一難去って、また一難
「うわぁぁぁぁぁぁっ!?」
船は粉微塵に消し飛んだ。
アリシアが寸前に防護魔法を展開していたお陰で致命傷は免れたが、見事に海に投げ出された。
「グワォォォォ!」
魔龍は飛び去っていった。
「皆、大丈夫!?」
僕は周りを見回すが、誰もいない。
……まさか全員泳げないの!?
僕は海中に潜り、状況を確認した。
「!」
船の残骸が皆の浮上を阻害しているのだ。
おまけに、一番前で強力な防護魔法を使ったアリシアに至っては気絶している。
レイは見た感じ泳げないようだ。
アリシアとレイ以外は竜属性に相性が悪いせいでダメージが大きいのだろう、船の残骸を突破出来ずにいた。
というか、エリンもカナヅチに見える。
アレッドに捕まっているが、アレッドも水中では魔法を使えない。
「ぷはっ!」
僕は一旦息を継ぐ為に海面に顔を出した。
「このままじゃ皆溺れちゃうよ……」
僕は水の魔力に守られているので、水が助けてくれている。
エリンも水の魔力がある筈だが、本人がカナヅチじゃ水だって助けようが無い。
「兎に角、皆を助けないと!」
……最優先はアリシアだ、一番状態がヤバい。
僕は息を深く吸い込み、再び海中に潜った。
水流を纏い、それをアクセルに深く潜る。
途中アレッドと目が合った。
「!」
「……!」
僕はアイコンタクトでアリシアを優先すると伝えようとすると、アレッドもアリシアの状況を把握したらしく、頷いてくれた。
……アリシア、すぐに助ける!
更に加速してアリシアに追いつき、アリシアを抱きかかえた。
その直後、ゴンと鈍い音がした。
「うぐっ!?」
僕の後頭部に船の残骸が直撃したようだ。
……ヤバッ、今ので息が……!
絶体絶命のこの状況、どうすれば良い。
水を操る力が必要だ、僕のレベルを超えた強大な水の力が。
そんな都合の良い力は……
「!」
あった。
……お願い、力が僕の中にあるのなら、僕にそれを使う能力があるのなら、力を使わせてくれ!僕達はここで死ぬ訳にはいかない、カムイを救わなきゃいけない……その前に、僕は仲間達を助けたいんだ!だから力を貸してくれ……“八岐大蛇”!
「…………!」
心の中で祈りと共に叫んだその時、僕の周囲の水が光輝き、その光が僕の剣に集まっていく。
……応えてくれた……?
光が伸びて二つに分裂し、それぞれがまた二つに、更にまた二つにと分かれていき、最終的に八本になった。
……“幻想の世界”の名に於いて命ず……皆を助けて!
心の中で命じた瞬間、八つの光の先端が龍頭となり、それぞれが僕達全員に巻きつき、残り二つが僕達を纏めて引っ張っていく。
「ぶはぁっ!ゲホッゲホッ!」
僕達を軽い為に海面に浮かんでいた船の残骸の一部に掴まった。
「はぁ、はぁ……」
「マスミ、さっきのは……!?」
「ああ、アレは多分……あれ?」
アレッドに訊かれ、説明しようとすると、輝く水の龍頭は既に消滅していた。
「……間違い無く、八岐大蛇の力の一部だね。記憶も無いのに力を借りようとするなんて、随分と分の悪い賭けをしたね?」
雷虎が息を切らしながら笑った。
確かに一か八かではあったが、まぁ成功したから問題無いだろう。
「お陰で助かったぜ、有難な」
「はは……皆を助けたいから力を貸してってお願いしたんだよ。八岐大蛇が応えてくれて良かったよ」
話せるのは僕とアレッドと雷虎だけのようだ。
エリンとレイはまだ息が整っておらず、アリシアは気絶したままだ。
「……で、こっからカムイまで泳ぐのか……?」
アレッドが軽く絶望した顔でぼやいた。
「いや、そう悲観しなくても良いよ。ほら」
雷虎が指差した先に、陸が見えていた。
「あそこが……」
「そ、敵の本拠地にして真澄君とあたしの故郷、カムイ帝国だよ。おまけに、如月村まですぐの浜辺かな?西側だし」
……僕の、故郷。
それだけで、期待と不安が入り交じる。
「……行こう」
僕達は船の残骸に掴まったままばた足をして、陸を目指して泳ぎ始めた。
…
暫くすると、アリシアが目を覚ました。
「はっ!こ、ここは何処ですか?」
「三途の川だよ?」
「マジですか」
「嘘だよ」
辺りを見回すアリシアに、雷虎が応じる。
……どっかで見た気がするんだけどこんなやり取り。
「川っていうか海よね」
「私達、船ごと吹っ飛ばされたんだよ」
喋れるようになったエリンとレイがざっくり説明した。
「……そうですか。マスミが……」
「まぁ……同じ事を次出来るか分かんないけどね」
「それは仕方無い事です。マスミ、有難うございます」
「別にお礼は良いよ。あの時どうにか出来なかったら僕だって溺れてたし、そもそもアリシアが防護魔法使ってなかったら僕達今頃海の藻屑だよ?」
そう、いずれにしろアリシアの機転と防護魔法が無ければ僕達は既にゲームオーバーだった。
