本当に好きな人は あなた
奏多に、「記憶を思い出させて!」と言ったものの、奏多の条件で恭介も協力することになり、複雑な真優だったけどーーー!?
今日は、奏多と品川君一緒に水族館へ行く約束をして、駅前で待ち合わせしている。
あたしが、品川君と一緒に水族館に行ったことがあるみたいで、それなら水族館に行ってみようと、奏多か提案した。
「真優ちゃん、お待たせ!」
品川君が、少し遅れて待ち合わせ場所にきた。
「あれ、奏多は?」
品川君は、キョロキョロと辺りを見渡した。
「あたしも、さっき来たところだけど、まだみたい」
奏多が、遅れてくるなんて珍しい。
その時、品川君のスマホの着信音が鳴り響いた。
その電話は、奏多からだった。
「わかった。お大事に」
奏多と少し話した後、品川君は電話を切る。
「奏多、どうかしたのー?」
「風邪引いて、来られなくなったって」
「えっ、大丈夫なの!?奏多についててあげないと」
奏多の両親は、2人ともお医者さんで、家にいないことが多いから、独りで心細いかも知れない。
「真優ちゃんが行かなくても大丈夫だって。邪魔しちゃ悪し」
「え?」
「あ、いや……今日は親がいるみたいだから、心配しなくても大丈夫ってこと」
品川君の様子が、何処となくおかしい感じがしたけど、あたしは気づきもせず、少し安心した顔で品川君をみた。
「そっかー。良かった」
「うん。じゃあ、俺達だけで行こう」
あたしと品川君は、水族館へ向かった。
「お客様にお知らせします。間もなくイルカショーが始まりますのでーー」
水族館に到着して、館内を回らないうちに、イルカショーのアナウンスが流れてきた。
「ちょうど、イルカショーの時間みたいだね。観に行こう!」
品川君はあたしの腕を掴むと、イルカショーをやる会場に向かって歩き始めた。
会場へ行ってみると、観客席は後ろの席まで埋まっていたので満席かと思ったら、よく見ると前の席がまばらだけど空いていた。
「前の席が空いてるなー。座ろうか?」
「う、うんー」
品川君の後について、一番前の空いている席へ移動した。
イルカのジャンプで、水しぶきで濡れないように水族館の方で用意してもらったシートも濡れてしまい、髪にもいくらかかかってしまい湿っていた。
「冷たい!」
あたしは、ハンカチをポケットから取り出すと、自分の髪を拭いた。
「品川君は大丈夫?」
品川君の方へ目をやると、肩を震わせながら、笑いをこらえていた。
何で、こんな状況で笑ってるの!?
「ごめんごめん。真優ちゃんが記憶をなくす前、水族館に来た時も同じことがあったなっと思ってー」
そう言いながら、まだ笑ってる。
あたし達、本当に付き合ってた?のかな……。
記憶を失う前って言っても、少しは想い出してもいいはずなのに全然、想い出す気配はない。
イルカショーが終わると、館内を観て回った。
鞄についていたペンギンのストラップを思い出して、ペンギンコーナーに目が止まった。
「ねえ、品川君。あのストラップのことだけど……」
「ストラップ?ああ、ペンギンのかーー」
「あれ、本当に品川君からのプレゼントなのかなと思って……」
「何?疑ってるの?」
品川君が、あたしの顔を覗き込んだ。
近っーー!!
「ご、ごめん。何だか、実感がないって言うか何て言うか……」
思わず、品川君から目を逸らす。
「あの時は、真優ちゃんが欲しそうにしてて、俺が内緒で買ってプレゼントしたんだけどね」
「……」
品川君が同じのを持っていたのはたまたまで、あたしが持っているのは、本当は奏多からのプレゼントじゃないかななんて一瞬、思ったけど、品川君からのプレゼントは本当みたいだ。
「俺達のデートの記念にって、プレゼントしたんだけど、真優ちゃんにしては、奏多から貰いたかったわけだ?」
品川君が後ろから耳元で、囁くように言うものだから、ドキドキしてしまう。
「そ、そろそろ……お土産でも、買いに行かない……?」
心臓の音をかき消すように、あたしは少し大きめの声で聞いてみた。
「そうだな。そろそろ行くか」
品川君は、あたしから離れると歩き出した。
品川君が離れて、少しホッと一息ついたけど、ドキドキ感が止まらないでいた。
奏多以外の人にドキドキするなんて、あたしどうかしてるよ~~!!
