生徒会長と嘘吐き探偵
僕は執務室で待っていた。
「……案内役、か」
アリシアは先に帰ってしまった。始末書や依頼を処理するそうだ。
「もうすぐ来る筈だ。……っと、入れ」
扉の前に誰がいるか、気配だけで分かるようだ。当然かもしれないが、ヴィロワールは相当な凄腕に違いない。
「失礼します」
青い髪の少女が入ってきた。少し歳上に見える。
「カレン・クトゥリアム、参上しました」
「すまないな、事情は連絡した通りだ。この坊やを案内してくれ」
「了解しました」
腰に剣を提げている。案内役に抜擢したのは彼女が剣士だからだろうか。
「カレン・クトゥリアムだ。このアルカディア魔法学園の生徒会長をやっている」
違う、彼女が生徒会長だからだ。
「如月 真澄だよ。宜しく、会長さん」
「カレン、坊やは剣なら扱えるそうだ。倉庫に行った時にでも、両手持ちの剣を譲ってやってくれ」
「分かりました」
「有難うございます」
僕は一礼した。剣があれば、ただのポンコツじゃないだろう。
「礼は要らん、行け」
「失礼します」
僕達は執務室を出た。
…
「アリシアには困ったモノだ。勝手に召喚の儀式をするとは」
「まぁ、僕は大怪我してたらしいし、お陰で助かったんじゃないかな。……分からないけど」
僕の身に何があったのか、それは分からない。でも、きっと死にかけていたのだろう。なら、アリシアは命の恩人だ。
「君がそう思うのであれば良いのだがな。今歩いている中央棟には、学園長執務室の他に生徒会室と図書室がある。図書室の奥には資料室があり、重要な資料が保管されている。資料室に入る権限を持っているのは、学園長と学園長代理、そして生徒会長だけだ」
「成程、学園最強戦力のお膝元って訳だね」
資料室に侵入しようとすれば、学園長と生徒会が同時に相手になる訳だ。
「その通りだ」
…
食堂や教室、各施設を案内された。そして最後に……
「ここが倉庫だ。食料が一番倉庫、薬が二番倉庫、武器が三番倉庫、その他物資が四番倉庫だ。……む?」
一番倉庫に出入りしているオレンジ色の短髪の少年がいた。
「どうしたんだろう?」
「そこの君、何をしている!」
カレンが少年に声をかけた。
「あ、会長!シャングリラ本国から魚が届いたんで運び入れてたんすよ」
「そうか、大声を出してすまなかった」
「いえいえ」
城壁に囲まれた学園都市に、海は無い。海産物は輸入に頼らざるを得ないという事だ。
「誰っすか?ソイツ」
「編入生だ。学園内を案内していた」
「如月 真澄だよ」
「俺はアレッド・ヴォルカニクス!宜しくな」
右手を差し出してくるが……
「ん、どうした?」
「いや、その……」
「アレッド、手が汚れているぞ」
作業の途中だからだろう、手が汚れていたのだ。
「おっと、ワリィワリィ!」
「……良かったら手伝おうか?」
まだ荷車の上に木箱が沢山残っている。このまま行ってしまうのは忍びない。
「おう、助かるぜ!」
「仕方無い、私も手伝おう」
…
「ふー、意外とあっさり終わったね」
「三人がかりだったしな」
「ありがとな、マスミ、会長!」
アレッドが笑って汚れた右手を差し出す。
「……もう皆汚れてるもんね」
僕は笑ってその手を握った。
「そうだ、剣を譲るんだったな」
カレンは三番倉庫へ走っていった。
「あ、そうだった!」
「うん?」
僕は剣を譲って貰える事を思い出した。
すぐにカレンが戻ってきた。
「これを使うと良い」
手渡されたのは、手頃な重さのバスタードソードだ。両手でも片手でも扱える剣である。
「有難う、会長さん」
