戦う理由
「……」
アルカディアの仲間達を見送った僕達は、アリシアが示唆した可能性が杞憂である事を願っていたが、同時に的中を予想していた。
「あ、そうだ真澄君。記憶が戻ったんだよね」
「……うん」
「どうして?」
雷虎の質問の意図は僕の記憶が蘇ったキッカケが何か、という事だろう。
「……記憶を失う前と記憶を取り戻す前、最後に受けた攻撃が全く同じなんだ」
それも、“あの技” だ。
「……って事は、真澄が行方不明になる前から白夜は敵だった……そうなるな」
「うん。その精神的ダメージと肉体的ダメージが重なって記憶を失ったんだと思う」
「それで、全く同じダメージを受けて記憶が戻ったって事?」
「そういう事だと思うよ。僕は精神学なんてからきしだから何とも言えないけど」
とはいえ、恐らくそれで正しいだろう。
「……!いてっ」
龍護が起き上がった。
「ダメだよお兄ちゃん、まだ寝てないと!」
雷虎が無理矢理寝かせた。
「どうしたの?龍護」
「……白夜が来た」
「!」
龍護は人の魔力を察知する感覚が人一倍鋭い。
「表は魔龍がいるから、裏の森からだ」
「真澄君……」
「僕は……僕は……!」
「奴らの狙いは仕留め損ねたお兄ちゃんか、本命の真澄君だよ。あたしが食い止めるから何とか隠れて」
それだけ言って、雷虎は壁に立て掛けてあった小太刀を掴んで飛び出した。
「……」
……食い止めるから何とか隠れて、か。
「……龍護、雷虎が白夜に勝てると思う?」
「無理だろうな。白夜が闇の小太刀を使わなかったとしても、光の太刀を攻略するのは雷虎には難しい。ましてや白夜が二刀を使えば、勝ち目は無い。それに、だからこそ雷虎は隠れるよう言ったんだろう。自分が敗北し、突破されると踏んでな」
自分の妹が死にに行ったというのに、龍護は冷静に分析する。
「……」
「そういや、あのアリシアって女、雷虎と戦ったらしいな」
「え?あ、うん」
何故、今それを言うのだろうか。
「何故戦う事になったんだ?」
「……雷虎は、敵に洗脳されてたんだ」
「成程な。で、アリシアが戻したって訳か」
「そういう事……あれ?洗脳……?」
何かが引っ掛かる。
「フッ……なァ真澄、お前にとって戦う理由って何だ?」
「それは、敵が襲ってくるから……」
「本当にそうか?」
「え?」
……違う、今回もシャンバラも僕達の方から飛び込んでいる。
ならば、これは能動的な戦いなのだ。
能動的な戦いに理由が無ければ、それはただのバーサーカーである。
「お前は白夜に倒され逃がされ、それでも尚戦い続ける。本当は分かっているんだろ?」
「……!」
僕は思い出した。
さっきも、あの時も、白夜の声と目に覇気が無かった。
……僕に力を与え、逃がそうとした姉さんがわざわざ自分の意志で僕を狙う訳が無い!
「雷虎の一件を聞くに、敵は人を洗脳する力がある。それも、倒されれば解けるような……」
「じゃあ、やっぱり……」
……姉さんは……!
