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嘘吐き探偵の魔法戦記(エストラッテ)   作者: 篠風 錬矢
第1章 アルカディア編
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生徒会長の葛藤

「何で、何でカレン会長がここにいるの!?」

「……」

僕が問い詰めると、カレンは黙ったまま俯いた。

「生徒会と戦う事は想定の範囲内です。ゲイル代理が中央棟に入ったとして、生徒会ならその記録を改竄できますから」

アリシアは淡々と言い放ち、戦闘態勢に入った。

「……君達には、本当にすまないと思っている。だが、ここで君達には倒れて貰う」

カレンが剣を抜き、その刃に水を纏った。

「……珍しい剣だね」

「分かるか?確かにこの辺りではまず見ない形状だ」

そう言うカレンの剣は、東方において刀よりも前に存在した剣に近い形状だ。

「東方において旧き神話に登場する剣に似ていますね」

「三週間前、交易商がサルベージしたそうだ。水の力を持っていたんで、私が買い取った。さて、お喋りは終わりだ」

「やめてよカレン会長!僕は君とは戦いたくない!」

「っ!そんな事分かっている、仕方の無い事なのだ!さっさと構えろ如月 真澄!」

「僕は……!」

どうみても、カレンも不本意な戦いだ。

何故、戦わなければならないのか。

「下がってて下さい、マスミ」

アリシアが前に歩み出た。

「アリシア・ライアータか……」

「カレン会長、貴女がどうしても退けないと言うのなら……ここで倒します」

「アリシア……!」

「邪魔はしないで下さいね、マスミ。〈邪閃光(イビルレーザー)〉!」

「〈水流槍(ハイドロランス)〉!」

カレンの剣先から放たれた水の槍がアリシアのレーザーを迎え撃つ。

「〈闇剣錬成(ダークソード)〉……!」

アリシアは右手に闇剣を作り、肉薄する。

「てやぁぁぁっ!」

「はぁぁぁっ!」

闇と水の斬撃が激しく交錯する。

どうして、アリシアはあそこまで躊躇い無く攻撃出来る?

……否、僕も分かっている、ただ認めたくないのだ。

やらなきゃやられる、ただそれだけの単純な理由で戦っているなどと。

「〈水魔斬(ハイドロスラッシュ)〉!」

「なっ!?」

水の一閃がアリシアの剣を破壊した。

「アリシア!」

「終わりだ!」

カレンが剣を振り降ろす。

「〈闇双剣錬成(ダークツヴァイソード)〉!」

アリシアの両手に錬成された闇剣が交差し、カレンの剣を受け止める。

カレンが目を見開いた。

「二刀使いだったのか!?」

「探偵に必要なのはあらゆる状況に対応出来る適応力です。必要だったから習得したに過ぎませんっ!」

力づくでカレンの剣を打ち払った。

「〈血餓十字刻(ブラッディクロス)〉!」

「ぐぁっ!?」

アリシアが放ったX字の斬撃を受け止めたカレンは、防御態勢のまま吹っ飛んだ。

「決めます!」

間髪は入れずに追撃を仕掛けるアリシア。

闇剣が霧散し、その魔力が右腕に集束していく。

「〈悪魔の拳(デモンズナックル)〉!」

闇の巨腕となり、カレンに向かって伸びていく。

「ぐぁぁぁぁっ!」

巨大な闇の拳はカレンを捉え、壁に叩きつけた。

「す、凄い……」

「はぁ、はぁ……やれやれです」

闇の巨腕が霧散し、アリシアが僕のところに戻ってきた。

「毎度の如くやり過ぎじゃないかな」

「今回ばかりはそんな事ありません。相手は生徒会長です、やり過ぎるくらいで丁度良いんですよ」

「今回ばかりって……やっぱ今までやり過ぎだったんじゃないか」

「あはは……」

僕が半眼でツッコむと、アリシアは目を逸らした。

「少し休んだら先に進みます」

「休むの?」

「私が消耗した状態で、ゲイル代理に勝てると思いませんので」

「あ、成程。ところで、学園長代理って強いの?」

「かなり強いですよ。何せアルカディアのナンバー2ですから」

それもそうか、ヴィロワールが行方不明である今、単騎でゲイルを倒せる者はいない。

アリシアの回復を待つのが聡明だろう。

僕は、ふと気付いた事を言ってみた。

「僕達の足元にあるこの魔方陣、アリシアの治癒魔法か何か?」

いつの間にか、足元に青い魔方陣が展開されていたのだ。

足元を確認したアリシアの顔が青ざめた。

「水の魔方陣!?間に合って下さいっ!」

「うわっ!?」

アリシアが僕に回し蹴りを叩き込み、魔方陣の外まで吹っ飛ばした。

「いきなり何をす……」

「〈激流水天嵐(タイダルストーム)〉」

直後、アリシアは巨大な水の竜巻に呑み込まれた。

「まさかっ!?」

僕がその声がした方を見ると、カレンが立っていた。

「休憩など入れずにすぐに進めば良かったものを……」

カレンが指を鳴らすと竜巻が収まり、アリシアは地面に叩きつけられた。

「かはっ……」

竜巻に斬撃の性質があったのか、全身に切り傷が出来ていた。

「アリシアっ!」

僕はアリシアに駆け寄った。

「大丈夫、致命傷じゃない。気を失っただけだ……」

「戦いはまだ終わっていないぞ、マスミ!」

「え?」

僕が振り向くと、水の槍がこちらに飛んできた。

「くぅっ!」

僕は剣を叩きつけて槍を破壊した。

「僕が、やるしか無いのか……」

僕が覚悟を決めようとしたその時、パキンと音を立てて剣が折れた。

「そん、な……」

「勝負あったな」

そう言ってカレンは跳躍し、切っ先を下に向けてこちらに急降下してきた。

「っ!」

僕はこれ以上傷つけさせまいと、アリシアを庇うように抱き締めた。

最早、これまでか。

僕は死を覚悟して目を瞑った。

「………………あれ?」

僕が目を開けると、僕の手前の地面に剣が突き立てられていた。

「……カレン会長?」

「やはり……私には出来ない……!最後まで仲間を想う姿を見せられて、トドメなど刺せるものか……!」

カレンの目には涙が浮かんでいた。

「どういう事?」

「学園長代理に……否、奴はアルカディアを護る学園長代理などではない、アルカディアを喰らう化物だ……奴に生徒会の皆を人質に取られ、彼らの命と引き換えに私は奴の駒になったんだ……!」

