異世界転生したらオタクと腐女子に分離してた LEVEL 1-1
LEVEL 1-1
時は数カ月前に遡る。
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その説明は私からさせてもらいます。
2人がマイルームにいるはずのない自分以外のプレイヤーがいることに戸惑っていると、見慣れたフェアリーが現れた。
フェアリーはプレイヤーごとに用意されたマイルームに1人ずつ配置され、プレイヤーの冒険を手助けしてくれる。
小さな妖精で背中の羽で浮遊している エンジェルズ ガーデン の世界のマスコットだ。
「まずは貴方達が何故マイルームに他のプレイヤーがいるのかを説明します。
単刀直入にいうと、お二人にとって目の前にいる人は貴方達自身です。
エンジェルズ ガーデン の世界に取り込まれる際、貴方達は、1つの肉体に男性と女性が”同居”している人間であると判断され、最適化された結果、ベル=シュヴェールトという男とリン=オニキスという女に”分離”されたのです。
ここまではよろしいですか?」
「ちょっと待ってくれ理解が追い付かん、そもそもなんでフェアリーが普通に喋りかけてくるんだ、取り込まれたって何だ、元々コイツと俺は一人で分離しただって?全く意味がわからねーんだけど!」
ベル=シュヴェールトと呼ばれた男、ベルがフェアリーに次々と質問をする。
一方リン=オニキスと呼ばれた女、リンは自身の手を見、そして体を触って心底理解出来ないといった声を出した。
「わたしは・・・だれ?」
「今までの話は理解してもらえましたね?では順番に説明します。」
フェアリーは全く理解出来ていないというベルと自分は誰なのかという問いかけたリンの返答を無視し一方的に話を進める。
「現状を理解してもらう最適解は、そうですね・・・ではお二人ともVRを外してみてください。」
フェアリーが少し考えた後、浮遊したまま人差し指を立て、提案をした。
「「そんなの簡単に決まって・・・・・・・え?取れない・・・」」
ベルとリンはVR機器を外そうと頭に手を付けたまま硬直した。まるで頭をかかえているような体勢になっている。
「どうやらこの世界に取り込まれた、という事は理解していただけたようですね。」
フェアリーは屈託のない笑顔で笑い、ベルとリンは文字通り頭をかかえることになった。
「・・・オーケーわかった、わかりたくないけどわかった。で、だ。早急に答えて欲しい質問があるんだが。」
ベルは質問の意を表すため手をあげる。
「奇遇ね、わたしもよ。」
リンもフェアリーを見る。フェアリーは、どうぞ というふうに目で続きを促す。
「コイツ誰だ!!」
「コイツ誰よ!!」
フェアリーが、やれやれといった感じで答える。
「ですから最初に言った通り貴方達そのもの、いえ だったもの と言った方が正しいでしょうか。先ほど言った事と重複する部分がありますが、いきなりだったので仕方ありませんか。」
このフェアリー、ムカツク。ベルとリンはそう思った。
「最初から説明しますと、貴方達はこの、エンジェルズ ガーデン というオンラインゲームのVR版αテストに参加した、そうですね?」
ベルとリンは頷く。
「ログインしようとした時何かありませんでしたか?」
「そういえばバチンッ!と音がしたような。」
「確かにバチンッってなったったわね。」
ベルとリンがフェアリーの問いに同じ答えを返すと二人は互いをムっと睨んだ。
「そう、その時です、貴方達がこの世界に取り込まれてしまったのは。たとえるならエンジェルズ ガーデンの住人そのものになってしまったのです。」
ベルとリンは信じられないといった様子だがエンジェルズ ガーデンの住人そのものになってしまったということは理解したようだ。
「そこまでは理解したわ、納得はしてないけど、でも何で私は女になってるわけ?」
リンは自分の胸をバンっと叩く、その胸は絶壁だった・・・。
「・・・貴方達、自分が男と女、二面性を持っていたことは自覚してましたか?」
フェアリーの問いにベルとリンは、うっ、と声を漏らす。
「心当たりがあるようで。そのことからこの世界にデータとして取り込まれる際、男性のパーソナルデータと女性のパーソナルデータ、別々の人物として認識され二人に分離してしまったというわけです。」
「なんとなくは理解したわ、でも女の身体を持つって複雑な気分ね、嬉しいけど。それで理解したところで次の質問なんだけど、このゲームのVRαテストってこんな危険なものだったの?世界に取り込まれた挙句分離して二人になっちゃうなんて普通じゃないでしょ。」
リンの質問にフェアリーは目をつむる。
「えぇ、今回のことはとんでもないエラーでした。ですがこの現象が起きたのは一番最初にこの世界にログインした貴方達だけです。この想定外のエラーが出た瞬間サーバーは強制的に閉じられ、今は接続出来ない状態でしょうね。」
「ちょっと待ってくれ、さっきから気になってたんだが、現実世界の俺の体はどうなってるんだ?」
ベルの質問にリンも、そういえば、と声を漏らした、自分が女の体になった衝撃の方が強かったのだろう。
「・・・これは憶測でしかないのですが、2つの可能性があります。1つは、貴方達の脳の情報だけがこちらの世界で複製され、貴方達のオリジナルには何も影響がないという可能性です。」
「ふ、二つ目は?」
2人は恐る恐る尋ねる。良い例から説明されたのでおそらく悪いほうの可能性だろう、と察したのだ。
「大変言いにくいのですが、貴方達の肉体には魂がない空っぽの状態で意識がない、という可能性です。」
「ちょ、ちょっとまってくれ!もしそうだとしたら俺の肉体の寿命ががら空きでマッハなのは確定的に明らかじゃねーか!確認する方法はねーのか!?」
「残念ながらありません。何故なら貴方達のパーソナルデータが送られてきたのは一瞬の出来事でした。例のバチンッと音がしたのは、ほんの一瞬の出来事だったのではないですか?」
ベルとリンは顔を見合わせ、フェアリーに頷き返す。
「しかしながら貴方達のパーソナルデータからお二人を具現化するのには一日以上の時間がかかりました。ですから、おそらくですがこの世界での1日は現実世界の0.1秒にも満たないと思われます。
高性能機器がデータを超高速で処理するスピードの世界は人間の世界と時間の感覚が大きく異なるのです。」
「なるほど、じゃあその件はひとまず安心だな。で、俺達はどうやったら元の世界に戻れるんだ?ログアウトしたらいいのか?」
「戻ったら私はどうなっちゃうわけ?」
「戻れません。」
「「え?」」
「ですから、戻れません。」
フェアリーはととんでもないことをさらりといった。