お土産コーナーに行くと、目移りしそうなくらい商品がズラッと並んでいるのを見て、次第にドキドキ感は消えていった。
いろいろと見て行くと、白クマのカップに目が止まった。
奏多、白クマ好きだし買って行こうかな?
きっと、帰りに渡しに行ったら、びっくりするよね?
でも、品川君の前では何だか買いづらい。
「真優ちゃん。トイレ行って来るから、ここで待っててー」
「うんー」
今のうちに、お土産買えるかも知れない!
品川君がいない隙を見て、急いで買いに行った。
レジでお金を払い終わって戻ってみると、品川君が戻っていた。
「ご、ごめん。ここで待っててって言われたのに」
「別にいいんだけどさー。お土産買って来たんだ?」
あたしが持っている袋に目をやった。
「あ、うん。お、お母さんに頼まれてたから……」
あたしは慌てて袋を後ろに隠すと、しどろもどろに応えた。
「ふーん。そうなんだ?」
それ以上、何も言わずに品川君はお土産を見始めた。
「ーーー」
あたし、どうしてうろたえてるんだろう?
よく考えたら、奏多にお土産買ったって隠すことじゃないよね?
結局、何も思い出せずお土産を買っただけで、帰ることに。
「真優ちゃん。手出して」
電車の中で、品川君に言われて手を出すと、袋からブレスレットを取り出し、あたしの腕にはめた。
「これ……」
「うん。2回目のデートの記念に」
「デートって……記憶を思い出す為に、奏多がセッティングしただけなのに」
「いいのいいの、気にしなくて。俺との思い出を沢山作って、記憶がなくてもブレスレットを見るたびに、俺のこと思い出してほしいし」
品川君は笑顔で笑いかけてくれた。
「ーーー」
品川君の言葉に、何だか胸がキュンとしてしまう。
「あーあ。それにしても、記憶を失う前も真優ちゃんが奏多のこと好きだったなんて知らなかったなー。俺にとっては、始めての告白だったのに」
がっかりしながら、肩を落とした。
「品川君、モテそうなのに告白が始めてってー」
思わず笑ってしまったけど、品川君は溜め息混じりにあたしをみた。
「告られたことは、数えきれないほどあるけど、いまいち本気で好きになる子はいなかったんだよね」
「何よ、自慢?」
あたしは、軽く品川君を睨みつけた。
「違う違う!俺を本気にさせたのは、真優ちゃんが始めてだってこと」
真剣な瞳で覗き込まれて、あたしはドキッとしてしまう。
また、ドキドキが止まらない。
あたしは、奏多のことが好きなのに、どうしてあたしのことかき乱すようなこと言うの?
品川君と別れた後、お土産を持って、あたしは奏多の家へ向かった。
奏多の顔を見たら、きっと、こんな気持ちなんて忘れるかも知れない。
奏多の両親は共働きだし、誰もいないはず。看病に行ったら、惚れ直してくれるかも!!
いっきに、妄想が膨らんだ。
奏多の家に到着すると、あたしは奏多に逢えるのを期待して待っていたのに、中から出てきたのは、千紗ちゃんだった。
「どどど……うして千紗ちゃんがいるの……?」
あたしは、やっとの思いで声を出した。
「奏多君が風邪を引いたって聞いて、親も仕事でいないみたいだし、心配だから看病に来たの」
「……」
何で、千紗ちゃんを家に上げるの?
