アルカディア代表騎士団
あれから一週間が経った。
エリンが無事退院したので、僕達は五人でカレンのお見舞いに行く事にした。
魔力心臓を失った影響か、どうにも回復が遅いらしい。
アリシアが病室の扉をノックした。
「カレン会長、アリシアと他四人です」
「待ってアリシア、それはあんまりだよ」
「私達はその他扱い……」
「私も活躍したんだけどなぁ」
「俺も結構死に目に遭ったというのに……」
僕達他四人は、それぞれ抗議した。
「入ってくれ」
「失礼します」
中からカレンの声が聞こえたので、僕達は病室に入った。
「よく来てくれたな、皆」
「いえ。それより、容態は如何ですか?」
「ああ、回復が遅いだけで別にどうという事は無い。魔術師でなければこのくらいが普通なんだろう」
「カレン会長、えっと……」
僕はどう言って良いか分からず、言葉を詰まらせた。
「別に返さなくても良いし、その剣も君に譲ろう」
「え!?」
僕達は驚いた。
生徒会長たるカレンが、自ら魔術師である事を捨てると思っていなかったのだ。
おまけに剣も譲ってくれるという。
僕は魔力心臓も剣も返すつもりで来たのだ。
「え、でもカレン会長……」
「分かっている、魔術師じゃなくなった私が生徒会長でいられる筈が無い……それを心配しているのだろう?」
「はい」
アリシアも僕と考えは同じだったのだ。
「私は元よりそのつもりだったからな」
カレンが達観したように窓の外に目を向けた。
釣られて僕達も外を見ると、復興作業真っ只中の学園が見えた。
「生徒会役員の為とはいえ、敵に屈し、手を貸した私に生徒会長の資格は無い。生徒の会の長なのだからな」
つまり、責任を取って生徒会長を辞任するという事だ。
「それなら、誰に代わりが務まるんすか」
「そうだよ、学園長だって代わりがいないから辞めようとしてないんだよ?」
アレッドとレイが僕達の気持ちを代弁した。
しかし、カレンは自嘲気味に笑った。
「ふっ、私の代わりなどいくらでもいる……学園長を私なんかの比較対象にするんじゃない」
そう言いながら、カレンは僕を指差した。
「な、何?」
「私の代わりなら、適任がここにいるじゃないか」
ここって何処か。
それは勿論此処だ。
何故カレンは僕を指差しているのか。
それが意味する事は一つ。
「ええええええ!?」
僕は腰を抜かしかけた。
「良いですね」
「アリシアまで!?」
「アリシアが賛成するなら私も賛成するわ」
この百合雪女!
「面白そうだね!」
面白くねぇよ脳内お天気娘!
「良いじゃねぇか、なぁマスミ?」
良くないっつってんだろ筋トレバカ!
「無理だよ!」
僕は瞬時に思い浮かんだ悪口を胸に留め、否定する。
「私の剣と魔力を継承したんだ、君以上の逸材はいないだろう。うん、是非やってくれ」
まさかカレンは初めからここまで考えていたのだろうか。
「……カレン会長がそこまで言うなら、学園長や生徒会と相談してみるよ。僕なんかに務まると思えないけど」
「そんなに自分を卑下するんじゃない。ともかく、その剣も魔力心臓も君のモノだ」
「……有難う」
まだ釈然としないが、僕は礼を言った。
「うむ。ところで、さっきから気になってたんだが……マスミとアリシア、並んでるのは変わり無いが、前より距離が近くないか?」
「そっ、そんな事無いんじゃないかなァ!?」
「気のせいです」
僕は肩幅分アリシアから離れた。
「そう言えば、アレから仲良いわね」
エリンの瞳の温度が下がっていく。
まずい、殺される。
「確かに、アリシアがいるかいないかでテンション違うよな」
一回このバカを黙らせなくては。
「初対面の私の冗談が現実になっちゃった?」
にやつきながらアリシアの顔を覗き込むレイ。
「五月蝿いです」
「おぶっ」
アリシアはそんなレイの顔面に裏拳を叩き込んで黙らせる。
「あれほどの事件をずっと一緒に戦って解決したのです、絆くらい深まります」