僕は笑顔でカレンに礼を言った。
「……私は学園長に従っただけだ」
カレンは少し目を逸らしつつそう応じた。
「今日のところはアリシアの家に行ってくれ。申し訳無いが、寮の部屋が確保出来ていないんだ」
「分かった。じゃ、色々有難ね。また明日」
「ああ」
「おう!」
僕は二人に別れを告げて学園から出た。
…
アリシアの家への道中、人だかりを見つけた。
「何だろう?」
僕は人だかりに割り込み、騒ぎの原因を見た。
そこには、三人の男性と一人の女性、そしてアリシアがいた。
「アリシア、一体何事だい?」
「あ、マスミ。丁度良い所に」
「探偵さん、どなたですか?」
女性がアリシアに訊いた。
「私の助手です。さ、初仕事ですよ」
「それは良いけど、状況を教えて?」
「彼女は魔道具店の店員です。火属性の腕輪が盗まれたそうです。それで、今日店に来ていた人を全員集めたところです」
成程、ようやく探偵らしいところを見せてくれるという訳だ。とはいえ、僕も手伝うんだろうけど。
「さて、まずは手始めに利き手を教えて下さい。“犯人は左利きだった”らしいので。ついでに属性もお願いします」
「そ………!」
女性が何か言おうとしたが、アリシアが目配せしたのを見て口をつぐんだ。
「俺は左利きだが、やっちゃいねぇぞ。俺は雷属性だからな、火属性のアイテムなんざ要らねぇよ」
ガタイの良い男性が答えた。
「僕は右利きで、属性は土です」
眼鏡をかけた男性が答えた。
「俺も右利きだぞ、属性は火だ」
太った男性が汗を拭きつつ答えた。
「火属性、怪しいですね。汗もおかきになってますし、貴方ホントは左利きなんじゃないですか?」
眼鏡の男性が太った男性を左手で指差して言った。
「利き手を偽る、ですか」
アリシアの目付きが僅かに鋭くなった。
「俺は汗っかきなんだ!」
「…ふむ」
アリシアは帽子のつばを押さえて思考を巡らせ始めた。
僕も助手として情報を整理しよう。
犯人は“火属性のアイテム”を盗んだ“左利き”。因みに属性相性だが、後に挙げる属性が有利として、火 水 雷 土 風 火となっている。また、この五属性に竜が強く、竜に光と闇が強い。また、光と闇は互いに弱点だ。
容疑者は左利きだが雷属性、右利きで土属性、右利きで火属性だ。勿論、眼鏡の男性が言ったように嘘も考慮せねばならない。
「属性を証明していただいても良いですか?」
ガタイの良い男性に言った。
「何だよ、俺を疑ってんのか?ほらよ」
左手の指先に電光が爆ぜた。
「有難うございます。ではそちらのお二人も」
「は、はい。えーっと……」
眼鏡の男性の両手に砂が集まり、石の球ができた。
「これで良いですか?」
「有難うございます。最後に太ましい貴方です」
「分かってるよ……何だ太ましいって……」
太った男性の右の掌に火球がうまれた。
「成程……確かに嘘は無いようです。では迷宮入りですね」
「えっ!?」
僕含めて全員が唖然とした。
「じゃ、じゃあ僕は帰りますね」
「俺も帰るぞ!……ったく」
「俺も帰らせて貰うぞ」
三人の男性が帰ろうとしたその時、アリシアは暗い笑みを浮かべた。
「嘘ですよ、犯人が分かりました」
どうも、篠風 錬矢です。
嘘吐き探偵の魔法戦記第3話を読んでいただき、有難うございます!
投稿時間を朝に変更しました。
理由?まぁ、夜は多分同時刻に投稿してる方が朝より多いと思ったからですかね。
さて、遂に探偵らしい事をしますね!
あくまでジャンルはバトルファンタジーなので、その辺踏まえて、生暖かい目で見てやって下さい。
それでは、До свидания!