第4話 SSS《勇者級》!?
「あら、不満? そう……エリク君のタイプではないようね」
「いや、そういうことじゃなく……」
「その反応だと、満更でもない感じかしら」
「……」
「あら、ごめんなさい。別にからかっているわけじゃないのよ。私は弓を得意とする遠距離タイプの使い手よ。同時に氷系の魔法にも特化しているわ。貴方は剣士系だったわよね? サポートは十分出来るつもりよ。けど、私と貴方とでは、戦力に大きな差があることはたしかだから、私の体を売りにした方がいいと思って」
「……最初からそう言ってくれ。ああ、うん。別に断る理由はないんだけど。急すぎて」
「この試験自体、急なものよ。どんな状況にも、適応出来る能力適正を試されているわ。即席のパーティーがその良い証拠ね」
「たしかにな。わかった。お前と組むよ」
「あら、本当に? じゃあ、私の胸でも触る? キスしたい?」
「な、なんでそうなる!」
「好きにしていいのは、本当だから。いつでも来て」
耳元で囁くなぁっ! 悪魔の囁きじゃねえか! しかも、ちょっと胸が当たったしっ!!
その時だった。聞き慣れた声が聞こえて来たのは。
「なーにを、やっているのですか! お兄様っ!!」
「げっ……その声は」
「離れなさいっ! このケバ女! わたくしのお兄様に何をしてっらっしゃるのですか!」
「あら、妹さんじゃない。どうしてここにいるのかしら」
「わたくしは、今回の学園行事にある程度の推測をしていましたの。だからここに来たのですわ」
「なるほど、貴方も『パーティー』に入りたいのね、妹さん」
「あら、物分りがよろしいじゃないの、ケバ女」
「私は、セレスティア……」
「ロレーヌ・バイトゥエンですわね。ふ、わたくしをなめないで頂きます?」
「さすが、エリク君の妹さんね。それなりに賢くて助かるわ」
「貴方も中々やりますわね。わたくしほどでは御座いませんが。おーっほっほ」
なんか……目の前で、バチバチと火花が飛び散っている気がするんですけどー……。女って、こえー……。
「ご主人様。こちらにいらっしゃいましたか」
「ユーリカまでっ!?」
「私はお呼びじゃありませんでしたか、ご主人様」
「いや、そういうわけじゃないけど……」
そういえば、ユーリカは俺と同学年だったな……妹のように見てきたから、忘れてたけど。別にこの場にいることが不思議なわけじゃない。下級生のサリアがいることの方がおかしいんだった。
「いや、パーティーって。お前、学校はどうするんだよ」
「勿論、休みますわ。先程、一年間の間に出される筆記テストはすべて百点満点で合格してきたところですわ。実技に関しては、この冒険のレポート報告で行うということで、学園側と合意しましたわ」
恐るべし、妹。そこまでするか。本当に、この出来事を予測していたんじゃねえか。
「では、この4人でスタートするということでよろしいかしら?」
「ちょっとまってくれ。サーシャも誘いたいんだけど」
「サーシャ?」
「ああ、俺のクラスメイトなんだけど……あれ、おかしいな……」
周りを見渡したが、いないようだった。もうとっくにパーティー組んでスタートしちゃったのかな?
「いないようでしたら、諦めるしかありませんわね。そのサーシャって子を探す時間が勿体無いですわ」
たしかに。すでに試験は開始している。あらゆる行動が採点化されているなら、無駄な時間を過ごすことになる。どの道、学園にいないんじゃ、探しようがない。諦めるか。
俺は少し、サーシャのことが気になっていた。あの言葉……。
『ま、『死』っていうのは突然訪れるもんだからねぇ』
冒険するということは、そういうことだ。いつ死ぬかわからない。危険な旅だということ。まあ、基本的にはモンスターの少ない安全コースを通るんだろうけど、どこで何が起こるかなんてわからないのだから。
というより、俺自身がすでに『死』を体験済みだからかもしれない。『転生者』なわけだしな。まあ、とはいえ。死んだ実感って案外、何もないものだけど。
せっかくの二度目の人生だ。今度は失敗したくない。
「わかった。じゃあ、この4人でスタートしよう」
「了解したわ。それじゃ、まずは下準備からしましょう。石版に触れるのは、町の外に出る時でしょうから、必要な資金調達と、物資調達。武器や防具など。色々と取り揃える必要がありそうね」
「ああ」
テキパキと指示をするセレス。実に頼もしい。妹はちょっと、不服そうな顔をしているが、相手が間違ったことを言っていない為、反論出来ないでいるようだ。
俺たちは、それなりの資金と高価な宝石類をまずは用意した。資金といっても、やはり持てる量に限りがあるので、いざという時は宝石類を売却して資金にした方がいいという判断だった。
装備に関してだが、軽装にするか重装備にするかで意見が割れた。妥協案として、ライトメイル……くさりかたびら等の防具を衣服の中に着用することとなった。
くさりかたびらは、斬撃に対して有効ではあるものの、『突き』に対して、めっぽう弱い。まあ、これは鎧であったところで、ひとたまりもないので、あまり変わらない意見ではあったが。これが、俺の住んでいた世界の防刃ベストだったのなら、話は別だ。突きに対しても非常に効果的な防御力を誇る。しかし、この中世をベースとしたファンタジー世界では、魔法的な概念が強い為、そこまでの防御力のある鎧はあまり存在しないといえる。
