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パッと舞い散る、紅い花

作者: サカジョー

「優香ちゃーん!行こー!」


窓の外から麻友の声が聞こえる。

「今行く!」

大声で返事をして荷物を持つ。

「行ってきます!」

お母さんの「行ってらっしゃい」の声も聞かずに道路に出る。

今日から夏休み。小学校に入ってから6年目の付き合いになる親友の麻友と一緒に川に泳ぎに行く約束をしていたのだ。


散々遊んで疲れた私たちは河原に敷いたブルーシートの上に寝転がって日向ぼっこを始める。

「明日のお祭り行く?」

「行かないって選択肢は?」

「なーい!」

笑いながら麻友は足をバタバタさせる。

明日はこの村の夏祭り。すごく小さい村だけど花火は盛大にやるおかげで、周りの街からいろんな人が来る。お父さんもお母さんも今日の昼からお祭りに向けて屋台を出す人たちを手伝いに行っているはずだ。

「今年で最後だもんねー」

寂しそうに麻友は言う。そう。私は家族と一緒にお祭りが終わったら少し離れたところにある街に引っ越すことになっていた。


「……そろそろ帰ろっか」

「うん」

ちょっと沈んだ気持ちになったけど、明日のお祭りは楽しみだ。ブルーシートを畳んで家路につく。

「ねぇ、また来年さ、夏休みだけでも、こっち来てよ!一緒に花火見よ!」

そっか、ずっと一緒じゃなくても、花火は一緒に見れるんだ。

「うん!絶対戻ってくるよ!」

「じゃあ、また明日ね!」

「バイバイ!」

私の家の前で別れて、麻友が走っていくのを見守っていた。


パッと舞い散る、紅の花


寂しそうに咲く、蒼の花


悲しそうに咲く、翠の花


私は泣きながら、打ち上がる花火を見ていた。麻友は急に来れなくなっちゃったから、1人で花火を見上げていた。

「麻友…引っ越したくないよ。ずっと一緒がいいよ…ここにずっといたい…」

1人でずっと、泣きじゃくっていた。


「優香、そろそろ行くぞ」

お父さんが部屋に呼びに来る。もうベッドもタンスも運び出されて、何も無い部屋。

「うん…」

沈んだ気持ちのまま、お父さんについて車まで歩いていく。

普通なら、景色を目に焼き付けるために窓の外を見るんだろうか。そんな気持ちにはならなかった。去年の誕生日に麻友がくれたクマのぬいぐるみを抱きしめていたら、いつの間にか眠ってしまった。




「よし」

手荷物を確認して、車の中に忘れ物がないかも確認する。

「じゃあ、行ってくる」

「がんばれよ」

送ってくれたお父さんと別れ、私は新居に足を踏み入れる。

「やっぱ、家具が違うとだいぶ変わるなぁ…」

この村から出て10年。私は大学を卒業してこの村の役場に就職することになった。

村の人たちの中で私を覚えてくれる人が思いの外多かったのは、とても嬉しかった。

賃貸住宅になっていた元我が家を借り、そこに住むことにした。

「…麻友のとこ行くか」

大学も卒業して、大人になった私を見て麻友はなんて思うだろう。小学生の頃だったから携帯なんて持ってなかった。今の麻友のお父さんもお母さんも連絡先なんて知らない。

でも麻友がいるところは、ちゃんと分かる。


「麻友、久しぶり」

麻友のお墓の前で、私はしゃがんで話しかける。麻友は10年前のあの日、私が見ている前で車にはねられて亡くなった。即死だった。叩きつけられた石の塀に飛び散った血飛沫は、紅い花火のようだった。


「私ね、ここの役場に勤めることになったんだ。戻ってくる理由作るの頑張ったんだよ?」

それから麻友に、いろんな話をした。外の街の話。向こうでの友達の話なんかも。

「そろそろ、行くね。また来る」

立ち上がって家に帰る。まだやらないといけないことはいくつもあるんだ。


「んー、こんなもんか」

家具の配置を細かく決めて、細かいところを掃除して、とやっていたら、もう外はすっかり暗くなっていた。


ピンポーン


玄関のチャイムが鳴った。

「はーい」

顔を出すと、大家さんが立っていた。

「三年前からね、春祭りでも花火上げるようになったんだよ。よかったら見に行ってな」

「あ、ありがとうございます」

玄関を閉めて台所に入ってお茶を飲む。

そういえば春祭りがいつだったか覚えてないな。そう思った時だった。


ドーン ドーン


「えっ、今日!?」

慌てて家を飛び出す。

今日なら今日と言って欲しかった。なんて思いながら10年前、いや、11年前まで麻友と一緒に花火を見ていた場所に走る。

この村に戻ってきた理由。また麻友と一緒に花火を見る。その約束を果たすため。

(今年は、一緒に見れるね)

麻友に心の中で話しかける。


慎ましく咲く蒼い花。

美しく咲く翠の花。

そして…


パッと舞い散る、紅い花

クッソお久しぶりですサカジョーです。

私の作品をここ以外に出したものも含めて読んでくれた人なら分かるかも知れませんが、私はハッピーエンドは基本的に書かない主義です。バッドエンドも同じ。終わり方がわからない話が読むのも書くのも大好きなわけで

今回の話の終りも、「紅い花」が何を指すのか、読者さんに全てお任せします。私自身も決めておりません(おい)

ではまた、何ヶ月先かは分かりませんが、会う機会があったらノシ

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