嘘吐き探偵の真の力
「アリシアの……第二魔法体系……」
そういえば、消耗が激しいから切り札とか何とか言ってた気がする。
「行きます……」
アリシアの足元に“月”を連想させる魔方陣が展開された。
「アリシア・ライアータの名に於いて告げる。我が新月は真実を隠し、我が三日月は万象を欺き、我が満月は虚偽を照らし出す……今こそ出でよ、“真実を嗤う月”」
アリシアが帽子を脱ぐと、帽子と前髪で隠れていた右目が露になった。
「“カレン会長は致命傷を負っていない”」
「え?」
直後、アリシアの右目が黒い輝きを放った。
「うわわっ」
僕は思わず目を覆った。
「な、何が……」
僕が目を開けると、カレンの傷が小さくなっていた。
「やはり、戦う為の魔力を残すと出来てこの程度ですか……結構使ったんですがね」
アリシアが帽子を被り直した。
「何をしたの?」
「私の嘘で真実を上書きしたんです。最も、私が死んだら解除されるので後でちゃんと治療するべきですが」
「上書き出来るなら、何で完治させなかったの?」
「それするとゲイル代理と戦う力が残らないので。それと、誤魔化してるだけで治してる訳じゃありません……しかし、傷を誤魔化せば、治療が間に合う可能性があります」
アリシアはハンカチをカレンの胸の傷に当てた。
「……最も、遅くなれば出血多量で手遅れになりますが。そうなる前に行きましょう」
僕は頷きかけ、大事な事を思い出した。
「でも僕、剣折れちゃったんだけど……」
いくら水の魔力を得たとはいえ、すぐに使いこなせるとは思えないので、剣が無いのは心許ない。
「剣ならそこにあるじゃないですか」
「え?」
アリシアが指差した先には、カレンが先程地面に突き立てた剣があった。
「カレン会長はマスミに全てを託したんです、使いましょう」
「……分かった」
僕はカレンの腰から剣の鞘を外し、地面から剣を抜いて鞘におさめた。
「待っててカレン会長……行くよ!」
「はい」
僕達は駆け出し、その勢いのまま二人で扉を蹴り開けた。
そこに、黒幕はいた。
「覚悟しろ学園長代理……いや、ゲイル・ブライナー!」
「叩き潰されてから学園長の居場所を教えるか、学園長の居場所を教えてから叩き潰されるかは選ばせてあげます」
僕は剣を抜き、アリシアは人差し指をゲイルに向けた。
探偵らしく犯人に突きつけているのではなく、いつでも〈邪閃光〉を放てるようにだ。
しかし、ゲイルは笑っていた。
「クハハ……魔法が使えない小僧と満身創痍の小娘に何が出来る?私を叩き潰すだと?面白い冗談だ」
「冗談なんかじゃないさ」
僕は剣に水を纏って地を蹴った。
「何っ!?その剣と水の力……そうか、やってくれたなカレン・クトゥリアム!〈風剣錬成〉!」
ゲイルの右手に風が集い、剣となった。
「今だっ!」
「分かってます……〈邪閃光〉!」
アリシアが放ったレーザーが僕を追い越し、ゲイルの右手に直撃した。
「ぬぅっ!」
風剣が弾かれ、霧散した。
「喰らえ、〈水魔斬〉!」
真横に薙いだ水の刀身がゲイルの腹を捉えた。
「ぐぅっ……ふん!」
「がっ!」
ゲイルが僕を蹴りあげた。
「何で……」
「魔力装甲は戦いの基本だ」
ゲイルが風を纏った拳を振り上げた。
「やばっ……!」
しかし、僕は信じていた。
「エリンの技、お借りします!〈闇剣展開〉!」
無数の闇剣がゲイルに襲いかかる。
ゲイルはその拳で闇剣を打ち払った。
僕はその隙に距離をとった。
「おのれ小娘!〈風魔弾〉!」
