第14話
学園は中に入るとより一層凄かった。
鏡のようにと輝く大理石の床に、所狭しと並んでいる高級美術品たち。真上に目を向けると予想通りのシャンデリアが爛々と輝いていた。
「エレナーゼ! こっちだぞ」
どうやら周りに注意がいきジギルを見失うところだったようだ。
「申し訳ありません! 兄さん!」
私は駆け足でジギルの元へ戻る。
「走ると転けるぞ」
「だ、大丈夫です!」
ジギルはニヤニヤとこちらを見る。
私はいつの間にかお転婆キャラになってしまったのだろうか。
今度は見失わないようジギルについていき暫く歩くと理事長室についた。
ジギルがコンコンと戸を叩く。
中からお年寄りの嗄れた声で返事が聞こえた。
「失礼」
「失礼しますわ」
私は『お嬢様モード』に切り替える。
家ではだいぶ緩くさせてもらっているのだ。
スカートの裾を持ち足を軽くまげ頭を下げる。
顔を上げると白い口髭を長く伸ばしたお爺さんが居心地の良さそうな椅子に腰掛けていた。
「ようこそ、エレナーゼ・ハイルウェルツさん」
芯が通った声だ。
嗄れた声なのに不思議とよく耳まで届く。
何かの魔法だろうか。
「よろしくお願いしますわ、理事長先生」
理事長はほほ笑みを浮かべて何度か顔を縦に振った。
「途中編入とはなりましたが、妹をよろしくお願いします。レヴィガー先生」
「ええ、お任せ下さい。ジギル君」
ジギルと理事長であるレヴィガーは、元教え子と先生である。
ジギルはこの学園の貴族クラスに通っていた高等部の時にお世話になったらしい。
「まさか、あの時のやんちゃな君がここまで成長するとはなぁ。妹のおかげかい?」
「ええ、まぁ」
「そんな、兄さん。私は何もしてないですわ」
ジギルは何も返さず私に笑顔だけを向ける。
「エレナーゼさん、ここでは貴方は平民としても貴族としても扱われる。どっちにも属せない異質な存在となるやもしれん。この学園の……平民差別は儂1人の力じゃあ無くせないところまできてしまった。君には辛い思いをさせるだろう」
レヴィガーは目を細めた。
「元より君に拒否権など無かったかもしれん。だが、これが最後の機会だよ。……覚悟はおありか?」
私は頷く。
(確かにこの学園に進学しろ、というのは母からの命令。背くことはできなかった。でも、)
私は目を閉じた。
意志を固める。私は大丈夫、だと。
「最後に決めたのは私ですわ。ここに足を運んだのも自分の体です。私は自分の意思でここに来ました。……レヴィガー先生、よろしくお願いしますわ!」
「うん、うん。そっか、よろしくね」
▽▽▽▽
私はジギルとはここで別れ、クラスの元へ案内された。
平民は全体の人数が少ないため初中高等部にそれぞれ1クラス存在しない。
それに比べて他の貴族のクラスは、1クラスを30人とし、初等部で7クラス中等部で6クラス高等部で8クラスあるという。
(人数が違いすぎるわね。そりゃあ平民クラスは肩身狭いでしょうね)
私は教師の案内についていきクラスの前についた。中からはガヤガヤと音が騒がしく聞こえる。
「ふぅ……」
私は小さく息を吐いた。
よし、行こう。
私は教師の後に続きクラスに入る。
さっきまでの騒がしさが嘘のようにクラスは静まり返った。
「皆。明日から新しいクラスメイトが入る。正確には今日からなんだが、授業に参加し出すのは明日からだ」
教師が顎を前に突きだした。
どうやら、挨拶をしろ。ということらしい。
「初めまして。エレナーゼ…………エレナーゼ・ハイルウェルツと申します。明日からよろしくお願いしますわ」
ハイルウェルツの名を言うか迷ったが、どうせバレることだ。いいだろう。
クラスの所々で『ハイルウェルツって』という小声で話す声が聞こえる。
「ハイルウェルツとついてはいますが、ただのエレナーゼとして接してください」
この願いは中々聞き届けては貰えないということは分かっていた。
今後の行動に示さなくては、と私は考えていたが席の後ろの方に座っていた女の子が手を挙げる。
「はーい! よろしくね! エレナちゃん!」
彼女もまた私と同じ銀色の髪をしていた。