そう思った瞬間、自分が嫌な女になってしまう。
「千紗ー?誰だった?」
奏多が壁を伝って玄関に出てきた。
「奏多君!寝てないとダメじゃない」
千紗ちゃんが慌てて、奏多の身体を支えた。
「真優……」
具合が悪いのか、辛そうに奏多はあたしを見る。
「奏多、大丈夫?心配だったから、様子を見に来たんだけど……」
「熱はあるけど、大丈夫だからーー」
そう言った奏多だけど、全然、大丈夫そうじゃない。
「今日は悪い……。せっかく、恭介と記憶を戻す約束したのに。それで、何か思い出したか?」
奏多に聞かれて、あたしは無言で首を振った。
「そっか……また、次を考えないとな……」
奏多は、千紗ちゃんに支えられながら、残念そうな顔をする。
「奏多君。もう、寝ていたほうがいいんじゃない!?」
千紗ちゃんが、心配そうに奏多の顔を覗き込んだ。
「うんーー」
奏多は千紗ちゃんに支えられながら、戻ろうとした。
「か、奏多。あのーー」
あたしは、奏多にお土産を渡そうとした。
「ごめん、真優。奏多君、熱があるし。今日は、もう帰って」
「えっ、あ、ちょっと待っーー」
まごまごしているうちに、千紗ちゃんに、玄関のドアを閉められてしまった。
「ーーー」
渡しそびれちゃったーー。
あたしは、仕方なく帰ろうとした。
歩きながら、何だか虚しくなって、あたしはその場にしゃがみ込んだ時だった。
「真優ちゃん!大丈夫か!?」
あたしの目の前に、品川君が慌てた顔で走ってきた。
「品川君!?」
あたしは驚いた顔で、品川君を見上げた。
「ごめん。真優ちゃんが、奏多の所に行くような気がして、後を追いかけて来たんだ」
「もしかして……千紗ちゃんが来てるってことも知ってたの?」
ーーじゃなきゃ、追いかけて来たりしないよね?
品川君は、無言のまま頷いて見せた。
「ごめん。奏多から電話きた時、言ってたんだ。でも、その時は奏多の所に行くとは思っていなかったから、言うが必要ないと思っていたんだけどーー」
「……」
あたしが、ショックをうけると思って、気を使ったってこと?
「お土産はお母さんのとか言ってたけど、本当は奏多にだったんだ?」
あたしが持っていたお土産の袋を見た。
「こ、これは……」
慌ててお土産の袋を後ろに隠そうとした時、急に腕を掴まれて品川君に抱きしめられた。
「もう、奏多のことは忘れろよ!あいつとは、もう終わってることだろ!?」
「……か、奏多は、そんなこと言ってたけど……終わってるなら、どうして奏多との想い出だけが、記憶に残ってるの?」
「それは……」
あたしに聞かれて、品川君は困った顔をさせた。
「終わってないから、記憶に残ってるってことじゃないの!?」
きっと、そうだよ!!
「俺は、そうじゃないと思うけど?別れたことで、想い出したくない過去になって、そこだけ封印したままじゃないのかな?」
「そんな……」
過去を想い出したくないから、記憶にないって言うのーー?
ズキン!と頭の中に激痛が走り、頭を押さえてその場へしゃがみ込んでしまった。
脳裏にビデオの早送りみたいに映り出されて行く。
「真優ちゃん、大丈夫?顔色が悪いけど……」
品川君が、心配そうにあたしの顔を覗き込んだ。
顔を上げようとした時、また、激しい激痛に襲われて、あたしはその場に気を失ってしまった。
「真優ちゃん!大丈夫か!?」
品川君の声が、耳元でかすかに聞こえてきたけど、意識が遠のいていった。
ピーポーピーポーーー。
遠くの方で、かすかに救急車のサイレンの音が耳に聞こえてくる。
救急車ーー。あたし、どうしたんだっけーー?
