死闘、絶対零度の男
僕達は最上階の広間を目指す。
このシャンバラで唯一、都市全体を見渡す事が出来る場所らしい。
相手はアリシアの策略にかかってはいるが、つまり定石を分かっている……それならば、そんな絶好の場所にいない筈が無い。
……まぁ、これもアリシアが言った事なんだけどね。
「……ここだね」
僕達の目の前には大きな扉があった。
「うん。気付いてると思うけど、〈不可視の光陰〉発動中は攻撃出来ないから、解除するよ」
隠蔽魔術が解除され、僕達の姿が見えるようになった。
「行くよ、レイ!」
「うん!」
僕達は同時に扉を蹴り開けた。
「!……ほう、貴様が来たか……“世界”!」
白い髪の若い男性がいた。
その右手には小振りの斧が握られている。
……氷属性なのに近接戦闘タイプ、ならば僕が近接戦に持ち込んでレイが不意打ちで倒すのが良いだろう。
「また“世界”か……!」
「いい加減なんなの!?」
「ふむ、記憶を失っているとは本当のようだな。だが、我々にとって価値があるのは貴様のその力だけであって、それ以上でもそれ以下でも無い」
男は眉一つ動かさずに淡々と言い放った。
……僕のただ一つの価値が、“世界”。
「……けるな」
「マスミ?」
「ふざけるな!僕は如月 真澄だ!君達悪党なんかが、僕の価値を決めるなっ!〈水流槍〉!」
僕は激昂し、水の槍を四本同時に放つ。
「無駄だ」
男は斧が冷気を纏って振るい、水の槍を凍らせ砕く。
「記憶を失って尚、空虚に非ず…か。良いだろう、俺の名はフリード・スライ。貴様の価値とやらを見せてみろ」
フリードが斧を構えた。
「上等っ!」
僕は剣に水を纏い、斬りかかる。
……僕の価値とやら、そんなモノ見せてあげられる訳が無いじゃないか、それを一番知りたいのは僕の方なんだからさ。
だから僕に出来る事はただ一つ、感じるままに剣を振るって戦うだけだ。
「やぁぁぁっ!」
「はぁっ!」
僕の剣とフリードの斧が激しく交錯する。
「どいつもこいつもなんなのさ!僕の事を“世界”って!」
「むぅ……!」
フリードの斧捌きは確かだ、しかし僕の方が一手先を行く。
僕の方が戦意が高いのだ、主導権は攻撃側にアリとはよく言ったモノである。
「君達が僕を利用しようとしているのは目に見えている!だったら利用方法くらい教えてくれても良いじゃないか!〈水魔斬・燕返し〉!」
斬撃を放ち、直後に手首を返して斬り上げる。
僕なりにアレンジを加えたのだ。
「ぐはぁっ!?」
フリードを逆袈裟に切り裂いた。
続いて圧縮しつつ纏っていた水が爆裂し、フリードの身体を吹き飛ばして壁に叩きつけた。
「くっ……」
その瞬間、僕達が斬り合っている間に透明化していたレイがフリードの目の前に現れた。
「〈極大魔光天撃砲〉!」
「!?」
レイの至近距離での最大火力がフリードを襲う。
「うわっ!」
目を焼くような凄絶な光に、僕は思わず目を瞑った。
パリン、と何かが割れる音が聞こえた。
こんな大魔法を至近距離で浴びて、ただで済む筈が無い。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
レイが僕の隣に戻ってきた。
「これで戦闘不能、捕獲しよう」
「待ってマスミ……私見たの」
「何を?」
「……フリードが防御魔術を展開するとこ」
「何だって!?」
……なら、あの音は……!
「クク……見事だ……」
フリードが起き上がった。
「俺のシールドを破るとは……!」
成程、確かに全身にダメージを受けているようだ。
防御魔術越しにコレだ、直撃していたら即死だっただろう。
「やっぱ耐えてたか……でも、貴方は私の全力を止めきれないようだね」
「問題無い、あの大魔法はそう連発出来るモノでも無いだろう?次が来る前に決着をつければ良いだけだ……本気で行くぞ」
斧が凍りついていき、巨大な氷刃となった。
「これは……!」
「安心しろ、殺しはしない……まぁ、貴様が勝手に死んだらそれまでだがな。〈吹雪の戦斧〉」
フリードが床に斧を振り降ろした。
タイルが砕け散り、その余波が吹雪となって僕達に襲いかかる。
「うぁっ!?」
「きゃあっ!」
威力がエリンの吹雪とは格が違う。
「〈砕氷の剛撃〉」
「っ!?」
フリードはその隙にレイに肉薄し、斧を叩きつけた。
氷の刃は粉々に砕け、 その欠片一つ一つが刃となってレイを切り裂く。
「トドメだ」
首を狙って斧を振りかぶった。
「させるかァーっ!」
僕は圧縮した水を足元で爆発させ、一気に加速する。
「むっ!?」
間一髪、レイとフリードの間に割り込んで斧を剣で受け止めた。
「レイ、下がって!」
「う、うん……〈光陰隠密の霊盾〉」
レイは下がって姿を隠した。
……うん、戦闘不能までもってかれたレイを狙われたら危なかったからね、賢明な判断だ。
「結局、一騎討ちとなったな」
「そうだね……これで思いっきりやれるよ」
「何をぉぐぅっ!?」
僕の膝がフリードの股間を打ち上げていた。
「き……貴様……!」
「悪いね、僕に騎士道精神なんてモノは無いんだよ」
……っていうか、こうでもしないと勝てる気がしない。
「てやぁっ!」
「くぅっ!」
僕はフリードの斧を弾き飛ばした。
「これで……」
足に水を圧縮させ、爆発。
「終わりだ!」
凄まじい速度のハイキックが、フリードのこめかみを捉えた。
「ごはっ……!?」
フリードは真横に吹き飛び、再び壁に叩きつけられた。
「流石に倒れてくれるよね……」
はい、どうも篠風 錬矢です!
20時に忘れてましたごめんなさい!
Twitterの方で、デフォルメですがキャラデザを公開しております。
それでは、また次回お会いしましょう!
До свидания!