第13話
話が飛んでいました!申し訳ないです!
「それでは行ってきます」
私はベル達使用人に挨拶を済まし屋敷を出る。ベルはにこやかに送り出してくれたが、料理人のおじちゃんや庭師のお爺さん、メイドのお姉さん達は心配そうな顔で手を振っていた。
私はジギルと学園に向かう。
学園まではそう遠くはないのだが、歩くと30分程かかる。
(普通の令嬢なら馬車がでるのでしょうね)
ジギルはふと私の頭の上に目をやった。
「あっ、兄さん。この髪飾り本当にありがとうございます。大事にします」
「あぁ、よく似合っているぞ。やはり僕の見立ては完璧だな」
「ふふ、本当兄さんったら」
私とジギルは目を合わせて笑った。
よく見るとジギルの目元が泣いた後のように赤くなっているような気がしたが、気の所為だろう。
「歩くのは辛くないか? すまないな、馬車を用意してやれなくて」
「いいえ、私歩くの好きですよ? それに兄さんとそれだけ長い間お話できるから、嬉しいわ」
ジギルは私の頭を撫でようとして寸前で止まる。
「危ない、せっかく整えた髪をクシャクシャにしてしまうところだった。そんな事をしたらベルに怒られる」
ジギルは本当に焦ったような顔をする。
今からもう上下関係がうまれているようだ。
(ジギルはベルにいいように尻に敷かれるわね)
ジギルと他愛もない話をしながら歩くこと30分。ルフレード学園が見えてきた。
(さすが貴族のための学校ね……)
白を基調とした学園はまるで大きなひとつのお城のようだった。
学園の中には警備兵が数十人配置されていると聞く。
ジギルに手を引かれながら学園の大きな門の前に着くと警備兵が数人立っていた。
「失礼。どう言ったご要件で?」
「妹が今日から在籍することになっている。今日は挨拶をな」
「成程……。少々お待ちくだ、さ……い?」
口髭を蓄えた中年の警備兵は私とジギルを足先から上へと品定めするような視線を送る。
その視線は私達の頭上、正しくは髪の毛で止まり、数秒固まった。
(なんだか失礼な人ね)
私がそんな事を考えていると、どうやらジギルに伝わったらしくあからさまにムッとしだした。
「……何か? 早くして頂けると」
「し、失礼しました! ハイルウェルツ侯爵家のご子息ご息女様でしたか!」
口髭の警備兵は顔を真っ青にし、態度を改めたかのようにペコペコと頭を下げ出した。
私はようやく気付く。
いや、分かっていた筈なのだが、こう目の当たりにすると実感する。
ハイルウェルツ侯爵家 とはこういう存在なのだ、と。
ジギルがひとつため息をつくと、口髭の警備兵はビクリと身体が跳ねる。
「いえ、僕はハイルウェルツ侯爵家の人間ではありません。ですが、この子はそうです」
「……は?」
口髭の警備兵は頭をゆっくりと上げ私とジキルを交互に見やる。
段々と納得したような顔つきになったかと思えばまた、態度を変えた。
「……ははぁ、なるほど? 噂に聞くジギル殿とエレナーゼ嬢でしたかぁ。ははは、いやはやビックリさせないでくれたまえ」
口髭の警備兵はジギルの肩をポンポンと叩く。
(なに、なんなのこいつ)
ジギルの額に青筋が浮かんでいるのが分かった。
それでもまだ我慢をしているようだ。
10年前の少年だったジギルからは考えられない。
「何かな? 貴族様じゃないんでしょう? ははは。ええ、ええ。話は聞いてますよぉ。どうぞお入りくだせぇ」
口髭の警備兵はそう言いながら今度は私の肩に手を置こうと体を屈めた。
だが、その手は私には届かない。
私自身届くことは無いだろうと踏んでいた。
ジギルが口髭の警備兵の手を指先で払ったのだ。
「なっ!?」
「失礼。僕は違うが、この子は大事な侯爵家の娘だ。使用人として彼女に触れることは許さない」
「兄さん……」
「大丈夫だ、エレナーゼ。僕の目が届く内は君の体に汚い手など触れさせないぞ」
「ありがとう、兄さん」
「ああ、だがこれからは多少なりとも自分で身を守らないといけないぞ」
「はい!」
私とジギルが仲睦まじく兄妹の会話を楽しんでいると口髭の警備兵が口を挟む。
「おい! 貴様ら俺を無視するんじゃねえ! 知ってるんだぞ! その娘だって家族に捨てられ、ぐぅ!」
口髭の警備兵が言い終える間もなくジギルが頬を掴んだ。
「にゃ、にゃにをぐるぅ!」
(何をするぅ! かしら?)
「悪い、警備兵殿。僕は頭の出来の良い男じゃないんでな、君が何を言っているか分からない」
ジギルはその整った顔をニコリと微笑ませる。遠巻きに騒ぎを見ていた女子生徒らしき人がポっと頬を染めた。
(学園に入る前から目立ってしまったわ)
「兄さん、もういいですよ。いきましょう? 時間の無駄です」
私はジギルの袖をクイッと引っ張る。
「ふむ、それもそうだな。身分も証明できたようだし、行こうか」
「ええ」
ジギルは何事もなかったかのように手を離した。
汚いものを触ったかのように手を2回払った後歩き出した。勿論私も後ろを着いていく。
「手を……洗いたいなぁ」
「ふふ、そうですね」
口髭の警備兵がまだ後で騒いでいるようだが、私とジギルの意識は完全に2人の世界へといっていた。