重い瞼をやっとの思いで開いた。
見覚えのない天井が、あたしの瞳に映る。
「真優ちゃん!?」
「真優!?」
聞き覚えのある声が聞こえてきた。
ゆっくりと顔を横に傾けると、そこには、奏多や品川君が心配そうに立っていた。
「ーーーここ病院?」
「憶えてない?奏多の家に行った帰り道、倒れて救急車で病院に運ばれたんだけど」
品川君がいきさつを説明する。
「恭介に聞いて、俺も千紗と一緒に駆けつけたんだけど、2日も目が覚めない状態だったんだ。でも、良かった~。目が覚めて」
奏多が安心したように、ホッと胸を撫で下ろした。
「今、真優ちゃんのお母さん。医師の所に行ってるから俺、呼んでくる」
そう言うと、品川君は病室を出て行った。
「ーー奏多……いろいろとごめんねーー」
頭の中がもうろうとしたまま、あたしは奏多に謝っていた。
「いや、俺は何もしてないから。恭介の方が毎日のように病院に来てたし」
その時、ドアをノックする音がして女の子が入ってきた。
「ーー真優!?目が覚めたの!!」
最初は驚いた顔でこっちを見たけど、嬉しそうに近寄ってきたその顔はよく知っている女の子だった。
「千……紗」
あたしは、呟くように名前を口にした。
「はぁ~。また、記憶がなかったらどうしようかと思ったけど、その様子だと大丈夫みたいだね」
「千紗、何言ってるの?あたしは記憶なんてーー」
と、途中まで言いかけて、口に手をやった。
「真優ーー?もしかして、記憶が戻ったんじゃないの?」
「えっ、本当か!?」
千紗に言われて奏多が、驚いた顔であたしを見る。
「……」
そういえば、事故にあってからの記憶が何となく頭の隅に残っている。
「真優、1つだけ質問ね。今でも奏多君と付き合ってたりする?」
千紗は真剣な瞳で、あたしの顔を見る。
「奏多と……?そんなはずないじゃない。千紗の彼氏なのに……」
「やっぱり、記憶が戻ってる!でも、それ聞いてホッとした~。安心したら、喉が渇いちゃった。あたし、飲み物買ってくるね!」
千紗は、嬉しそうに病室を出て行った。
「……俺も、安心した。真優の記憶が戻らなかったら、どうしようかと思ってたから」
奏多も、ホッと安心した顔をさせる。
「……奏多、ごめんね。今まで、わがままを言ってたような気がする……」
「本当だよー。俺に、記憶を戻させてとか言ったりしてさー」
奏多は大きな溜め息をつく。
段々、想い出してきた!そんなこと言ったんだった。
「でも、結局は俺じゃなくて恭介に想い出させてもらったわけだ?やっぱり、今カレだな」
奏多は苦笑いをすると、近くにあった椅子に座った。
「奏多だって、あたしの記憶を戻すのに協力してくれたじゃない……少しは、あたしに未練があるからだったりして……?」
あたし達、自然消滅なんだよ?
もともと、嫌いになって別れたわけじゃないんだし、未練があってもおかしくはない。
奏多に、モヤモヤしてる気持ちもあるし、未練が残っているは自分かも知れないけど、奏多の気持ちをはっきり聞かないと前に進めないような気がする。
「未練はない……真優をほったらかしにして、自然消滅になったこと責任感じてたんだ。だから、今までの罪滅ぼしに、記憶を想い出すの手伝っただけだから。それに、早く想い出してもらわないと、俺が真優と一緒にいると千紗が悲しむからー」
「……そんなに、千紗のことが大切な……の?」
「ああー」
あたしの質問に、奏多は大きく頷いた。
「ーーー」
奏多の返事に、余りショックを受けていない自分がいた。
「恭介だって、真優のこと大切に想ってるんじゃないかな?」
「品川君がーー?」
「ああ見えて、恭介良い奴だし。真優の記憶も取り戻そうと必死だったんだ。大切に想ってなかったら、どうでもいいんじゃないかな?」
「……」
「俺さ……真優が恭介と付き合い始めたって聞いて、ホッとしたんだ。俺のせいで、彼氏を作るのがトラウマになってるんじゃないかと思ってたから……」
安心した顔であたしを見つめる奏多に、何も言えずにいた。
トラウマと言うより、突然、連絡が途絶えてしまって、奏多のことが気になっていた。
それに、いつの間にか千紗の彼氏になっていて、今まであたしの隣にいたのに、友達の隣に奏多がいることで、凄く違和感を感じていた。
「真……優……!?」
あたしと奏多が話していると、お母さんが声を震わせ涙をを浮かべながら病室に入ってきた。
「お母さん……」
「良かった!!目が覚めて」
お母さんは、あたしをギュッと抱き締める。
「お母さん、ごめん。心配かけてーー」
「いいのよ……でも、本当に良かった」
お母さんは嬉しそうにもう一度、あたしを抱き締めた。
その後、先生が病室に入ってきて、診察してもらった結果、一週間後に退院が決まった。
退院が決まってからも、品川君が毎日のように病院に来てくれる日が続いた。
「真優ちゃん。明日、退院だね」
いよいよ、明日が退院の日。
いつものように、品川君がお見舞いに来ていた。
「品川君も有り難う。毎日、来てくれて。学校は大丈夫?」
「単位とれてるし、大丈夫だよ。真優ちゃんは心配性だな~」
品川君は笑って、あたしの顔を覗き込む。
トクン!!
