アルカディア魔法学園へようこそ
「さて、ここが何処かという質問ですが……此処は“学園都市 アルカディア”、“シャングリラ公国”に属する都市です」
そう言えば、僕の最初の質問は『此処は何処』だった。
学園都市は国の領内に存在するが、円形の城壁に囲まれている。となると、ここは西洋のシャングリラ領らしい。
「学園都市……じゃあ、アリシアは学生なの?」
「いいえ、アルカディアの講師です」
「えっ、マジで!?」
「嘘です」
……またか。
「あのさ、アリシアって嘘吐きだよね?本当に探偵なの?」
「そこは誓って本当です。一昨日は迷子の子猫を見つけました」
それは探偵じゃなくても出来るだろう、僕でも出来そうだ。
「ショボい……」
「まぁ、嘘です。ちょっとした謙遜です、本当は強盗を捕まえました」
「えっ」
「そんな事より、これからどうするんですか?」
何だか凄い事言ってた気がするけど、本人が流すならそうしよう。
「……じゃあ協力をお願いするよ、僕が役に立つか分からないけど」
「交渉成立ですね、では早速行きましょうか」
そう言ってアリシアは立ち上がった。
「行くって、何処に?」
「決まってるじゃないですか」
アリシアは窓の外に見える要塞のような建物を指差した。
「アルカディア魔法学園ですよ」
…
僕達は街に出た。
この都市は学園を中心に8区画に分けられていて、アリシアの家は商業が中心である南東の区画にあった。
魔法の属性は火 水 雷 土 風 光 闇 竜の8つ。
それに準えたそうだ。
因みに、南東は風の“シルフ区”らしい。
「何で学園に行くの?」
「編入手続きの為ですよ」
「……編入だって?自分の使える魔法も分からないって言ったよね、魔法学園に入ったところで何も出来ないよ」
「私の家にずっといるつもりですか?今日は週末なので事務所に帰ってましたけど、私も基本寮ですよ。それに、何か手掛かりやキッカケがあるかもしれないじゃないですか」
確かに、色んな人や魔法を見れば、何か掴めるかもしれない。
「……そうだね、分かった」
僕達は週末に賑わう商業区画を歩き、学園に向かった。
…
正門の前に、衛兵が立っている。
「お疲れ様です、学園長に急用があって来ました」
そう言いながら生徒手帳を見せた。
「どうぞ」
衛兵が門を開けた。僕達は一礼して敷地内に入る。
「毎度学生証を見せなきゃいけないの?」
「基本寮ですので、必要ありません。当然寮は敷地内にありますからね」
「それもそうか」
目に入った施設等の軽い説明を聞きながら僕達は中央棟を目指す。
召喚用施設、戦闘訓練場、武器倉庫等があるようだ。
「週末だっていうのに、結構人いるんだね」
遊んでいたり、鍛練していたり、様々な学生がいた。
「……寮から帰らなかった人達ですね。彼らは暇なんです」
「ふーん」
「アリシアーっ!」
「あっ……」
「誰?」
金髪の少女が笑顔で駆け寄ってくる。
「週末にここにいるなんて珍しいじゃん!」
「……急用ですよ」
「誰、この男の子。彼氏でも出来たのかな?」
「はい」
「違うよ!?」
こんな嘘吐きと付き合うのは嫌だ。
「レイ・ニルヴァレンだよ!貴方は?」
「如月 真澄だよ、宜しく」
「えぇ宜しく!」
レイが右手を差し出したので、僕はその手をとって握手をした。
「レイはアリシアの友達?」
「そうだよ、大親友なんだk」
「そんな事はありません」
「またまた~、アリシアったらそんな嘘吐いて」
レイがアリシアの腕に抱きついた。
「やめて下さい」
無情に振りほどく。
「レイ、私達は学園長に用があるのです」
アリシアが呆れたように言ったその時、上から無数の氷塊が降ってきた。
「ちょ、何これ何これ!?」
