散りし氷華、闇月の逆鱗
「二度は無いと思いたいところだけど……そうもいかないみたいだね。どんだけ頑丈なのさ……」
フリードが再び起き上がったのだ。
「はぁ、はぁ……おのれ……」
「……仕方無い、やっぱり致命傷狙うしか無いか」
僕が剣を構え直したその時、勢い良く扉が開いた。
「はべぇ!?」
扉が隠れていたレイに直撃し、レイが真横に吹っ飛んだ。
「何!?」
僕は入り口を見た。
……まさか敵の増援が来た!?
「遅くなったわね」
「真打ちは遅れてやってくるのですよ」
エリンとアリシアだ。
流石に無傷ではないようだが。
「アリシア、エリン!」
「貴様ら……プラムはどうした!?」
「ああ、彼女ですか?大して強くなかったので捕獲しましたが……」
「勝手に死んだのよ、突然ね」
捕虜にされるのを避ける為の呪いのようなモノだろう。
「あれ?レイがいませんね」
「さっき扉に吹っ飛ばされたよ……」
「あらほんと」
レイが扉の脇に転がっていた。
「さて、これで三対一ですね」
アリシアが勝ち誇ったように微笑んだ。
「そうだな、どうやら俺もここまでのようだ。“世界”……いや、如月 真澄。貴様のその力はな、使いようによっては世界を支配するに足る力だ。至高の第二魔法体系……その名は、“幻想の世界”」
「世界を支配するに足る力……!?」
僕達は驚愕した。
……そんな力が、僕に眠っているのか。
「どう使うのか、貴様で考えてみるが良い。さらばだ」
フリードは窓を叩き割り、飛び降りた。
「なっ!?」
「……エリン、氷魔法に飛行の魔術ってありましたっけ」
「無いわ。高いところから落ちたらまず助からない」
プラムが突然死んだ事といい、彼らは負けたら死ぬのだろう。
だからフリードは呪いに殺される前に自ら死を選んだのだ。
「……とにかく、一度撤退しましょう。マスミ、レイを運んでやって下さい」
「分かった」
僕はレイを抱き上げた。
「……お姫様抱っこ、ですか」
「な、何……?」
「何でもありません」
アリシアがそっぽを向いてしまった。
……妬いてるのかな?まぁ良いや。
一度帰ろうと思ったその時だった。
「グガァァァァ!」
飛竜の咆哮が轟いた。
「今の……シルフィンの飛竜ではありません」
「新手の敵かしら」
僕達は凄まじく嫌な予感がして、外を見た。
「こ、これは……」
夥しい数の飛竜や魔物が空を覆っていた。
こんな数何処から出てきたのか……いや、そんな事よりも……
「アレッド達が危ない!」
僕達は慌てて城を飛び出した。
…
「恐らく、アルカディア同様に召喚施設をジャックして魔物達を呼び寄せたのでしょう。おまけに……」
「グルァァァァ!」
狼のような魔物が飛び掛かってきた。
しかし、アリシアは事も無げに闇剣で首を飛ばす。
「狂乱しています……これは最早、支配目的ではなく敗北が確定した故の悪足掻きですね」
「とんでもない置き土産をしてくれたもんだね……〈激流水天嵐〉!」
巨大な渦が前方の魔物達を吹き飛ばし、道を拓いた。
……レイを抱えてるから剣を使った技が使えない。
「あら?」
エリンが何かに気付いたようだ。
「!アレッド、シルフィン!」
拓けた道の先にいた。
随分消耗しているようで、これ以上は戦えないだろう。
シルフィンの飛竜に至っては満身創痍だ。
「よぉ、マスミ!」
「無事でしたか」
二人もこちらに気付いた。
「うん、そっちは大丈夫?」
「まぁな。だがこれ以上は無理だな」
アレッドが肩を竦めた。
「お二人の殲滅力をアテにしてたのですが、まぁ良いでしょう。一度撤退し、態勢を整えます」
アリシアが唇を噛んで言った。
……それでは市民が危ない、ここで奴らを倒さないと。