四つの風の塊が放たれた。
「マスミ一私三!自分で対応して下さい!〈暗黒障壁〉!」
闇の障壁が風の塊を防ぐ。
「〈水流槍〉!」
僕は水の槍を放ち、風の塊を貫く。
ゲイルは紙一重で水の槍を回避した。
「何故、力のみならず技までも……!」
「分かるんだ、力の使い方が。カレン会長は願いと共にこの力を託した。ならば僕は、それに報いるだけだ。〈水魔斬〉!」
その場で剣を薙ぐと、三日月型の水塊がゲイルに向かっていった。
「〈闇爆魔砲〉」
僕に合わせ、アリシアも攻撃を仕掛けた。
「おのれ……容赦はせんぞ!〈暴風の聖剣〉!」
瞬時に風の大剣を錬成し、振り抜いた。
すると、暴風の如き巨大な斬撃が僕達の攻撃を掻き消した。
「……決めます」
「!」
それだけ言って、アリシアは姿勢を低くして突撃した。
「貴様らの魔法など、私には通用せん」
「そうですか」
ゲイルが言った時には、既にアリシアはゲイルの懐まで肉薄していた。
アリシアは両手両足に闇の魔力を纏っていた。
「しまっ……」
ゲイルの顔がひきつった。
「魔法が効かないのなら!」
跳躍し、顎にアッパーを叩き込む。
「打撃で直接!」
アッパーを受けて上を向いたゲイルの顔に踵を振り落とす。
「ぶっ飛ばすまでですっ!」
空中で回転し、こめかみに回し蹴りを決めてフィニッシュ。
足に纏っていた魔力が爆発し、ゲイルを真横に吹き飛ばした。
「トドメを刺しますよマスミ!〈闇爆魔砲〉!」
「〈水流槍〉!」
壁にめり込んでいたゲイルに、全力の追撃が炸裂した。
「ぐぉあぁぁぁぁ!」
爆音と共に断末魔とおぼしき声が響き渡った。
「あ、あれ喰らってまだ意識あったんですか……」
「凄く頑丈だったね……」
僕達は壁にもたれ掛かった。
勝ったんだ、僕達はアルカディアのナンバー2を打ち倒したのだ。
「……でも、アリシアのデスコンボ喰らって意識あったんだよね」
魔力装甲を使っていた敵にアレでトドメが刺せたのだろうか?
「そう言ったじゃないですか」
もしあの断末魔が演技だとしたら。
「〈水魔斬〉!」
僕は直感、というか既視感で斬撃を放った。
「!」
アリシアも気付いたようだ。
僕達の眼前には、ゲイルの〈暴風の聖剣〉が迫っていた。
「〈暗黒障壁〉!」
アリシアが防御魔術を展開するが、あっさりと破壊され、僕達は壁に叩きつけられた。
「がはっ!」
「まだ、そんな大魔法を使う余力があったなんて……」
アリシアが魔力の絶対量の差に舌を巻いた。
「私に土をつけた事は褒めてやろう……だが貴様らだけは絶対に許さんぞ!引き渡す前に徹底的に痛めつけねば気が済まん!」
ゲイルが汚れを払い落としながら歩いてきた。
「引き渡す、だって……?」
「まだ、上がいるのですか……」
「貴様らに今ここで教える必要は無い」
「……ごめん……カレン会長……!」
僕達は敗北を確信した。
そうだ、僕達なんかがカレンすら屈した相手に、アルカディアのナンバー2に勝てる訳無かったのだ。
ゲイルを倒せるのは、やはり……
「私の力が必要なようだな」
妖艶さと威圧感を孕んだ声に、僕達……ゲイルすらも固まった。
どうも、篠風 錬矢です。
いつも電車に乗ってから投稿しているのですが、今朝は執筆作業に夢中で忘れてました。
さて、ついにアリシアさんの第二魔法体系が明らかになりましたね。
何というチート!
まぁ、流石に死者蘇生は出来ませんけどね。
さて、また明日お会いしましょう!
До свидания!