第7話 エステル教会
城下町からそれなりに離れた森の中。俺は歩きながら、モニカに話を聞こうと思った。
「それで、どうして追われていたんだ?」
「それは……」
「君を助けた以上、すでに巻き込まれているんだ。話した方がいい」
「そう、ですね……そうかもしれません。私は……シュバルナ王国の王女です」
シュバルナ王国っ!? そうか、聞いたことのある名前だと思ったら……そういうことか! 一国のお姫様がどうして……。
「私は、『教会』が麻薬入りのポーションを販売している噂を耳にして、独自に私兵を使って調べていたのです。父……国王陛下にも話をしましたが、信じては貰えず。それで、国務でアーテルムに用がありましたので、そこへ向かっている途中に……」
「襲われたと」
「そうです」
教会って……エステル教会のことか? おいおい、世界宗教団体だぞ。そんなところが背後にいるなんて、聞いてない。ヤバイんじゃないか? 一国のお姫様が命を狙われるとか。すでに、学生の本分を超えているだろ。それこそ、本物の英雄さんのお仕事だ。俺たちが関わっていいような内容じゃない。
「……近衛兵は全て、殺されました。私だけが……《天使の加護》に守られて……」
そんな顔されるとなぁ……放ってはおけないというか。女の子に甘いなー、俺も。
そういえば、なあ、おい。お前。
おーい、聞いてるか? お前だよ、お前。サポートさん。
『私のことでしょうか?』
そう。名前とかないの? 呼ぶ時、困るんだけど。
『ありません』
じゃあ、勝手につけてもいいか?
『どうぞ』
んー、謎の声……ミステリー……じゃあ、お前は今日から『ミスティー』だ。よろしくな。ミスティー。
『コードネーム・ミスティーで登録を完了しました。以後、よろしくお願い致します。貴方様』
エリクでいいよ。
『では、エリク様。先程、交戦した相手ですが、教会に所属しているB~Aランクの混成部隊のようです。隠密行動に特化した編成を組んでいるようです。アサシン2、スナイパー1、エンチャンター1、ウィザード1の構成です。プロ中のプロ集団でしょう』
彼女の……モニカの《天使の加護》というのは?
『《天使の加護》は、王族だけに伝わる《秘術》です。防御系のカウンタースキルとなります。加護に対して攻撃を加えた場合、呪いや攻撃を行う自動式のカウンター魔法を発動する仕組みになっています』
なるほど。だから、モニカには直接危害を加えることが出来なかったわけだ。
『左様です。《天使の加護》は、解除魔法を用いてその効果を解除する必要があります。彼らはその準備も万全だったようですが』
そこで、俺の邪魔が入ったわけだ。
『はい。想定外の出来事だったのでしょう。アサシンのAランクフェイクスキル《インビジブル》を過信しすぎた結果とも言えますが』
「まあ、事情はなんとなくわかったけども……どうしようか」
「私は彼女を置いて冒険を再開することを望みますが」
また、率直な意見をぶつけてくるセレスさんだった。言ってることは正しいからなぁ、この人は……。
「首を突っ込んでしまった以上は、教会のブラックリストにわたくし達もすでに乗っているのでは? 今更、見捨てたところで変わりありませんわ」
なるほど、サリアの意見も、もっともだ。となると、やはりやるべきことは教会の不正を世間に公表して、世論を味方にするしかないか。
「さすがはお兄様。さすおにですわ」
さすおにって言うの、やめてくれます? サリアさん。
「でも……これ以上は、皆様にご迷惑では」
「もはや、そういう状況じゃないと思うけどね」
「……すみません」
「謝る必要はないさ。君は教会の不正を暴こうとしただけだろ? それに俺は、自分から巻き込まれに行っただけだ」
「エリクさん……」
「話はまとまったな。しかし、教会の不正を暴くといっても、証拠がないとどうにもならないよな」
カメラとかないしなぁ、この時代。念写みたいなことは出来るんだろうか? どっちにしろ、魔法で合成したとか言われかねないんじゃ、意味なさそうだし。
『教会が秘密裏に麻薬ポーションを製造していたとしても、その製造書や、取引を纏めた書類などは保管しているはずでしょう。それらを公表すれば問題ないでしょう。シュバルナ王国の王女と、ガルディア王国の大貴族であるラディウス家の証言を加えれば、民衆が信じるに足るものと思われます』
ま、そうだな……こういう時に権力者の発言は有効だろう。
『ただ、不正を暴いたところで、人柱を用意してトカゲの尻尾切りになるだけだと思いますが』
それはそれでいいさ。教会が王女を襲う理由がなくなればいいだけのことだしな。
『左様ですか。では、エステル教会の総本山へ向かうとしましょう』
そうして、俺達はエステル教会の総本山へ向かうこととなった。
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