「〈爆閃光魔弾〉!」
レイが放った光弾は空中で爆発し、氷塊を消し飛ばした。
「危ないじゃないの、エリン!」
レイが叫んだ方向を見ると、水色の髪の少女がいた。
「……アリシアにまとわりつく虫を潰そうとしただけよ」
エリンと呼ばれた少女は淡々と応じた。
「アリシア、あの子は?」
「エリン・クリスタル、彼女が私の親友です。クールでよく私の為に行動してくれるんですが、思い込みが激しい上にやり過ぎるタイプです」
「……何かよく分かった気がするよ」
「アリシアの隣の貴方、今すぐアリシアから離れなさい」
エリンが僕に冷たく言った。
「違いますよ、エリン。マスミは私のお客さんですよ」
「……どういう事?」
エリンが首を傾げたので、アリシアと僕はエリンとレイに事情を話した。
「……勝手に使い魔と契約するのは禁止されてる筈だけど」
「ちょっと待ってエリン今何て言った?」
「だから、勝手に使い魔と契約するのは禁止されてるって」
「……ねぇ、アリシア」
僕はアリシアを白い目で見た。
「失礼ですね、許可は取りましたよ」
「……嘘。ならどうして学園の施設を使わなかったの」
エリンが瞬時に看破した。
成程、確かにアリシアの友達だ。
「……とにかく、それも含めて学園長のところに行くんですよ。行きますよマスミ!」
「ちょっと!?」
「ばいばーい」
「……また」
レイとエリンに見送られ、僕は引っ張られていった。
…
「ここです」
アリシアが扉の前で立ち止まった。
『入れ』
中から女性の声が聞こえた。
「失礼します」
僕達は扉を開けた。
「珍しいな、君が週末にここに来るとは。その坊やが絡んでいるんだな?」
赤い髪の美女が赤い目を細めた。
その全てを見透かすような眼差しに僕は寒気がした。
「はい。実は…………」
アリシアが事情を話した。
「成程な。まずアリシア、君には始末書を書いて貰うぞ」
「はい……」
「そしてマスミ、これも何かの縁だ。君の編入を許可する」
「有難うございます!」
「私はヴィロワール・アルカディア、この学園と都市を統括している」
アルカディア……その名が意味する事は一つ。この学園都市の創設者の子孫という事だ。
「アリシア、君はもう下がれ。明日、始末書を持ってこい」
「分かりました、失礼します」
アリシアは出ていった。
僕をこの威圧感溢れる人と二人きりにしないで欲しかった。
「えーっと……」
「さて、君は魔法を使えないそうだな」
「はい」
「魔法というより、魔力そのものを感じないな。魔力をそもそも持っていないという事だ」
「そうみたいですね」
「魔力とは、心臓を満たす血にその根源があり、血液と共に全身に供給される。つまり、君にはその回路が存在しない事になる」
魔力を持っていても、扱えるかは人それぞれだ。
だから僕には才能が無いだけだと思っていたが、もっと根本的な問題らしい。
「そんな人間は初めて見た。属性は基本親から継承するものだからな……剣術はどうだ?」
そう言って、彼女は壁に掛けてあった剣を僕に放った。
「っと」
僕はキャッチし、両手で構えた。左足を半歩下げ、剣を自分の中央に合わせる。所謂、“正眼の構え”だ。
「成程、その構えは確かに東洋の型だ。となると、君が東洋人というのは間違いではないだろう」
「……そうみたいですね」
僕は構えを解いて剣を執務机に置いた。
「案内役を用意する。今日中に学園の地図を頭に叩き込め」
微笑を浮かべ、無理難題を吹っ掛けてきた。
彼女が統括する学園で暮らす事になった僕。
一体どうなるんだろう……。
どうも、篠風 錬矢です。
まだなろう初心者故、至らない部分が多くあります。
投稿作業で盛大なミスをした為、再投稿させていただきました。