「だから、寧ろお礼を言うのは僕達だよ。ね?」
そう言って僕が皆の顔を見ると、皆頷いた。
「……別に嬉しくないですから」
アリシアはそっぽを向いたが、耳が赤くなっている。
時折アリシアを抱き締めてみたくなるが、今はそんな事やってる場合じゃない。
「さ、アリシアも起きたしラストスパートだよ!」
「おー!」
僕は皆に激を飛ばし、再び陸を目指して進み出した。
…
「お、足がつくぞ」
「!」
アレッドの声を合図に、僕達は船の残骸を手放した。
「上陸……です」
僕達は砂浜に上がった。
全員長時間に渡って海水に浸かっていたせいで、満身創痍だ。
まずは全員、深呼吸して息を整える。
「それでアリシア、これからどうすんだ?」
アレッドがアリシアに問う。
「そうですね、休めるところを探しましょう。ライコ、心当たりはありませんか?」
「そうだねぇ……っ!」
突如、雷虎が小太刀を抜いた。
「どうするもこうするも、お前らはここで終わりだろう?」
「!」
ガッシリした体格で紫色の髪の青年が三十人余りの兵士を連れて現れた。
その中に一人、右腕が無い兵士もいた。
……ビジョンの中で見た顔だ。
「はぁー……こんな疲れてる時に来なくても。今日は厄日ですかね」
アリシアがぼやいた。
「“世界”……!」
隻腕の兵士は、僕の顔を見るなり親の仇でも見つけたかのように殺気立てた。
「え、僕?」
「貴様が斬り落とした私の右腕……忘れたとは言わさんぞ!」
「ゴメン忘れた」
「え?」
隻腕の兵士は一瞬呆気に取られ、直後に顔が怒りに染まる。
「貴様ァー!」
「ゴメンって。僕記憶喪失なんだよ!多分君達のせいで」
「問答無用!かかれェー!」
「おー!」
隻腕の兵士の号令で、兵士達が一斉に襲いかかってきた。
「……」
紫色の髪の青年は、兵士達に任せて見物を決め込んでいる。
「構えて下さい、突破しますよ!」
「了解!」
疲れきった身体に鞭打ち、兵士達を迎え撃つ。
「はっ!」
「ぐぁっ!?」
アリシアが兵士を蹴り飛ばす。
魔力を節約する為に、体術で戦うようだ。
「おらぁっ!」
アレッドも同様に、兵士を素手で殴り倒す。
「〈不可視の光陰〉!」
「消えた!?姿を現ぐほぉっ!」
……えげつない……。
レイは体術が不得手なので、姿を消して一方的に叩くつもりらしい。
「……触らないで」
エリンは氷塊を展開し、器用に操って兵士達の頭に叩き込んでいく。
「あたし達の故郷に……土足で踏み入るな!」
雷虎は電気を纏った小太刀で兵士達を一撃で斬り伏せていく。
……さて、僕は……。
剣を構え、隻腕の兵士を見据えた。
「来なよ」
「何処までも忌々しい小僧がァっ!」
左手で槍を構え、突っ込んできた。
……君達がいつも変わらず“囲む”戦法を選ぶから、君達と戦う度に僕の記憶が刺激されるのを感じるんだ……今も。
「だから少しだけ、思い出せた技を見せてあげるよ」
……ビジョンが無くても本能が教えてくれる、今この瞬間の最適解を。
疲労を捩じ伏せ、意識を極限まで研ぎ澄ます。
「如月流・鏡ノ型……」
心は月すら映す鏡のように凪いだ水面の如く静かに。
隻腕の兵士の槍の穂先が僕の剣に触れた瞬間、僕は動いた。
「〈鏡花水月〉」
「な……に……!?」
隻腕の兵士は倒れた。
「貴様、よくもー!」
「一度ならぬ二度までも!」
兵士達が襲いかかってきた。
……もう何度目かな、このシチュエーションは。
「如月流・散ノ型〈月輪散華〉」
銀の斬閃が月の輪の如き真円を描き、舞い散る鮮血は華の如く。
「はぁ、はぁ……くぅっ!?」
兵士達全員を一撃で斬り伏せた僕は、凄まじい頭痛に襲われた。
僕の本来の剣技に触発され、記憶が蘇ろうとしているのだろう。
……でも、まだ足りない……僕が記憶を失った原因の最たるモノが何なのか……。
「ククッ……」
と、紫色の髪の青年が薄く嗤った。
「何がおかしいのですか?」
皆も兵士達を片付けたのだろう、アリシアが訝む。
「いやー、まさか泳いできて満身創痍なのに五倍以上の人数を一方的に負かすとは思ってなかったぜ。やっぱ、如月流の使い手は如月流の使い手じゃねぇと止めらんねぇみたいだぜ?」
「……え……?」
僕達がその言葉が意味を推し量るよりも早く、光と闇の斬閃に貫かれた。
「〈終演如月乱舞〉」
凛とした声が聞こえたと同時に、僕達は膝をついて倒れた。
……そうだ、これだ……この痛みと絶望だ……!
「何……で……」
雷虎が呻いた。
「……」
僕達を一撃で全滅させたその少女、如月 白夜は無機質な瞳で僕達を見下ろしていた。
日曜日は、八時に起きて仮面ライダーとプリキュア見るんですよ。それで、その後外出してですね……すいませんでしたァ!今夜はしっかり投稿します。




