしてその事をカリーナは理解しているようだった。
私はハイルウェルツの名がつくものの、両親からは捨てられたも同然の身。私を取り入れた所でハイルウェルツの名前を借りれることは無い。
「どうにも彼女はオツムが足りないようね」
ロナは歯を見せて爽やかに笑い飛ばす。
「お前結構言うなぁ。まぁ、それだけならエルニスにも同情出来るものだけどな」
「エルニスにも問題がありそうね」
「あぁ。挨拶しただけで分かるだろう? あの性格だ。彼女はどこか、そうだな、」
「自分が可愛いのね」
所謂シンデレラストーリーを夢見るヒロインかぶれってところだろうか。
私をすぐに仲間に引き入れ、自分の地位を上げて何をしようと思っているのかは知らないが禄なことではないだろう。
「まぁ、大方自分がリーダーになりたいのだろうな。1年も一緒のクラスで過ごすと、会話の節々から承認欲求がビシビシと伝わってくるよ」
「そう……」
(全く本当に面倒くさいことになりそうだ)
「ねえ、ロナ。守って頂戴ね」
「……馬鹿言うな。ほらお前の屋敷ここらだろう。この辺りじゃ有名だよ」
気付けば屋敷のすぐ近くまで来ていた。
「ええ、じゃあ、また明日ねロナ」
私はロナに軽く手を振る。
「見送りはいいから早く屋敷に入りな」
ロナの言う通りに素直に従い屋敷の中に入る。
数歩歩いたあと、体の向きを変え数歩元の場所へと戻った。
「ふふ、やっぱり」
遠くからでもよく目立つ赤い髪の少女は、屋敷の前を越さずに元来た道へと帰って行った。
家が近いというのは本当なのだろうが、彼女の家はとっくに通り過ぎていたのだろう。
「優しくて甘やかしてくれる。依存してしまいそうだわ、ふふふ」
私は赤い髪が見えなくなるのを待った後、今度こそ屋敷の中に戻り離れへと向かう。
行きではあんなに重かった足取りがとても軽い。
出迎えてくれたジギルやベルが不思議そうに此方を見ていた。