勿論、伝説級の装備とかは別だよ? そこらの市販で売っているような鎧の話だ。そもそも、購入資金もそれなりにいるしね。魔法効果の付与された防具は値段が高い。その分、防御力も高いが。レザーアーマーにするかって意見もあったんだけどね。これは、くさりかたびら……チェインメイルと併用することでかなりの防御力を得ることが可能だ。
俺は剣士ポジションだから、ある程度の重装備を要求されるわけだが、同時に俊敏さも要求されてしまう。後衛を守りながら動くには、これぐらいの装備が妥協案だろう。
よって、俺はレザーアーマーにチェインメイルを併用した装備をしている。
サリアは魔法使いなので、魔法服の下にチェインメイルを身に着けている。ユーリカも同様だ。彼女はヒーラーである。弓使いのセレスも、似たようなものだ。軽装の下にチェインメイルを身につけることにしている。
突きや打撃に弱いというのは、仕方のないことだろう。ある程度は魔法で補えるわけだし。バリアのようなものだ。つまり、色々と併用して防御力を高めようという話。
さて、旅に必要なものはある程度揃えることが出来たので、学園に戻ることにした。
石版の前には、魔法検定士の人たちが並んでおり、次々に石版に触れた人の戦力ランクを決めていた。
「準備はよろしいですか? いきますわよ!」
先頭を切って行ったのは、サリアだった。自信満々な様子。まあ、成績優秀だしな……サリアは。自信過剰なところも、多少あるが。
「では、石版に手を触れて下さい」
「わたくしの強さをとくとごらんあそばせ!」
「……はい。結構ですよ。総合評価は……Bランクですね」
「Bですって? まあ、いいでしょう」
ランクはD~LAまであり、D《見習い冒険者級》、C《冒険者級》、B《達人級》、A《聖者級》、S《英雄級》、SS《大英雄級》、SSS《勇者級》、《伝説級》、LA《神話級》となっている。
このランクに関して、最近では議論されており、同ランク内でもかなりの開きが出ているとの見解もあるらしく、細分化されるかもしれないという話がある。
ちなみにこのサリアのBランクというのは、物凄いことである。プロの兵士、騎士、魔道士などと同レベルの強さをサリアはすでに、学生の身でありながら、持ち合わせているということだ。プロの兵士であっても、Cランクの者もいることから、サリアの魔法使いとしての力量はとんでもないレベルだということがわかる。
上級生でもないのに、勝手にパーティーに入り込むのを許可されたのも、納得が行く強さだ。
続いて、セレスティアも石版に手を触れた。
「総合評価……Bランクです」
おぉ……という声が周りからも漏れた。サリアに続いて、セレスまでBランクなんて。凄いパーティーだな……後に控えている身にもなってほしい。
そして、ユーリカの出番だ。
「うぅ……緊張しますぅ」
手を触れるユーリカ。こっちも緊張してきた。これで、ユーリカまで強かったらどうしよう。俺だけDランクとかだったら、恥ずかしくてしょうがない。
「総合評価……Dランクですね」
「がーん」
あ、Dだった。うん、まあ……普通の学生はほとんどDで、たまにCがいる程度なんだけどね。これが普通だよ。逆にほっとしている。
「うぅ……足手まといですみません……」
「たしかに、彼女をパーティーとして参加させることが少し問題かもしれませんね」
「えっ」
突然、セレスがぶっこんできた。おいおい、やめて下さいよ。ユーリカ、泣いちゃうでしょ! すでに泣きそうなのに!
「貴方! ユーリカをバカにすることは許しませんわよ! わたくしにとっては、家族のようなものですもの。このぐらいのハンデ、大したことありませんわ!」
「は、ハンデぇ……」
いや、妹よ。傷口に塩塗ってるから、それ。
「エリク君はどう思いますか? Dランクの彼女を連れて行くこと自体がすでに、マイナス評価になる可能性もありますが」
え、俺に振るっ!? そこで、俺に振るの!? ちらっとユーリカの方を見ると、何かを懇願しているような……涙目で訴えかけて来ていた。はぁ……。
「……」
「なあ、セレス。むしろ足手まといをどれだけフォロー出来るか。それは重要な採点ポイントじゃないのか?」
「たしかに。それは言えますね。なるほど。逆転の発想ですか。それなら、納得です」
ふう、なんとか乗り切った……。
「足手まとい……やっぱ、そうなんだ……私って、ご主人様の足手まといなんだー……あは、あはは~……」
「あ……」
や、やっちまったぁああああああああああああっ!
「ひっく……うっ……」
いかん。完全に泣かせてしまった。
「いや、ほら。普通Dランクだし? 石版ずっと見てたけど、ほとんどの生徒がDランクだったじゃん? この二人がおかしいだけだから! 俺も今から石版に触れるから、ちょっと見ていてくれよ!」
空気に耐えきれずに、俺は石版を触りに行った。ああ、ごめんよ。ユーリカ。
そうして、俺が石版に手を触れた瞬間だった。異様な輝きを放ったのは。
「こ、これは……!」
うお。まぶし! なんだ、この光は……!?
「お、収まった……のか?」
「……」
魔法検定士の人が黙り込んでいる。ど、どうしたんだろう。え、石版の故障とかじゃないよね? 俺が壊したとか……いやいや、嘘でしょ? 冗談でしょ?
とかなんとか思っていると。
「総合評価……SSSです。こ、この人は……ゆ、《勇者級》ですっ!!」
「え?」
この発言に、周りの生徒も、先生も、すべての人が驚いていた。
「「えぇえええええええええええええっ!」」