胸の鼓動が波打つ。
「そ、そうだ。昨日、千紗がりんご持ってきてくれたの。食べる?」
「うん。じゃあ、俺が剥いてあげる」
そう言って、品川君はベッドの隣にあった椅子に座り、果物ナイフとりんごを持つと皮を剥き始めた。
「えっ、大丈夫?」
品川君がりんごの皮を剥くなんて意外だ。
「こう見えても、弟達にりんご剥くのせがまれて剥いてるから、任せて」
確かに、指先を上手に使って器用にりんごの皮を剥いている品川君をつい、見つめてしまう。
品川君のファンが見たら、ますます好きになっちゃうかも知れない。
「ーーッ!!」
そんなことを考えていると、品川君が急に声にならない声で顔をしかめた。
「大丈夫!?切ったの?」
あたしは、慌てて品川君の手を掴むと傷口をみた。
「平気平気。少し切っただけだから」
品川君は、笑ってあたしに言う。
「良かった~」
あたしは力が抜けたように、起こしておいたベッドの背もたれにへなへなと寄りかかった。
「真優ちゃんに、そんなに心配してもらえるとは思わなかったなー。てっきり、俺のことはどうでもいいのかと思ってたいたから……」
「どうでも良くなんかない!!」
思わず、感情的になっていたことに気がついて、ハッとさせた。
今まで、奏多のことでモヤモヤしていたのに、いつの間にか奏多より品川君が心の中にいたことに、今頃、気がつくなんてあたしって、何てバカなんだろうーー。
「どうしたの?真優ちゃん」
皮を剥いたりんごをお皿の上に乗せると、品川君は心配そうな顔をしていた。
「あ……あの、品川君。お試しで付き合い始めたことなんだけど……途中で、中断しちゃった感じだったし、お試し期間って、まだ有効かな……?」
「お試し期間は、もう終わりだから、今までのことは忘れて」
「ーーー!!」
品川君の言葉が、ツキンと胸に突き刺さる。
そうだよね……。今頃、そんなこと言われても、困るよね。記憶がない間、奏多のことばかりだったし……。
「でも、お試し期間は終わったけどーー」
品川君が、何か言いかけたのも聞かずに、
「もう……帰って」
あたしは、追い返すような言い方をしてしまった。
「真優ちゃん?」
「ご、ごめん。ちょっと、頭が痛いから少し寝ようと思って……」
「えっ、大丈夫か!?」
品川君は、あたしのおでこに手をやった。
ドキンドキン……。
一気に心臓がが音をたてて、激しく波打つ
。
品川君のことが好きだと気づいたら、意識しすぎて、思わず布団に潜り込んでしまった。
「……わかった。とりあえず、帰るよ」
品川君は、少しためらった声で言うと、病室を出て行った。
「……」
奏多には千紗がいるって知っていても、あたしがまだ、奏多のこと好きだと思ってるよね?
だから、お試し期間は終わりだなんて言ったのかも知れない……。
その夜、眠れないまま朝を迎え、退院する日を迎えた。
「真優、荷物これで最後ね?」
お母さんが、キョロキョロと病室の中を見回した。
「うん。これで、最後だから」
手に持っていた紙袋をお母さんに渡した。
お母さんと病室を出ると、廊下には品川君が待っていた。
「あら、恭介君。毎日、悪いわね。来てくれて」
お母さんは、親しげに品川君の名前を呼ぶ。
「ちょっと、お母さん!いつの間に名前で呼ぶほど、品川君と親しくになったのー?」
あたしは驚いた顔でお母さんを見る。
「だって、毎日お見舞いに来てくれて、おまけにお土産まで持ってきてくれるのよ?親しくならないわけがないじゃない」
お母さんは嬉しそうにニッコリ微笑んだ。
「ーーー!!」
毎日、お土産って……。
品川君、何考えているの?
「じゃあ、お母さんは先に帰っているわね。後は、宜しくね恭介君!」
あたし達に気を使ったのか、お母さんはさっさと行ってしまった。
「ーーや、やだなぁ~。お母さんってば……何、勘違いしてるんだろうね」
あたしは苦笑いすると、歩き始めた。
久し振りに病院の外に出ると、冷たい空気に思わず身震いしてしまう。
「品川君、ありがとうね。今日も来てくれて」
歩きながら、あたしはお礼を言った。
「俺も真優ちゃんに話しがあったから……」
「えっ、話って……?」
もしかして、お試し期間のこと……?