「真澄、頼みがある、聞いてくれ」
「何?」
「雷虎を……俺の妹を助けてくれないか?それに、お前にはやるべき事がある筈だからな」
「……!うん、分かった」
僕は立ち上がり、包帯や湿布などを全て剥がした。
「お、おい!?」
僕の怪我は既に完治していた。
「姉さんが僕を助ける為に託したこの力で、今度は僕が姉さんを助ける!待ってて雷虎、姉さん!」
僕は天羽々斬を掴んで部屋を飛び出した。
…
「雷虎ォっ!」
僕は裏門に駆けつけた。
「……来た」
「真澄君……どうして……!?」
雷虎が全身ボロボロの状態で白夜と対峙していた。
白夜は闇の小太刀を使っていない。
「雷虎と……姉さんを救う為に」
「え?」
「ゴメン雷虎、これは僕の戦いだ。僕は逃げちゃダメだった、僕は向かい合うべきだったんだ」
……僕じゃないと、姉さんは救えない。
「真澄君……」
「姉さんは僕が倒す。雷虎はさがってて」
僕は静かに剣を構えた。
「……」
白夜は太刀の光を解いて構えた。
「姉さん、お陰で記憶を取り戻せたよ……有難う。お礼と言っちゃなんだけど、如月の剣士として、存分に死合ってあげるよ!」
剣に水を纏わずに踏み込む。
繊細な如月流にとって、剣に魔力を纏うのは邪魔になる。
攻撃力か、正確さか……僕は正確さを選んだ。
「「如月流・初ノ型〈初月一閃〉」」
僕と白夜の神速の斬撃が激突した。
僕は即座に手首を返して逆袈裟に斬り上げるが、白夜もそれに呼応して斬撃を放つ。
回し蹴りを打ち込み、体勢を崩させて剣を振り下ろすものの、白夜は瞬時に太刀を逆手に持ち替えて受け止める。
かと思えば、逆手のまま斬撃を放ってきたので、僕は咄嗟に上体を仰け反らせて回避する。
「〈月輪散華〉!」
「〈鏡花水月〉」
僕の回転斬りを白夜はカウンターで斬り返すが、二周目の回転で反撃を防ぎ、三周目以降で白夜の太刀を弾いて白夜を浅く斬り裂く。
……〈月輪散華〉は僕の十八番って姉さんなら知っている筈だよね?洗脳で忘れたなら、ここで思い出せ!
そう、勝機はそこにある。
洗脳され、白夜本来の意志が働かないのなら、その技は本当の威力を発揮しない。
後は純粋な剣の技量と駆け引きが勝負を決める。
互いに同じ流派の使い手であるからこそ、動きを何手も先まで読みながら剣を振るう。
「凄い……これがカムイの護り手、如月の剣士同士の戦い……」
……感心してないで逃げてくれないかな?
「集中切らすのは命取り」
その声と同時に、僕の剣は真上に弾き飛ばされた。
「しまった!?」
「真澄君!」
……いや君のせいですよお姫様。
「如月流・破ノ型」
白夜が刺突の構えをとり、刀身に光を纏った。
「マズイ!」
……ホントにマズイって生け捕りにするんじゃなかったの、それ普通に死んじゃうよ!?
「〈破邪月光牙〉」
「〈双水剣錬成〉!」
アリシアの見よう見まねで水の双剣を生み出し、水剣を交差させて防御する。
「!……でも、無駄」
「うぐぐ……」
凄まじい剣圧だ。
元より、僕は白夜よりも弱い。
……それでも僕は、勝たないといけないんだ!
「真澄君っ!あたしはアリシアちゃん達の方に行くね!だから……頑張って!」
「!」
雷虎が走り去った。
……そうだ、アリシア達も戦っているんだ。僕が負ける訳にはいかない……!
「無駄」
「!」
光の太刀が水剣を破壊し、僕の胸を貫いた。
同時に、僕の足元にさっき弾かれた剣が突き立った。
「が……は……」
「……」
太刀が引き抜かれ、僕は膝を……
「まだだ……!」
つかなかった。
「……!」
「姉さん、君が僕にその力を与えたんだ……!」
破壊された水剣の水が渦巻き、水柱となって天高く伸びる。
僕の胸の風穴が即座に再生し、全身の疲労がとれた。
水柱が枝分かれして八本になり、それぞれが龍頭となった。
「……!」
「喰らえ……!〈八天水龍咆哮波〉!」
八つの龍頭が一斉に蒼いレーザーを放った。
「あぁぁぁぁぁ!?」
大爆発が起き、白夜は爆煙に包まれた。
ふぅ、今日はちゃんと投稿できましたね。佳境に見えるじゃろ?まだもうちょっと続くんじゃ