そう思ったが、きっと誰もが同じように意見だ。
しかし、このまま残っても勝算は低いのだ。
それでは、救えるモノも救えなくなる。
「分かったわ、なら私が殿を務めるわ」
「エリン……」
「大丈夫よ、アルカディアの時のようにはいかないわ」
エリンの足元に“塔”を彷彿とさせる魔方陣が展開された。
「エリン、それってまさか……!」
「ええ、あれから習得したのよ。さて……我は凍える吹雪の魔女、全てを凍てつかせんとする者。今こそ其の力を以て愚かなる贄を冷たき永久の眠りへ誘わん。顕現せよ、氷の天罰を下す摩天楼“氷華の塔”!」
エリンの足元から、巨大な塔が現れた。
聳え立つそれはまさに氷の要塞、エリンは氷の指揮官といったところだろうか。
「グガァァァァ!」
魔物達がエリンに狙いを定め、襲いかかっていくが……
「無駄よ」
塔に搭載された氷の砲身から放たれた氷弾が弾幕を形成し、敵を寄せ付けない。
「アリシア達に手出しはさせない、纏めて私が相手してやるわ」
氷弾や氷剣、吹雪が魔物達をいとも容易く殲滅していく。
「……エリン一人では撤退が困難になります」
「じゃあアリシアと僕は残ろうよ。シルフィン、レイを飛竜に乗せてあげてくれる?」
「良いですよ」
「グルル」
シルフィンと飛竜の許しをいただいたので、レイを飛竜に乗せた。
「それでは、後程ザ・キープで合流しましょう」
「はい、それではお先に失礼します」
「二人とも、気を付けろよ!」
シルフィンとアレッドは門に向かって走り、飛竜もそれに続く。
「さて、氷の指揮官様の護衛をしますか」
…
「魔物の数も減ってきたね」
「そうですね、全部エリンがやってる訳ですが。エリーン!魔力は大丈夫ですかー!?」
アリシアが塔の上に叫んだ。
「大丈夫よー」
上から声が降ってきた。
……まぁ、大丈夫というなら大丈夫なのだろう。
と、一安心した直後だった。
耳をつんざく轟音と、焼けるような閃光が辺りを包んだ。
塔に雷が落ちたと認識するまで、数秒の時間を要した。
「エリィィィィン!」
僕とアリシアの叫びを合図にしたかのように、“氷華の塔”が崩壊し始めた。
氷塊と共にエリンが落ちてくる。
……ここままだと僕達は下敷き、エリンも助からない!
「私が氷を砕きます、マスミは水でクッションを作ってエリンを受け止めて下さい!〈闇剣展開!〉」
無数の闇剣を生成し、氷塊に向かって射出する。
「えーっと……こうかな?」
剣先に水を集め、ボールを作る。
……もっとだ、もっと大きく!
人を受け止められる大きさにまで肥大化した。
そうこうしてる内に、気を失ったエリンが落ちてきた。
水球で衝撃を殺し、両手で受け止めた。
「エリン、大丈夫!?」
気を失ってるだけで息はある、氷が盾になったようだ。
「よかった……」
……でも、あんな雷何処から……?
「あーあ、死んでないのか」
「!?」
金髪に黒髪が混ざった少女が歩いてきた。
「君は……?」
「あたしは神威 雷虎、宜しくね」
……カムイって何処かで聞いたような……?
「貴女がやったんですか?」
「うん、敵を排除しただけだよ。まさか耐えるとは思ってなかったけど」
「そう、ですか……」
アリシアが帽子を脱いで、投げ捨てた。
「貴女は私に八百個しかない地雷の一つを踏みました」
「多くないかなそれ……」
雷虎は半眼でツッコんだ。
……多いどころか足の踏み場も無い地雷原だよ。
「黙りなさい。よって極刑です、この世の地獄を見せてあげましょう」
そう言ってアリシアはバレッタで纏めていた髪を解いた。
どうも、篠風 錬矢です!
アリシアがブチギレましたね。
雷虎ちゃんが登場早々ギッタギタにされる予感。
では、また次回お会いしましょう!
До свидания!