第6話 少女救出
一方、逃走中の少女は。
「ぜぇ……ぜぇっ。身体強化の護符が……もうっ……」
「チェックメイトね」
「はっ……!?」
突然、何もない場所から、二人の男女が現れた。
「フェイクスキル・《インビジブル》。暗殺業には、欠かせないスキルね。抵抗するだけ無駄よ。まだかかりそう?」
「あぁ、《天使の加護》を破るには、それなりの時間が必要だ。お前はそれまで、こいつが逃げ出さないように、相手をしていてくれ」
「フェイクスキル……教会はそんな奴まで……くっ」
「おっと、逃さないぜ」
後方からやってきた追手によって、道を塞がれる少女。
「前門の虎、後門の狼。さて、どうするのかしら?」
「誰か……誰か、助けて……」
「ふふふ、誰も助けになんて来ないわ。諦めなさい」
「よし、《天使の加護》の解除を確認……これで……」
「ちょぉっと、まったぁああああああああああああっ!」
「な、何っ!」
「撃ちなさい!」
「ちっ……燃え盛るは、人の子よ《ファイアー・シュート》!」
ま、魔法っ!? やべっ!
俺は、思わず急ブレーキをかけたが、逆に的になってしまったようだ。相手の攻撃魔法が、俺の顔を直撃……しようとした瞬間だった。
ギィイイイン! という音と共に、《ファイヤー・シュート》が吹き飛んだのは。
な、なんだ……?
「何っ? あれは……」
「ちっ、どうなってやがるっ! おい、どうすんだ!」
「怒鳴るんじゃない! 砂っ!」
瞬間、時間が一時的に停止したような感覚に陥った。
『スナイパーの存在を感知。高魔力反応を検知。銃撃魔法がこの、0.55秒後に発射されます』
どうすればいいっ!?
『特にどうもする必要はありません』
はぁっ!?
『EXスキル《魔法防壁》により、あの程度の魔法であれば、無効化されます』
な、なるほど。わかった。
時間が再生されるような、感覚が走った。
瞬間、俺の頭めがけて、またも攻撃魔法が飛んでくるっ!
しかし、それは俺の頭に当たる前にかき消された。
俺は、飛んできた方向を見つめると、そこにはフードを被って銃を構えている少女らしき人物がいることを確認した。目が合った、そんな気がした。
その少女は。
「何、あいつ……」
「……」
今の俺は、奴らからすれば異次元の存在かもしれない。クールに見えるかもしれない。が、俺はマジでびびっていた。超こえーよ。何、あれ? いくら無効化っつったって……あんな勢いで飛んでくるんだぞっ!?
って、それどころじゃねえ。奥に怯えている少女がいる。この子を助けないと。
「その子を離せ」
「なにもんだ、てめぇっ!」
何だろう? 冒険者……だよな?
「ただの見習い冒険者さ」
「ふざけてんのかぁ!」
今度は、ナイフを取り出して襲いかかって来た。
それを、俺は剣を取り出して腕ごと切り落とした。
「がぁっ! あ、あぁっ! あっあっあっ! あぁあああああああああああああっ!!」
「うで、腕がぁっ! あぁああああああああああっ!」
冒険っていうのは、こういうもんだろうが。常に命のやり取り。手なんて、抜けねえよ。そうだろ?
「ちっ、逃げるよ!」
「きゃあっ!」
少女を捕まえて、空を飛ぶ連中。切り替えが早い。ていうか、空を飛ぶなんて反則だろ!
『Sランクパッシブ《龍の加護》を習得。空を自在に飛べるようになりました』
と、飛べるんかーい! よっしゃ、飛んだらぁっ!
俺は、勢いよくジャンプする。すると──。
マジで飛べてるし! すげえっ!
「何者だ、あいつは!」
「さあね。けど、あいつがあたしの『フェイクスキル』を見破った奴だよ」
「あの時のガキか! マジだったってのかよ!」
「スナイパーが援護射撃をしてくれる。そのうちに脱出するよ!」
「我、天の祝福を受けし者……さらなる加護を持ってこの身を……」
「ちっ、こいつ《天使の加護》を!」
「させないよ! 《バインド》ッ!」
「きゃあっ!」
あの子が! くそっ、どうするっ!