「そうそう」
これは嘘ではないだろう。
というか、僕もそう思っている。
「それは良い事だな」
カレンが満足気に頷いた。
元凶がよくもぬけぬけと。
「……怪我に障りますので、そろそろお暇しますね」
アリシアが回れ右したので、僕達も続く。
「あぁ、有難う」
カレンは少し残念そうに見送った。
…
次の日、僕達五人はヴィロワールに呼び出された。
「えっと、まだ何かあるんですか?」
僕はヴィロワールに問いかけた。
「君達五人……まぁ、厳密にはマスミとアリシアの二人だが。アルカディアの代表騎士団になるつもりはないか?」
「!」
代表騎士団、どういう意味かは読んで字の如く。
アルカディアを代表するチーム、という事だ。
「先日の二人は働きは見事だった。それに、エリンとレイとアレッドも一枚噛んでるし、チームといえば五人だからな」
「つまり俺達は数合わせですか……」
「何でも良いだろう。エリン・クリスタルに至っては色々やらかしてくれたが、どうせアリシア・ライアータと離れようとするまい」
「……」
まぁ、ごもっともです。
「と、いう訳で……どうだ?悪い話じゃあるまい」
ヴィロワールが僕達の目を見据えて言った。
断らせる気無いなこの人。
断る理由も無いのだが。
「俺は喜んで受けます」
アレッドが真っ先に答えた。
「僕はアリシアに従うよ」
「私も、アリシアについていくだけよ」
「じゃあ私もアリシアに投げよっと」
僕とエリンとレイがアリシアに丸投げした。
「……慎んで拝命します」
「決まりだな。団長はアリシア・ライアータで良いな?」
まぁ、この流れならアリシアだろう。
本命は僕とアリシアであり、僕がアリシアに委ねた以上、アリシア以外に無い。
「分かりました」
アリシアは頷いた。
かくして僕達は、先輩達を差し置いてアルカディアの代表騎士団となったのだった。
僕は嫌な予感がしていた。
何故、今すぐ決めようとしていたのか。
騎士団の力が必要だったからだろうか、だとすると……
「早速アルカディアの騎士団に任務だ」
「え?」
ヴィロワールが不敵な笑みと共に言い放った台詞に、僕以外が固まった。
予想してたよ学園長。
「アルカディアの本国である、シャングリラ公国の“首都シャンバラ”が謎の武装集団に占拠されたらしい。詳しい情報は入ってないが、シャンバラの代表騎士団のエースは健在だそうだ。シャンバラのエースと合流し、敵を殲滅して首都シャンバラを奪還しろ」
ふむふむ、首都が謎の武装集団に占拠されたと。
それを僕達で奪還しろと。
うん、成程成程……って、えぇ!?
「首都を落とせるような戦力を僕達だけで相手しろって事ですか!?」
「いくらなんでも人数が足りません」
エリンも僕に同感のようだ。
「……あまり人数が多いと、奇襲が出来なくなります。首都が落とされた以上、要塞は敵の手にあります。故に正面突破は不可能……だから少数精鋭なのですよね?」
「流石アリシアだ、理解が早くて助かる」
成程、だから僕達だけなのか。
“クルセイダー”クラスはそもそも戦士を育てる為のクラスだ、僕達が選抜されるのは何もおかしくない。
ただ、もう一人腕の立つ魔術師がいた気がする。
「グレーディアはダメなんですか?」
丁度思っていた事をアレッドが問うた。
「グレーディア・バールは腕こそ良いが……アリシアの指揮に従うと思うか?」
「あっ」
従うビジョンが見えない。
「では早速、明日の朝に馬を出して貰うぞ」
「はい」
そんな訳で、僕達の休息は終わった。
ところで、僕は馬に乗れないんだけど大丈夫だろうか……
僕は一抹の不安を胸に、学園長執務室を出た。
どうも、篠風 錬矢です!
お待たせしました、遂に新章突入です!
え、誰も待ってない?
ハハハ、オーケイオーケイ……知ってるァんな事ォっ!
ってな訳で、また次回お会いしましょう!
До свидания!