何だかそんな気がして、ドキドキと鼓動が早くなる。
「真優ちゃんが、奏多のこと忘れられないのはわかってる……」
急に、品川君が真顔になって話し始めた。
「ーーー」
「でも、奏多には湯沢さんがいるし、いつかは奏多より好きな男が現れたら、そいつのこと好きになってとられるのかと思ったら、真優ちゃんを誰にも渡しくない。奏多の代わりでもいい、正式に俺と付き合ってくれないかな!?」
「ーーー!!」
品川君の告白に、じわっと涙が溢れてきた。
「ご、ごめん!嫌なら、俺が言ったこと忘れていいから」
あたしが急に泣き出したものだから、慌てた様子でいる品川君に首を振った。
「ごめん……そうじゃないの。品川君の告白に、つい嬉しくて……」
「ーーー!!ってことは、OKってことか!?」
「うん」
あたしは、大きく頷いて見せた。
「良かった~。真優ちゃんに断らたら、どうしようかと思った」
品川君は、嬉しそうにあたしを抱き締めた。
最初に出逢った時は、チャラ男かと思ったけど、人は見かけに寄らないとはこのことだ。
「俺、絶対に奏多のこと忘れさせてみせるから」
「ううん。その必要はないよ……奏多のことは、もう過去のことだから。それに、今あたしが好きなのは品川君だから!」
品川君の腕の中で、ドキドキする心臓の音をかき消すように、あたしは声を振り絞った。
「えっ、でも記憶をなくした時、奏多の記憶だけが忘れてなかったから、てっきり、まだ奏多の事が好きなんだとばかり……」
品川君は、信じられない顔であたしを見る。
「奏多だけ覚えていたのは多分、奏多と連絡がとれないまま自然消滅したから、今まで言えなかったことが心残りのまま終わったから覚えていたのかも……」
あの時は、忙しいとか言って連絡もくれない奏多に、凄く腹が立っていた部分もあった。
「じゃあ、本当に今は奏多のこと何とも思ってないんだねーー!?」
品川君はあたしから身体を離すと、真剣な瞳で聞いてきた。
「うん。でも、千紗の隣にいる奏多のこと見る度、モヤモヤしてたから、まだ奏多のこと好きなのかと思ったけど」
あたしは大きく頷いた後、話を続けた。
「でも、あたしの隣にいた人が急に引っ越して、別の場所で馴染んでいくのを見て、違う人に見えみたいな……何て言うかそんな感覚に似てて……だから、好きとは違うことに気がついたんだけど……」
上手く説明できずに、言葉を詰まらせた。
「良かった~!!」
無邪気な笑顔で、品川君はもう一度、あたしを抱き締めた。
「でも、品川君のファンの子達に、後で締められそう……」
一瞬、ふと脳裏を横切った。
品川君は街でも、女の子に声をかけられるのに、品川君が通っている学校の子達に知られたら、どんな目に遭うか……。
でも、学校が違うのがせめてもの救いだけど、それはそれで心配のタネでもある。
「心配しなくても大丈夫。真優ちゃんのことは、俺が守るから」
品川君は真剣な瞳で、あたしの顔を覗き込んだ。
「沢山の女の子に告白されたことはあっても、今まで本気で好きになったことはいなかったんだ。でも、真優ちゃんと出逢って、奏多のこともあったけど、それでも真優ちゃんのことが、嫌いになることはなかった。今は大切にしたいって想ってる」
「品川君……」
品川君の言葉が、キュンと胸にしみこむ。
「今日から彼女になったんだから、品川君って言うのなしにしようぜ」
「じゃあ、恭介……君」
品川君に言われて、恥ずかしそうに呼んでみる。
「奏多のことは、君はつけてないのになー。俺だけかぁー」
子供がすねるように、口を尖らせているのを見て、あたしは思わず笑ってしまう。
「何、笑ってるんだよ!」
「ううん。可愛いなと思って」
「俺が?あのな~」
「ふっ、冗談だってばーー!!」
昼下がりの空の下、あたし達は無邪気な子供のように笑いあった。