二つの裏切り
「うわぁっ!?」
「〈暗黒障壁〉!」
間一髪、アリシアが真上に展開した防御魔法が氷塊を防いだ。
「エリン……!?」
「……まぁ、予想はしていました」
「〈氷剣展開〉」
無数の氷の剣が出現した。
僕はエリンを観察していて、とある事に気がついた。
「アリシア、エリンに例の首輪が無いよ」
「えっ!?」
アリシアが声をあげると同時に、氷剣が襲い掛かってきた。
「〈闇爆魔砲〉」
アリシアが放った漆黒のエネルギー弾が大爆発を起こし、氷剣を消し飛ばす。
「一撃で終わらせます」
アリシアは自分が起こした黒い爆煙の中に飛び込んだ。
「アリシアっ!?」
「〈氷華吹雪〉」
激しい吹雪が吹き荒れ、爆煙を吹き飛ばす。
「くぅっ……!」
剣だけで吹雪の魔法を防御する術なんて無い僕は真っ正面から直撃を受けたが、寒いだけで大した事は無かった。
せいぜい足が凍ったくらいだ。
……足が凍った!?
「ってちょっと待ってコレは結構ヤバイ……ん?」
アリシアが既にエリンの懐に飛び込んでいた。
「……!」
「眠ってて貰いますよ……!」
まさかあの体術をエリンに使うつもりだろうか。
「〈魂喰魔掌〉」
「うっ……」
右手をエリンの胸に当てた瞬間、エリンは気絶した。
「おっと」
倒れ込んできたエリンをしっかりと抱き止めるアリシア。
「アリシア、今何したの?」
僕は剣で氷を砕きながら問う。
「魔力を精神ダメージに変換して撃ち込んだんです。普段のエリンなら耐えますが、操られているという事は精神攻撃耐性が低い状態であるという事なので」
「ところで、首輪無しでどうやってエリンを……」
グレーディアのように自分の意思で動いているようにも見えなかった。
「恐らく、高位の魔道具でしょう。遠隔式のヤツだと思います」
「成程、数が少ないのかな」
「もう生産されてませんからね……ん?」
アリシアが首を傾げた。
「どうしたの?」
「今、エリンが動いたような……」
「抱いてる君が言うならそうなんじゃないの?」
「〈魂喰魔掌〉で気絶したら暫く目を覚まさないですし、夢だって見れる程浅くないですよ」
「ふーん…………!」
確かに、エリンが微かに動いた。
否、蠢いたというべきか。
遠隔式ならば、精神防御が削りきられた今のエリンに新たな命令を与えられるのでは……!?
「アリシア、エリンから離れてっ!」
「!?」
僕は直感で叫んでいた。
アリシアがエリンを放して跳び退いたと同時に、エリンから凄まじい魔力が放出された。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
エリンが咆哮する。
「エリン!しっかりして下さい!」
「駄目だよアリシア!近付いたら危険だ!」
「でも!…………あれは……!」
エリンの足元に、水色の魔方陣が描き出されていく。
その魔方陣は“塔”を彷彿とさせるモノだった。
「この魔力量、間違いない……!」
アリシアの表情に驚愕と絶望が滲んだ。
「どうしたのアリシア!?」
「……第二魔法体系……エリンは持っていない筈なのに……まさか覚醒“させられた”……!?」
気が付くとそこには巨大な氷の塔が聳え立ち、その頂上にエリンがいた。
「どうするの、これ……」
「“氷華の塔”といったところでしょうか……エリンに本気で攻撃すれば破壊出来るでしょうが、私にエリンを傷付けるような真似は出来ません」
「かといって僕じゃ無理だよ!?」
「くっ……」
僕達が迷っている間に、塔にある無数の砲門がこちらに狙いを定めていた。
砲門に冷気が集束していく。
「……撃テ」
無機質な声と共に、氷の砲弾が斉射された。
「〈暗黒障壁〉!」
闇の防御魔法で氷弾を受けるが、少しずつひびが入っていく。
「何て攻撃力ですかコレ……」
「結構ヤバイよ、今の状況……」