「待てっ!」
「行かせないよ」
瞬間、連続で銃撃魔法が俺に襲いかかってきた。しかし、それは全てEXスキル《魔法防壁》によって、無効化される。
「ちっ……避けようともしない。あたしの魔法が効かないなんて、そんなわけ……そんなわけ……」
「あるかぁっ!」
『高魔力感知。ディレイスキルです。今度は大規模破壊魔法のようです。貴方様は無事ですが、城下町にかなりの被害が出ると予想されます。推定死亡数……23名』
どうすりゃいいんだ?
『Sスキル《ライトニング・ソード》を使用して下さい。このスキルは強力です。使用の際はご注意下さい』
「雷鳴よ、我の命に従い、天を切り裂けッ! 《ライトニング・ソード》ぉおおおおおおおっ!」
「なっ──」
俺の剣から光が迸り、雷となって相手の大規模破壊魔法を消し飛ばした。
そして、それだけには留まらず、背後にあった山を丸ごと……消し飛ばしたのだった。
「うそ、だろ……」
相手も驚いていたが、俺も驚いていた。まさか、山を丸ごと吹き飛ばすだなんて。
お、おいっ! 聞いてないぞっ! なんだ、これはっ!?
『使用の際はご注意下さいと、申し上げましたが』
そんなんで、わかるか!
『……左様ですか。では、今後は破壊される予想領域を掲示します』
そうしてくれ……もう、取り返しがつかねえけどな。
『ですが、アレ以外に相手の大規模破壊魔法を防ぐことは出来ませんでした。貴方様の『最弱』スキルがあのスキルですので』
は? 今、なんつった? あれで……最弱? マジかよ……。
『はい。あれよりも、威力の低い攻撃スキルを持ち合わせておりません。なので、あれよりも威力の低い攻撃を行いたい場合は、魔法剣の購入をオススメします。剣から迸る魔法を貴方様の魔力で強化するだけで、十分な威力となるでしょう』
……検討しとく。それより、今はあの少女だ。
「おい」
「ひっ……」
相手はすっかり、怯えているようだ。当然か。
「その子を離せ」
「……まって。今、呼びかけるから」
案外、素直だった。
「ちっ、マジかよ。あんなガキに従うってのかっ!?」
「無理よ。今のスキル……おそらく、S級の《ライトニング・ソード》……。あの子は、Sランク《英雄級》の実力者よ。やろうと思えば、私達を皆殺しにすることも可能だわ」
「……」
男は完全に黙ってしまった。
「まさか、《英雄級》の冒険者がこんな街にいるなんてね。私達の負けよ。少女は引き渡すわ。そのかわり、私達の命を保証して頂戴」
「ああ、わかった」
うん、まあ。Sどころか、SSS級なんですけどね。
「命拾いしたわね、けど……これからも貴方は追われ続けるわ。それを忘れないで頂戴」
「あたしは……あんたを許さないっ!」
何故か、フードの少女は俺のことを敵対視しているようだ。魔法が全然通用しなかった逆恨みだろうか。
そういって、奴らは去っていった。
「ふぅ……」
取り敢えず、少女を抱きしめたまま、俺は地上へと降り立った。
「あ、あの……ありがとうございました。私は、モニカ。モニカ・リーリンディアです」
「リーリンディア……どっかで聞いたような」
「ちょっとぉ……! 何をしているんですのぉおおおおおおおっ!」
遠くから声が聞こえてきた。あぁ、サリア達のことすっかり忘れていたわ。それに、山も吹き飛ばしちまったし、どうすんだよ。これ。
「ぜぇぜぇ……まったく、どうなっているんですの! 突然、魔法が飛んできたり、お兄様が空を飛んでいったり、山が吹き飛んだり……わけがわかりませんわ!」
うん、俺もわからない。どうしてこうなったんだろう。
「それより、衛兵が直にやってくるわ。どうするのかしら、エリク君」
衛兵っ!? やばっ! 俺、捕まるの!?
「衛兵は……ちょっと……すみません、私……」
「……」
どうやら、事情がありそうだな。当然か。あんな連中に追われているぐらいだし。
「じゃ、いくか」
「え?」
「行くって……どこへですの?」
「そりゃ、冒険だよ」
「中々……ハードボイルドだね、エリク君は」
「私はご主人様についていきますっ」
「決まりだな。行こう! モニカ!」
「で、ですが……」
「話は後で聞かせて貰うよ。取り敢えずはここを離れないと」
「は、はい……」
そうして、俺たちの冒険はスタートしたのであった。いや、もう始まっていたか。
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