嗚咽混じりに告白するカレン。

「……」

「仲間を助ける為に後輩達を傷付けていては、本末転倒ではないか……すまない、本当にすまない……!」

涙を溢しながら頭を下げるカレンに、僕は同情した。

「…〈治癒の聖水(キュアネクタール)〉」

煌めく水がアリシアの傷を癒していく。

「カレン会長……」

「んっ……」

アリシアが目を覚ました。

「気がついたんだねアリシア!」

「え、えぇ……って近い近い!近いです!」

「ご、ごめん」

僕が離そうとすると、アリシアは僕の腕を掴んだ。

「私の事を庇ってくれたんですよね」

「う、うん……」

僕はつい目を逸らした。

「コホン!仲睦まじいのは良いが、人前でイチャイチャしないでくれ」

「ちっ、違うよ!?」

「そんなつもりはありません!」

「ふふっ」

必死になって弁解しようとする僕達に、カレンの頬が緩んだその時だった。

『何をしている、カレン・クトゥリアム。その二人を倒し、捕縛せよと言った筈だ』

スピーカーから響くゲイルの声。

「どうして……どうしてそのような事をせねばならないのですか!」

カレンは立ち上がって叫んだ。

『……どういうつもりだ』

「私の台詞です!この二人が何をしたというのですか!?」

『もう良い、カレン・クトゥリアム。貴様を自由にしてやろう。生徒会の連中共々な』

「本当ですか!?」

カレンが聞き返した。

同時に、僕は恐ろしく嫌な予感がした。

『本当だ。だから……後は私がやる』

「え……?」

赤。

僕の視界が赤く染まった。

鉄っぽい匂いがする、生温かい赤色。

「あ……あ……」

カレンの掠れた声を聞いて見上げると、渦巻く風が槍となってカレンの胸を貫いていた。

奥へ続く扉に穴が空いていた。

奥から、カレンに魔法を放ったのだ。

カレンが回避すれば僕達に当たるように。

「おの、れ……!」

カレンが倒れた。

『はははは!来るが良い、“(ムーン)”アリシア・ライアータ、そして“世界(ワールド)”如月 真澄!』

アナウンス越しにゲイルの哄笑が響いた。

「絶対に許さない……!」

「何て事を……!」

僕とアリシアが怒りに震えた。

「う……ぐ……」

「カレン会長!」

僕はカレンを仰向けにして抱き上げた。

「マス、ミ……君には、魔力心臓(マギアハート)が、無い……らしいな……」

「う、うん……」

何故、それを今言うのか。

「な、らば……君を、魔術師、に……」

カレンの右手が胸の大穴に沈みこんだ。

「うぐぅっ!」

「カレン会長!」

カレンは震える手で多量の血を掬い取った。

「まさかカレン会長……」

アリシアが目を見開いた。

「我が身に宿りし水魔の力よ、今こそ我が身を離れ、新たな系譜を紡ぎたまえ……!」

その血が淡い輝きを放った。

「マスミ、これを……飲むんだ……!」

「な、何言ってるのさ!?」

突然の意味不明な発言に動揺する。

「そうして下さい、マスミ。カレン会長の魔力心臓(マギアハート)を取り込むのです」

「そんな事が……!?……分かったよ、カレン会長」

僕はカレンの右手に両手を添え、口をつけて血を啜り、その手の血を飲み干した。

「うっ……血の味が……」

口いっぱいに広がり、鼻腔をも満たす血の匂いに顔をしかめていると、身体の中に何かが流れ始めたような感覚がした。

「上手く、いったようだな……」

「うん……カレン会長の水の魔力、確かに貰ったよ」

カレンが両手で僕の手を握った。

「頼むマスミ、その力でアルカディアを救ってくれ……操られた者達の過ちも、奴の陰謀もここで終わらせてくれ!」

最後の力を振り絞り、強い声で涙と共に懇願するカレン。

「うん……約束するよ」

僕も涙していたのだろう、僕が力強く頷くと同時に、カレンの顔に雫が落ちた。

「後は……頼んだぞ……」

カレンは目を閉じた。

「カレン会長ォォォォ!」

僕の慟哭が響く。

アリシアは何か決意したかのように口元を引き締めた。

「……まだ、息はありますか?」

訊かれて、僕はカレンの頸動脈に手を添えた。

「脈ならあるよ……でも凄く弱い。すぐに死んじゃうよ」

「ならばまだ手遅れではありません」

「……え?」

何を言っているのか。

心臓を貫かれて、さっきまで意識があった時点でどうかしていたが。

「私に傷をつけたのもカレン会長ですが、この治癒魔術に報いるとしましょう。消耗した私に何処まで出来るか分かりませんが……今こそお見せします、私の第二魔法体系(セカンドグリモワール)を」

カレェェェェン!

はいどうも、篠風 錬矢です。

いやー、強いですねカレンさん流石生徒会長。

さて、次回ついに“(ムーン)”の恐るべき力が明らかになります!

それでは、До свидания!

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