砲撃を防いでも冷気が周囲に充満し、僕達の体力を奪っていく。
最も、僕達が冷気に倒れるよりも先にアリシアの魔法が破られるだろうけど。
「私の第二魔法体系なら攻略は可能ですが、消耗が激しいので切り札です。ここで使う訳にはいきません」
「でも……!」
障壁が突破されるまさにその時、覚えのある声が聞こえた。
「〈火炎流星群〉!」
「〈魔光天撃砲〉!」
輝く極大のレーザーが氷弾を蒸発させ、火の雨が塔に降り注いだ。
「アレッド!レイ!」
「無事でしたか」
アレッドとレイが此方に走ってきた。
「俺らの他に、何人か無事だ」
「私の魔法で光を屈折させて、見えなくしたから敵に見つからなかったの」
得意げに胸を張るレイ。
「そういえばそんな芸当出来ましたね」
「カレン会長は知らない?」
「すまん、生徒会役員とは一人も会わなかった。いちいち探してる余裕無いし」
「それより、この状況は何!?」
レイが塔を見上げながら言う。
再び砲門に冷気が集束していく。
「また来るよ!」
「撃テ」
僕とエリンの声が重なり、氷の砲弾が降り注ぐ。
「〈火炎放射〉!」
アレッドの右手から放たれた炎が放射状に広がり、氷弾を蒸発させていく。
「エリンが敵の支配によって覚醒させられたようです」
「そんな……アリシア達はどうするの?」
「マスミと共に召喚施設に突入して、飛竜の供給を止めようとしていたところです。連続で飛竜を召喚出来るような手練れがいるのは間違いありませんから、その戦力を叩きます」
そう、飛竜程の魔物を連続で召喚し、維持出来るのは相当強力な魔術師である証拠だ。
敵の首謀者、或いは最高戦力及びそれに近いものだと考えられる。
「ならエリンは俺らで相手をする!お前らは召喚施設へ行け!」
「私達なら大丈夫!」
砲撃が止んでいる今なら、離脱は可能だ。
「……分かりました、御武運を!行きますよマスミ!」
アリシアは少し躊躇ってから頷き、走り出した。
それもそうだろう、そう言ってエリンは敗北したのだから。
「……うん!」
僕は後ろ髪をひかれる思いでアリシアの後を追った。
「逃ガサナイ」
砲門の一部が冷気を集めながら旋回し、こちらに向いた。
「させるかよ、〈火炎球〉!」
「〈爆閃光魔弾〉!」
僕達を狙っていた砲塔が消し飛んだ。
「……お願い、どうかもってくれ……!」
…
「〈闇爆魔砲〉!」
「ぐぁぁぁぁぁっ!?」
阿鼻叫喚。
召喚施設の入り口を守っていた兵士達を奇襲攻撃で纏めて吹き飛ばした。
「……やりすぎじゃない?」
「いいえ、当然の報いです」
いつもの真顔だが、声に怒気が滲んでいた。
親友を操られた事で、腸が煮え繰り返っているのだろう。
僕が操られたとしたら、アリシアは怒ってくれるだろうか。
……今はそんな事はどうでも良い。
「僕はこの中入った事無いんだけど、構造どうなってるの?」
「ホールがあって、その奥に召喚実験室があります。いずれも広いので、敵も戦場に選んでいるでしょう」
「……成程ね」
僕もアリシアも近接戦闘が得意なので気にしていなかった(というか僕は近接戦闘専門だ)が、魔法は基本遠距離で撃ち合うモノだろう、近接戦闘を好む魔術師は少数派の筈だ。
「この奥にいるのがゲイル代理なら手間が省けるのですがね」
そう言いながらアリシアは扉を開けた。
「……やはり、君達が来たか」
「ま、こうなるだろうとは思ってましたよ」
「何で……ここに君が……!?」
ホールに待ち構えていたのは、生徒会長カレン・クトゥリアムだった。
どうも、篠風 錬矢です。
いやはや、大変な事になってきましたね。
エリンさんが敵の手に堕ちて覚醒してしまいました。
因みに、当作品は主人公視点ですので、エリン戦は描かれません!
アレッドとレイの勝利を信じてやって下さい。
次回、“生徒会長の葛藤”でお会いしましょう!
До свидания!