第1話
新連載はじめていきます。
私の名前は綾辻 愛奈。
少しくせっ毛な栗色の髪の毛に日本人らしい黒い瞳。至って普通の見た目をしている。
これといって抜群に可愛いという訳でもなく、不細工でもないと思う。
勉強する事は嫌いでもないから、成績は上の方。
普通の高校に通うよくいる普通の女子高生。
……家以外は。
私の家は、極道『綾辻組』といって、父が組長をしている。
家に帰ると強面の組員達が、私の事をお嬢って呼んでペコペコ頭下げるし、家の中は常に怒号が飛び交う。家にいる限り争い事は隣り合わせだ。
同級生達にも家のことはバレてるらしくて、距離を置かれている。
そりゃそうだ。毎日、強面の男が真っ黒いスーツ着て真っ黒いリムジンで私の送り迎えをしているから。
送り迎えなんてして欲しくないんだけど、小学生の頃、友達が出来ない事が嫌で、送り迎えなんていらないって勝手に走って学校に行ったことがあった。
案の定、見事に敵対している組のチンピラに誘拐されかけた。
その事があってから、送り迎えを素直にしてもらう事にしている。
うん。命、大事に。
誘拐されかけるし、強面の男達が常に近くにいるし、友達はおろか恋人もできない。
だけど、私はこの家の事そんなに嫌いじゃない。
父は怖いけど筋の通らないことは絶対しないし、仁義ってものを大切にしてる。私は父の人として大切な何かを持っているところが大好きだ。
私は極道の家の娘であること誇りに思っている。
▽▽▽▽
今日もいつも通り迎えの車を校門で待っていた。今日は私の誕生日で、父とディナーに行く約束をしている。いつも父の周りには沢山の組員達がついて回るけど、今日は無理を言って2人きりにしてもらった。まぁ運転手はいるけど。
父も迎えの車に乗っているはずだ。
程なくして私の前に黒い車が止まった。
運転席からスキンヘッドにサングラスをかけた屈強な男の人が出てきた。いつもの迎えの人だ。スキンヘッドの男が後部座席のドアを開けてくれる。
ありがとう と礼を告げ車に乗り込んだ。
「おけぇり。愛奈」
「ただいま。お父さん」
父と軽く挨拶を済ませ、目的地に着くまでの間他愛もない話をした。
そう言えば、父とこんなにゆっくりと話をするのも久しぶりな気がする。
もう少しで車が目的地に着く頃合だろうという所で体に衝撃が走った。
車が急ブレーキをかけたのだ。
「何事だ!」
父が運転手に怒声を浴びせる。
「すいやせん! 親父! 囲まれたみてぇです!」
周りをみると、どうやら沢山の車に囲まれているようだ。
私は父の袖を掴む。
(嫌な予感がする)
「お父さん……」
「愛奈はここにいなさい」
父は私の手をそっと上から掴み、袖を離させ、私を残して車から出ていく。
(私が無理を言ったからだ。父と2人でディナーに行きたいだなんて)
後悔は先にはたたない。
だが、父なら、と私は思う。
父なら何とかしてくれるはずだ。いつだって父は死線をくぐり抜けてきた。
今回だって、大丈夫、大丈夫なはずだ。絶対に。
(大丈夫、大丈夫、大丈夫)
父を囲む大人数の男達。
男の懐から取り出される黒い物体。
あぁ、あれを父の部屋の引き出しで1度だけ見たことがある、と私はどこか冷静な頭で思う。
あれは、銃だ
その時私の耳に入ったのは、
鳴り響く銃声
そして父の声だった。
「愛奈!!」
私は気付けば車から出て父の前に飛び出していた。
「愛奈!! 愛奈!! お前、なんで!!」
父が必死に私の腹に圧をかけているのがわかる。
そうか、撃たれたのは腹か。普通こういう時は頭を狙う。恐らく、飛び出してきた私に動揺し頭ではなく腹を撃ってしまったのだろう。
私の頭は何故かどこまでも冷静であった。
「……ごめ、んね。お父さん。ディナーに……行きたいなんて、我儘言って」
血が止まらない。
体が冷えていくのを感じると同時に、自分から流れている血の生温かさを感じる。
(痛い)
弾丸は貫通すればあまり痛みを感じないという。
どうやら弾丸は貫通せず私の腹の中に収まっているようだ。
(良かった、貫通してお父さんに当たらなくて)
だんだんと意識が遠のいていく。
「ひでぇじゃねぇか……。父親置いて先に逝こうなんざ……お前をそんな親不孝もんに育てた覚えはねぇぞ……!」
父の震えた声が聞こえた。いつも厳格な父のこんな声を聞くのは初めてだろう。
「ごめ……ね……だいす、き」
私は意識が遠のくのを感じながら、自分の人生を振り返る。
(悔いのない人生だった、かな。……あぁでも、欲を言うなら普通に友達とお茶をしたり、遊んだり……恋人をつくったりしてみたかったなぁ)
そこで私の意識は途切れた。
そう、私は死んだ。
なのに、
私は
「おぎゃあああ おぎゃあああ」
意識を取り戻す。
赤ん坊になって。
弾丸が貫通すれば痛くないというの、ソースは私。
嘘です。
ネットでググッたら「痛くねぇよ(笑)」ってどっかの軍人が言ってました。